この記事は2022年12月21日(水)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『国債10年金利のマクロ・フェア・バリューはどこ?』を一部編集し、転載したものです。

国債10年金利
(画像=christianchan/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
  2. フェア・バリューを把握することが重要
  3. マクロ・フェア・バリューの算出
  4. 長期金利が直ちに新しい上限に達したのは整合的な動きである

シンカー

  • 政策変更など債券市場全体に大きな影響を与える動きがある局面ではマクロ・ファンダメンタルスを基に算出したフェア・バリューを把握することが重要だろう。

  • 日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(対GDP比%)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。

  • モデルを基に足元のマクロ・フェア・バリューを計算すると0.25%程度となる。

  • 日銀の今回の決定によりYCCの影響が小さくなった(最大-38bp)とマーケットが判断したとみられることを考えれば、長期金利が直ちに新しい上限に達したのは整合的な動きであると考えられる。

フェア・バリューを把握することが重要

2022年12月の日銀決定会合で日銀は国債10年債利回りの誘導目標の変動幅の容認レンジを従来の±0.25%から0.5%へ拡大した。政策変更など債券市場全体に大きな影響を与える動きがある局面ではマクロ・ファンダメンタルスを基に算出したフェア・バリューを把握することが重要だろう。

日本の長期金利(10年国債利回り)はネットの国内資金需要(対GDP比%)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国10年国債利回り、YCCダミー、連続指値オペダミーで推計できる。

マクロ・フェア・バリューの算出

マクロ経済要因として、国内の貨幣経済が拡大する力である企業や政府の合わせた支出する力を示すネットの国内資金需要(対GDP比%)を含める。

金融政策要因として、イールドカーブのアンカーである政策金利(コールレート)と、2013年以降の量的・質的金融緩和政策開始以降、日銀の大幅な国債買入れが長期金利に強い影響を与えていることを踏まえ、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)を含める。グローバルな金利動向の代理変数として米国10年国債利回りを含める。

更に、日銀は2016年9月以降、イールド・カーブ・コントロール(YCC)を実施し、10年国債利回りを0.0%を軸に一定水準で推移させる強いコミットメントを示した。

また、2022年4月以降は金利水準が日銀の誘導目標を軸とした容認レンジを上回った場合、指値で無制限で国債を買い入れるという強いコミットメントを示した。

このような強いコミットメントを示すことで、債券市場に恒常的な金利低下を圧力を与え続けたと考えられる。この力をモデルでとらえるために、YCCが実施された2016年9月以降、連続指値オペが発動された2022年4月以降は1とする2つのダミー変数(イベント前は0、イベント後は1)を含める。

最後に、一過性のショックなどで長期金利がマクロ・ファンダメンタルズから一時的に大幅に乖離した局面(外れ値)を、アップダミーとダウンダミーというダミー変数(標準誤差が±1を超えるときに1)を入れることで取り除き、マクロファンダメンタルズにより適合したフェアーバリューが算出できる。

これらの変数を使うことで、1990年からの日本の長期金利のマクロ・フェア・バリュー(四半期ベース)が算出でき、10年国債利回りの99%の動きが説明できる。

  • 長期金利=0.28+0.68 コールレート+0.27 米長期金利-0.05 ネットの資金需要-0.11 日銀長期国債買入れ(対GDP比)-0.38 YCCダミー -0.15連続指値オペダミー+ 0.53 アップダミー-0.47 ダウンダミー;R2=0.99

長期金利が直ちに新しい上限に達したのは整合的な動きである

モデルを基に足元のマクロ・フェア・バリューを計算すると、モデルを基に足元のマクロ・フェア・バリューを計算すると0.25%程度となる。

日銀の今回の決定によりYCCの影響が小さくなった(最大-38bp)マーケットが判断したとみられることを考えれば、長期金利が直ちに新しい上限に達したのは整合的な動きであると考えられる。

図:10年国債利回りとマクロ・フェアーバリュー

図:10年国債利回りとマクロ・フェアーバリュー
(画像=出所:日銀、FRB、クレディ・アグリコル証券)
会田 卓司
クレディ・アグリコル証券会社 チーフエコノミスト
大藤 新
クレディ・アグリコル証券会社 マクロストラテジスト

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