「コーチ(COACH)」の表参道店閉店情報をスクープしたのは我が「セブツー」だという。店の正面扉の刷り紙を見ると、「1月9日(月・祝)をもちまして閉店いたしました」とある。なんと1カ月以上前の話である。まあ、閉店や重要メンバーの退職をきちんと「広報」するブランドなんてこの世にはないが、それにしても『「コーチ」の表参道店』と言えば、銀座店と並ぶ超重要旗艦店であり、世のファッション業界紙というのは、よほど間抜けか広告主に忖度し過ぎということになるのだろうが、おそらくそのどちらも当たっているのではないか。
さて、「コーチ」表参道店の閉店の理由はただひとつである。赤字なのである。1円でも利益が出ていたならば、広告塔として1億円まではいかなくとも、その半分ぐらいの価値はあるからだ。
同店は2013年3月に完成した「オーク表参道(oak omotesando)」のテナントとして1階および2階の463平方メートルの2フロア構成で出店していた。ちょうど10年前だ。おそらく10年契約だったのではないだろうか。463平方メートル≒140坪、仮に月坪家賃が15万円だとすると1カ月の家賃は15万円×140=2100万円。12カ月で2億5200万円。売り上げに占める適正家賃比率は30%か。まあこうしたべらぼうに家賃の高い地域ではこれぐらいの高率になると思うが、だとするとこの好立地で月商7000万円いかなかったということになる。この「コーチ」店の真向かいにある「アップルストア 表参道」は年商30億円とも40億円とも言われているのを考えると、「もしかしたら、表参道というのはそんなにファッションが売れる場所ではないのか?」ということにもなる。
「コーチ」ブランドなどを傘下にもつタペストリー(「コーチ」から2017年10月31日に社名変更)の業績が急に悪化でもしているのかと思って決算を調べてみたが、さすがに2020年6月期はコロナ禍による赤字決算になっているが、2022年7月期(2021年決算から決算月を7月に変更)は:
・売上高:66億8400万ドル(8689億円、前年比+16.3%、1ドル=130円換算)
・営業利益:11億7500万ドル(約1527億円、同+21.5%)
・経常利益:10億円4700万ドル(約1361億円、同+16.7%)
・当期純利益:8億5600万ドル(約1112億円、同+2.6%)
まあ問題ないリカバリーを果たして、すでに2019年6月決算を大きく上回る水準になっている。ちなみにエリア別売り上げで、日本は米国、中国に次いで世界第3位で12.2%(2020年6月期)のシェアになっている。日本では1000億円近い売り上げということになって「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「グッチ(GUCCI)」「エルメス(HERMES))」「シャネル(CHANEL)」に並ぶビッグブランドになっているというポジショニングは従来とあまり変わってはいないようだ。ちなみにタペストリー社のブランド別売上高は、「コーチ(COACH)」が71.2%、「ケイト・スペード ニューヨーク(kate spade new york」が23.2%、「スチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)」が5.8%だ。
本国側の業績に問題がないとなると、今回のコーチ表参道店の閉店は、高額家賃を支払っても黒字化ができなかったこと、そして10年契約更新にあたっての家賃の高騰(オーナーは大林不動産)に対してコーチ・ジャパン側が「ノー」を選択したということだろう。
2021年2月28日に「エルメス」表参道がオープンして、この地区に店舗をもたないビッグ・ラグジュアリーブランドがなくなったことで「表参道」の価値はさらにアップして、当然のことながら家賃も高騰。とくに表参道沿いで交差点近くなら月坪家賃20万円時代を迎えているとまで言われている。しかし、その内実は数少ない例外を除けば、黒字の店舗はごく稀れというのが実情のようだ。遂に言えばこの表参道に店を構えることができるのが真のラグジュアリーブランドだということになる。まあ「コーチ」は中国生産がメインだからラグジュアリーブランドのカテゴリーに入らないけれども。
ちょっと気になるのは、「コーチ表参道」閉店のお知らせの貼り紙だ。「今後は近隣ストアをご利用くださいますようよろしくお願い申しあげます」として、コーチ銀座の電話番号が記されているが、一番近い渋谷店を紹介しないのはなにか理由があるのだろうか。