証券取引所に上場され自由に取引ができる株式と違い、プライベートエクイティは未公開の株式である。本記事ではこのプライベートエクイティ、およびそこに投資を行うプライベートエクイティファンドについて解説する。同時にプライベートエクイティに投資をするメリットやデメリット、そして個人投資家が具体的に投資をする方法も紹介しよう。
プライベートエクイティ(PE)とは?
プライベートエクイティは、証券取引所に上場公開されていない株式のことであり、未公開株とも言われる。
普段我々が株価情報などで目にする株式は、いずれも証券取引所に上場されている。上場することを株式公開ともいい、公開されている株式は証券会社を通じて証券取引所で売買することができる。
対して、上場していない(非上場)企業の株、つまり株式公開をしていない株式をプライベートエクイティと呼ぶ。これらの株式は主に創業者やその親族、取引先などが保有し、証券取引所で取引することができない株式である。
プライベートエクイティは、譲渡価格などの条件面で合意があれば、当事者間で売買が可能となる。
個人投資家の注目度が高まるPE投資とは?
プライベートエクイティ(PE)投資とは、その名の通り非上場企業に投資を行うことである。
もちろん、非上場の企業の株をただ単に保有するだけでは、利益が出る可能性は低い。PE投資が目的とするのは、新しいアイディアや技術力など今後の成長は期待できるものの、なんらかの要因でその潜在能力を活かしきれていない企業に投資をし、企業価値を高めた後に株式公開や企業売却によって利益を得ることだ。
未公開株というとベンチャー企業やスタートアップ企業などの株式が真っ先に思い浮かぶが、他にも大企業の子会社・非主流部門、オーナー系中堅企業のプライベートエクイティもPE投資の対象である。
プライベートエクイティファンドとは?
プライベートエクイティは公開されていない上、投資には多額の資金が必要になるため、投資家が個人でPE投資を実現できることは稀である。したがって、個人投資家がPE投資を行う場合、プライベートエクイティファンドを利用することになる。
プライベートエクイティファンドとは、未公開株への投資を行う投資ファンドである。
複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を元に非上場会社の未公開株を取得し、さらに経営陣の派遣などを通じて経営に深く関与し、企業の成長または再生を支援する。こうして企業価値を高めた後、売却などによって利益を得て投資家に配分するのがPEファンドの目的だ。
プライベートエクイティの投資タイプ
プライベートエクイティへの投資には、その対象企業や目的に応じていくつか種類がある。ここでは以下の4つについて紹介する。
ベンチャー投資
創業間もない会社は、銀行からの融資が受けにくく、資金調達が難しいケースが多い。
機関投資家は、こういった新興企業の株式を取得し、将来的にその企業が上場した際に株式を売却することで、大きな値上がり益を目指すことができる。このようにベンチャー企業やスタートアップ企業に出資をする投資会社や投資ファンドをベンチャーキャピタルと呼ぶ。
一般的なベンチャーキャピタルは、企業への出資と同時に経営コンサルティングを行い、その企業価値の向上を図る。うまく事業が拡大し、上場を果たせば大きな利益が期待できるが、当然すべてのベンチャー企業が無事に上場できるわけではない。投資企業の中には上場を果たせない企業も多く、投資資金の回収が全くできないこともある。
そのためベンチャー企業への投資は、一般にハイリスク/ハイリターンとなる。
バイアウト投資
バイアウト投資とは、既存企業を買収し、経営陣の派遣などによって経営を改善することで、買収先企業の価値を高める投資である。
ベンチャーキャピタルと異なる点は、バイアウト投資では基本的に経営権を取得する点と、対象企業がベンチャー企業やスタートアップ企業に限らない点である。上場企業の非公開化(MBO)もバイアウト投資の一種である。
特に中小企業では、技術力はあっても経営がうまくいっていない会社や、メインの事業は軌道に乗っているものの、一部の部門が足を引っ張っているため業績不振になっている会社が多い。
このような企業の経営に参画し、業績不振の部門や不要な資産を売却したり、事業再編により企業が手放す事業部門を買収して価値を高めることで、高い売却益を得るのだ。
企業再生投資
企業再生投資とは、赤字続きや債務超過などにより経営不振に陥っている企業を、出資や経営陣の派遣などを通じて積極的に支援し、再建後に株式を売却して利益を得る投資である。
先に紹介したバイアウト投資では、投資先企業は経営が不振でも事業自体は上手くいっている場合も多い。しかし、企業再生投資は事業自体がうまくいっていない、もしくは破綻寸前の企業が対象となる。
こうした企業は株式を割安で購入できるというメリットがある一方、企業再建に失敗すれば損失が発生するリスクも当然ある。
ディストレスト投資
ディストレスト(distressed)とは、英語で「苦しんでいる」「困窮した」の意味だ。ディストレスト投資では主に破綻寸前の起業や、すでに経営破綻を起こして困窮している企業を対象とする。したがって、今回紹介しているプライベートエクイティ投資の中でも、特に経営状態の悪い企業への投資がこのディストレスト投資だといえる。
通常、このような会社の資産は本来的な価値より著しく安い状態となっているケースがあるため、暴落した資産が適正な価格に戻る過程に注目することで大きなリターンが期待できる。反面、予想が外れ大きな損失を被るリスクもある。
プライベートエクイティファンドの主なプレイヤー
日本国内においても、プライベートエクイティに投資するファンドは数多くある。ここでは「外資系」「国内独立系」「金融機関系」「商社系」「DX特化」の5つのジャンルに分け、代表的なものを紹介する。
外資系のPEファンド
・カーライル
・KKR
・ブラックストーン
・CLSAキャピタルパートナーズ
・ペルミラ・アドバイザーズ
カーライル、KKR、そしてブラックストーンは、米投資ファンドの御三家と呼ばれることもある世界最大級のプライベートエクイティー投資会社である。ペルミラ・アドバイザーズはヨーロッパ最大手のプライベートエクイティー投資会社だ。
国内独立系のPEファンド
・ポラリス・キャピタル・グループ
・インテグラル
・日本産業パートナーズ
・アドバンテッジ・パートナーズ
・ユニゾン・キャピタル
アドバンテッジ・パートナーズは、日本で初めてバイアウト専用のファンドを立ち上げたパイオニアで、現在も日本を代表するプライベートエクイティ投資会社である。これまでに50社以上へ投資をしてきた実績がある。
ユニゾン・キャピタルも日本を代表する独立系のプライベートエクイティ投資会社で、日本で29件以上、韓国で5件以上の投資実績がある。
金融機関系のPEファンド
・ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ
・Tキャピタルパートナーズ
・ライジング・ジャパン・エクイティ
・MCPパートナーズ
Tキャピタルパートナーズは、1991年に設立された老舗の投資ファンド運営会社で、バーニーズニューヨーク、武州製薬などへの投資実績がある。
MCPパートナーズはみずほFG系列の投資ファンドだ。以前はみずほキャピタルパートナーズという名称であったが、2021年に現在の名称に変更している。
商社系のPEファンド
・丸の内キャピタル
・アイ・シグマ・キャピタル
・三井物産企業投資
・MSD企業投資
丸の内キャピタルは、三菱商事とMUFGが50%ずつ出資して設立した投資ファンド運営会社だ。2011年には高級スーパーの成城石井の買収を発表した。
DX特化PEファンド
・くじらキャピタル
・Dキャピタル
日本国内では、近年投資先企業の価値の向上を図る手法として、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用したプライベートエクイティ投資会社が登場し始めている。
くじらキャピタルは日本初のDXファンドで、リーマン・ブラザーズ、モルガン・スタンレー、アクセンチュア出身者が設立した会社だ。
個人投資家がPEファンドをテーマに利益を狙う方法
近年はPEファンドの裾野は広がりつつあると言われるが、ここまで紹介したようなPEファンドへの投資は、まだまだ機関投資家や富裕層に限定されているのが現状だ。では、個人がPEファンドをテーマに投資を行うにはどのような方法があるだろうか。
プライベートバンカーを通じてPEファンドに投資する
PEファンドは、いったん投資をしてしまえば自由に売買できなくなるという性質上、機関投資家か一部の富裕層などの大型投資家に限って提供されることが多い。そのため個人の投資家が直接PEファンドに投資する場合、プライベートバンカーを経由することが大半である。
プライベートバンカーとは、主に高所得者や一部の富裕層向けに、銀行業務や投資業務、その他の金融サービスを提供する、いわば専属のお金のスペシャリストだ。信頼関係を築けたプライベートバンカーが身近にいれば、PEファンドに投資できる機会を提供してもらえる可能性がある。
しかし、一般の投資家でプライベートバンカーの担当がついている人はごく少数だろう。個人投資家が直接PEファンドに投資をするのは非常に困難だといえる。
PEファンドが投資をしそうな上場企業に先んじて投資する
一般的な個人投資家がPEファンドに直接投資するのは難しいが、PEファンドをテーマに利益を上げる方法がないわけではない。
1つ目は、PEファンドが投資をしそうな上場企業にあらかじめ投資をする方法である。
これまで説明したとおりPEはプライベートエクイティ、つまり未公開株のことだが、PEファンドは上場企業を対象に投資を行うケースもある。
具体的には、すでに上場している企業を非上場化したのち、経営陣の意思決定を迅速にして長期的な視点で経営を行うことで企業価値を高め、後に利益を回収するのだ。
この際、公開されている株式を取得した後に非公開化するため、既存の株主から株を買い取る必要があるのだ。この際、株式の取得をスムーズに進めるため、多くの場合買取価格は高くなる傾向にある。
つまり、あらかじめPEファンドが非上場化を検討している上場会社の株を保有していれば、高値で売却できるため利益を得られる。
ただしこの方法も、広くアンテナを張って情報を得る必要があるうえ、株価がどのような動きになるかは不透明なため、あまり一般的とは言えないだろう。
PEファンドに投資ができる投資信託(ETF)に投資する
一般的な、いわゆる小口の個人投資家がPEファンドをテーマに利益を得るには、PEファンドに投資ができる投資信託(ETF)に投資をするのが最もハードルが低い。
この方法では、直接プライベートエクイティを保有するわけではなく、PEファンドへ投資している投資信託等を通じて、間接的にPE市場に投資を行うことになる。
PEファンドに投資をしている投資信託(ETF)を具体的に見てみよう。ブラックロック・アセット・マネジメント・アイルランド・リミテッドの「iシェアーズ 上場プライベート・エクイティ UCITS ETF」という商品だ。
「iシェアーズ 上場プライベート・エクイティ UCITS ETF」は「S&Pリステッド・プライベート・エクイティ指数」と同等水準の投資効果を上げることを目指すETFである。この指数は、ブラックストーン、KKR、アポロなど、主要な大手PEファンドから構成されている。つまり、このETFで、大手のPEファンドに分散投資ができるのである。
個人投資家がPE投資をするメリット、デメリット
ここでは個人投資家がPE投資をするメリット、デメリットを解説する。これらを理解した上で、自身の資産運用にPE投資を組み入れるのかどうかを判断したい。
個人投資家がPE投資をするメリット
PE投資では高いリターンが期待できるなどのメリットもあるが、最大の特徴はオルタナティブ資産としての分散効果が期待できる点である。
オルタナティブ資産とは、株式や債券といった伝統的資産と呼ばれるもの以外の、新しい投資対象や投資手法のことを指す。具体的には未公開株の他に、農作物・鉱物、先物・オプション、不動産などがある。オルタナティブ(alternative)は「代わりの」「代替の」という意味だ。
オルタナティブ資産は、伝統的資産である上場株式や債券とは異なる投資特性を持つとされ、上場株式と非上場株式ではリターンとリスクの特性が異なる。
上場株式の株価は、企業の業績以外にも、その時々の市場心理や需給のバランスなど、さまざまな要因に左右される。
一方、未公開株式はこういった市場の影響をまったく受けないわけではないが、価格は基本的には当事者の合意によって決められるため、企業自体の評価を主な要因として価格が決められる。したがって、価格の変動は上場株式に比べ安定しているといえる。
複数の資産に分散投資を行う際は、特性の異なる資産を組み合わせるのが原則である。相場変動の大きい上場株式とは異なる特性を持つプライベートエクイティを組み入れることで、効果的にリスク要因を分散することが期待できる。
個人投資家がPE投資をするデメリット
PE投資を行うなら、デメリットについてもしっかりと把握しておく必要がある。
まず考えられるのが、対象が非上場の企業であるため、入手可能なデータが限定的な点だ。上場企業であれば、上場の際、時価総額や売上高、財務諸表などの審査がある。したがって、公開されている情報は一定の信用があり、かつ入手しやすく、また他の企業と比較しやすい。
対して、未公開株式を扱うPE投資では、投資先について個人投資家が評価するのは非常に難しい。さらに、PE投資の対象は、ベンチャー企業や経営不振に陥っている企業含まれるため、不確実性が高くリスクが大きい投資となる。
もう1つの大きなデメリットは、投資資金の回収までに時間がかかる点である。PE投資では非上場企業に投資をし、企業の価値向上または再生を行った後に利益を得るが、こうした企業の価値向上は一朝一夕にできるものではない。順調に業績が向上しなければ、投資回収までに想定以上の時間がかかるだろう。
そもそも上場企業の株式と違い、プライベートエクイティはいつでも売買できるものでは無い。換金性や流動性が低く、また利益が出るタイミングも自分で決めることができないため、自身の資産の中でどの程度PE投資に回せる資金があるかは、慎重に検討すべきである。
まとめ:PEファンドの投資特性を知り、ETFを通じてポートフォリオに組入れてみよう
プライベートエクイティとPEファンドの特性やメリット/デメリットを紹介した。PEファンドはオルタナティブ資産としてポートフォリオに組み入れることで、資産全体のリスク要因を分散できるため、個人投資家にとってもメリットはある。しかし、PEファンドへ投資できる方法は限定されているため、まずはPEファンドをテーマにしたETFから投資を検討してみるといいだろう。