日銀の金融政策決定会合で、金利変動の容認幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%に拡大するサプライズが発表されました。株式市場はマイナスに反応しましたが、行き過ぎた円安が修正されるプラスの側面もあります。本記事では、日銀の金融政策方針転換が私たちの暮らしに与える影響を考えます。

日銀のサプライズ金融政策発表で円が急騰

日銀の金融政策方針転換で暮らしのお金はどう変わる?
(画像=funnyface/stock.adobe.com)

2022年12月20日に開かれた日本銀行金融政策決定会合において、長期金利の変動幅をそれまでのプラスマイナス0.25%から同0.5%に引き上げる、金融政策方針転換が発表されました。

市場では事実上の利上げとみる向きもありますが、日銀の黒田東彦総裁は「市場機能の改善が目的であり、金融引き締めではない」と利上げを目的とした方針転換を否定しています。

発表があった日のドル/円相場はサプライズに敏感に反応し、午後5時時点で1ドル132円58~61銭と、前日比3円25銭の大幅な円高ドル安に傾きました。円相場は2022年10月21日に151円94銭まで円安が進み、輸入物価高騰の大きな原因になっていました。

欧米が金融引き締め政策を進めているのに対し、日銀は頑なに金融緩和政策の維持を崩さないため、どこまで円安が進むのか懸念されていました。

しかし、151円台に乗せた後はFRB(米国連邦準備制度理事会)が、インフレが落ち着いてきたことを理由に利上げの幅を0.75%から0.5%に縮小するとの観測が広がり、円高に流れが転換。これに日銀の金融政策方針転換が加わり円高が加速した形です。

住宅ローンは固定金利から引き上げへ

長期金利変動幅の拡大によって最も心配されるのが、住宅ローン金利の上昇です。日銀の金融政策緩和を受けて大手銀行各行は2023年1月1日から10年固定の住宅ローン金利を引き上げることを発表しました。早速影響が出た形です。

日銀が金融緩和策の修正を発表した2022年12月20日以降、住宅ローンの金利比較サイトにはローンに関する問い合わせが増えているといいます。

三菱UFJ銀行は最も優遇する場合の金利を0.18%引き上げて年1.05%にします。その他の大手銀行も三井住友銀行が年1.14%(+0.26%)、みずほ銀行が年1.4%(+0.3%)、三井住友信託銀行が年1.39%(+0.34%)、りそな銀行が年1.18%(+0.1%)と引き上げを発表しています。引き上げ時期は2023年1月1日からです。ただし、既に固定金利で借りている人には影響はありません。

一方で変動金利は短期金利と連動するため、変動金利型の金利は各行とも据え置いています。今後の見通しは、新たな上限に設定された0.5%の長期金利を日銀がコントロールできるかにかかっています。

債券の金利が若干上がる可能性も

長引く超低金利で債券は金利の魅力を失っています。個人向け国債の金利は、変動金利10年債が0.33%、固定金利5年債が0.18%、固定金利3年債が0.05%(税引前利率、2023年1月17日現在)になっています。預金金利より高いとはいえ、債券としては物足りない金利水準といえるでしょう。

日銀のサプライズ発表があったことを受け、発表当日の債券市場は急速な債券安(金利高)が進みました。その後2023年1月17日には、国内債券市場で新発10年物国債の利回りが0.505%をつけ、日銀が新たな金融政策の上限とする0.5%を超えています。この日で3日連続の上限超えとなり、金利上昇圧力が次第に増している展開です。

個人向け国債や各種債券、社債等の金利が上がることは、私たちの資産運用にとってはプラスになります。

普通預金の金利はどうでしょうか。三菱UFJ銀行における普通預金金利は2023年1月17日現在で年0.0010%、スーパー定期預金が年0.0020%と変化は見られません。普通預金金利はすでに無いも同然の水準ですので、多少金利が上がったとしても私たちの暮らしに大きな影響はなさそうです。

輸入物価が低下するメリットもある

金利上昇でこれまでの行き過ぎた円安が是正されることは、私たちの暮らしにとってプラスになる側面もあります。円高によって輸入物価が低下し、消費者物価の上昇率が鈍化するメリットが期待できるからです。

出典:SBI証券 WTI原油先物チャート
出典:SBI証券 WTI原油先物チャート

2023年の物価見通しは、エネルギー価格の上昇がピークアウトする見込みであることから、2022年にあったような物価高には歯止めがかかりそうです。

WTI原油先物価格は2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに急騰し、一時1バレル130ドルを突破しましたが、2022年夏以降は下落に転じ、2023年1月には1バレル70ドル台まで下落しています。原油価格の下落に加え円高が進行することで、輸入物価はさらに低下することが予想されます。

これに政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業費補助金」が加わり、一般家庭の電気料金(低圧)は、2023年1~8月に7円/kWh、2023年9月に3.5円/kWhそれぞれ引き下げられます。電力会社が想定する標準家庭(月間260kWh)で月に1,820円程度の値引きとなる計算です。

法人の電気料金も1~8月使用分で3.5円/kWh、9月使用分で1.8円/kWh値引きされるので、工場などで大規模な電力使用を行っている企業には、製造コストの低減につながることが期待されます。

株式投資に与える影響は?

金利の上昇は株式市場にとって下落要因になることは確かです。日銀の金融政策方針転換が発表された12月20日の日経平均株価終値は2万6,568円3銭と、前日比で669円61銭急落しています。方針転換は無いとみられていただけに、動揺した投資家の狼狽売りがあったようです。

日銀の金融政策方針転換は全体的にはマイナス要因ですが、一部の円高メリット株には買いが集まっています。金利上昇の恩恵を受ける銀行株や、輸入コストが下がる石油株、電力株、紙パルプ株、円高によって海外旅行が増える旅行株、航空株などもメリットがあるといわれています。

株式投資は米国株をはじめ海外の株式市場や、金融市場の影響を受けやすいので、必ずしも日銀の金融政策だけに左右されるわけではありませんが、日経平均で3万円の大台回復が当面遠のいたのは確かなようです。

NISA(少額投資非課税制度)の大幅拡充を打ち出した岸田政権にとっては、日銀に出鼻をくじかれる皮肉な結果となりました。

不動産投資への影響は軽微の見込み

最後に日銀の金融政策方針転換は不動産投資にどの程度影響を与えるのかを確認しておきましょう。直接影響を与えると思われるのが不動産投資ローンの金利上昇です。不動産は高額な商品ですので、わずかな金利の上昇でも35年ローンであれば総支払利息はかなり増える可能性があります。

半面、東京カンテイの「市況レポート」によると、東京23区の賃料相場は金融政策転換があった2022年12月も影響をあまり受けず、3ヵ月連続プラスと好調に推移していますので、現時点では金利上昇の影響は軽微とみられます。

次に懸念されるのがイールドギャップの縮小による不動産市場への影響です。イールドギャップとは、不動産投資の利回りと市場金利の差を指します。不動産投資の利回りがほぼ一定である場合、市場金利が上昇すると利回りの差が縮小するため、不動産の購入ニーズが減って不動産価格に影響するという考え方です。

これも不動産投資の利回りが3~5%とすると、長期金利が0.5%になった程度では不動産投資の優位性は変わらないので、不動産市場への影響は軽微と思われます。

2023年1月18日の金融政策決定会合では金融緩和策の維持が決定され、長期金利が一時0.36%まで低下し、金利の上昇に歯止めがかかりました。しかし、市場では今後も日銀が大量の国債を買って金利を抑えられるか疑問視する声もあります。

注意しなければいけないのは、2023年4月8日に異次元の金融緩和を主導してきた日銀の黒田総裁が退任することです。後任に着く総裁によっては、異次元緩和政策の変更があってもおかしくありません。

今後はなるべく日銀の政策変更の影響を受けにくい投資先を選ぶ必要があります。不動産投資ローンの金利が上昇するリスクはありますが、家賃収入という安定したインカムゲインのある不動産は、金融情勢が不透明な局面では最も信頼できる投資先といえるでしょう。

※本記事は2023年1月18日現在の情報を基に構成しています。金融情勢は常に変化しますので、投資の際は最新の情報をご確認ください。

(提供:Incomepress



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