投資界（特にFX）では、毎月第1金曜日の夜（日本時間）に発表される米国雇用統計が恒例の一大イベントとして意識されており、発表された雇用統計の結果によって米ドル相場をはじめ、さまざまな相場が大きな影響を受けることがあります。
それまでのトレンドが転換することもあるため、米国雇用統計には世界中の投資家から高い関心が集まります。現役の投資家はもちろん、これから投資を始める方々も知っておくべき重要な指標のひとつです。
なぜ、米国雇用統計がこれほどまでに注目され、発表時は毎月恒例の一大イベントとなるのでしょうか。その理由と、これだけ注目されている米国雇用統計を投資戦略に役立てる方法について解説します。
米国雇用統計とは
米国雇用統計とは、米国労働省が毎月第1金曜日（日本時間）に発表する雇用関連データのひとつです。失業率やさまざまな業種の雇用者数が発表されますが、この中で投資家が注目しているのは非農業部門雇用者数です。名称のとおり農業部門を除いた各産業の雇用者数を示すもので、米国の直近の雇用情勢、景気を判断する指標と見なされています。
簡単にいえば、雇用統計の非農業部門雇用者数が前月比でプラスであれば米国の景気は上向き、逆にマイナスであれば景気が下降局面にあると多くの投資家が判断するということです。
また、もうひとつ重要なのは予想との対比です。米国雇用統計が発表される前には予想数値も発表されます。結果が予想と乖離しているとインパクトが強くなり、より相場に与える影響も大きくなります。結果が悪かったとしても予想されていたほど悪くなければ相場への影響が軽微になることも多く、雇用統計は前月および予想との対比で結果を判断する必要があります。
世界最大の経済大国である米国の景況感を示す数値であるがゆえに、相場の影響が大きいと見られていますが、その直接的な影響以外にも「世界中の投資家が注目している」という事実が思惑となり、大相場が起きることもしばしばあります。これについては、次項で解説します。
米国雇用統計が一大イベントになる3つの理由
米国雇用統計が投資界の一大イベントとなっていることには、主に3つの理由があります。それぞれ解説します。
世界最大の経済大国である米国の景況感が分かる
言うまでもなく、米国は世界最大の経済大国です。そして米国のGDPのうち約7割は個人消費が占めており、失業率など雇用に関連するデータは米国経済の景況感に直結すると見なされています。
雇用統計は雇用に関連する直接的なデータなので、雇用統計の良し悪しが米国経済の景況感に直結すると見られているわけです。雇用数が増加している、もしくは予想よりも増加している場合は米ドルや米国株の買い材料となり、逆の場合は売り材料になります。
連邦準備制度理事会（FRB）の意思決定に影響力がある
米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会（FRB）は、米国の政策金利を決定する機関でもあります。各国の政策金利はさまざまな相場に影響を与えるので、ここで相関関係を整理しておきましょう。
| 政策金利の上下 | 為替レート | 株価 | 債券 |
|---|---|---|---|
| 金利上昇 | 買い材料 | 売り材料 | 買い材料 |
| 金利下落 | 売り材料 | 買い材料 | 売り材料 |
2023年はインフレの進行を食い止めるためにFRBは相次いで利上げを実施しています。利上げとは、各国の中央銀行が行う政策金利の引き上げのことで、一般的には好景気に実施される傾向にあります。
利上げは上記の表では「金利上昇」にあたり、米ドルと米国債の買い材料、そして株価には売り材料です。事実、米ドルは上昇して債券の利回り上昇に伴って米国債も買われています。その一方で、株価は時折大きく下落しており、長期的に右肩上がりを続けてきた展開が頭打ちになっています。
米国雇用統計の結果があまりにも好調で景気に過熱感があるようであればインフレ懸念へとつながり、金利が上昇すると見た多くの投資家が米ドルを買い、株を売る展開が考えられます。逆の場合は金利が下がるとの思惑から株が買われ、米ドルが売られる展開があり得ます。
FRBは米国雇用統計の結果を重視して政策金利を決定していると言われており、雇用統計の結果によって米国の金利が動くのではないかとの思惑があります。
世界中の投資家が注目しているという事実
3つめに挙げるのは、米国雇用統計による二次的な影響です。すでに解説したとおり、米国雇用統計は世界中の投資家から熱い視線が注がれています。この事実が材料視されており、投資チャンスと捉えている投資家は少なくありません。そのため、予想に反して結果が悪かった場合、株価が下落し、米ドルが売られるといった場面がしばしば見られます。
もともと注目度の高い経済指標ではありますが、その注目度をさらに高くしているのは他ならぬ投資家自身であるということです。
2023年2月にもあった「雇用統計相場」
米国雇用統計の結果によって相場が大きく動くというのは、直近でもしばしば見られる現象です。
こちらは2023年2月の第1金曜日である2月3日のドル円5分チャートです。雇用統計が発表された日本時間の22時30分に大きくレートが動いているのが見て取れます。
ちなみに2月の結果は予想が＋18.8万人に対して+51.7万人だったので、ポジティブサプライズです。
どのタイミングで雇用統計が発表されたのかは、このチャートを見れば一目瞭然です。22時30分の米国雇用統計の発表からドル円が急騰しているのがよく分かります。
米国雇用統計を活用する投資アイディア
最後に、米国雇用統計の発表を活用して投資に役立てるアイディアを4つご紹介します。これらはいずれも、FXトレード向けです。
雇用悪化ならドル安、好転ならドル高
雇用が悪化しているのであればドル安、好転ならドル高というのは、最もシンプルな読み解き方です。雇用統計の結果を受けてドル円やユーロドルなどでドル買いもしくはドル売りのポジションを持つことで投資戦略を反映できます。
注目するべきは予想との比較
米国雇用統計を読み解く際に重要なのは、予想との比較です。「予想に反して」という言葉がつくような結果になった場合には相場が大きく動きやすくなる傾向にあります。予想と大きく乖離した結果となった場合には、売買の値段を指定しない成行注文でポジションを成立させることで短期的な利益を狙いやすくなるでしょう。
予想に反してポジティブサプライズだった場合には成行でドル買いのポジションを持ち、短期的な上昇を狙って利益を確定するイメージです。逆の場合はドル売りポジションで利益を狙ってみるのもひとつの手です。
前哨戦として注目されるADP雇用統計
ここまでの解説で「米国雇用統計」と表記しているのは、米国の労働省から発表される公式の雇用統計です。これに対して米国のADPという会社が独自に集計して発表している民間の雇用統計データがあります。通称「ADP雇用統計」と呼ばれているもので、米国雇用統計が発表される2日前に発表されます。
近年は「あまり当たらない」という評判も散見されますが、公式の雇用統計の前に発表されるため、このADP雇用統計の結果を金曜日のトレードに役立てる人もおり、前哨戦と位置づけられています。ADP雇用統計の結果から公式の雇用統計の結果を予想して、指値注文を入れてみるのは面白いかもしれません。
IFO注文で事前予想が外れた場合に備える
FXには、IFO注文があります。IFO注文を用いると、新規エントリーと利益確定もしくは損切りの注文を同時に出しておくことができます。これは米国雇用統計が発表された直後に大きく動く相場に適した注文方法です。
予想に反してサプライズ的な結果となった時に備え、買いまた売りのどちらかからエントリーする指値注文を入れておいて、実際にサプライズ的な結果になった時の値動きで利益確定を狙います。逆に動いてしまった場合の損失を食い止めるために損切り注文は欠かせないので、その両方をIFO注文で出しておくのが有効です。
ただし、トレードにはリスクがつきものです。このような投資法を試してみる場合は、あくまでも余剰資金で、まずは少額からチャレンジしてみることをおすすめします。
（提供：Incomepress ）
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