特集「令和IPO企業トップに聞く 〜経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍という激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略・課題について、各社の取り組みを紹介する。

株式会社ヒューマンクリエイションホールディングスは、ITソリューションにおけるコンサルティングなどの上流工程から保守運用などの最終工程までを一気通貫で対応する企業だ。今回は代表取締役社長である富永邦昭氏に、同社の企業概要や日本経済の展望、今後の事業展開などを伺った。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

株式会社ヒューマンクリエイションホールディングス
(画像=ヒューマンクリエイションホールディングス)
富永 邦昭(とみなが くにあき)
――株式会社ヒューマンクリエイションホールディングス 代表取締役社長
東京都出身。化粧品大手㈱ポーラ及び㈱ポーラ・オルビスホールディングスにて、海外事業CSOやIPO、М&Aを手がけた経歴から招聘を受け、2016年11月に代表取締役社長(現職)に就任。2021年3月に東証マザーズ上場(現グロース)。
当時数多くのオファーがあった中で当社を選んだ理由は、企業としての成長可能性の大きさと「人を大切にする」風土があったから。
株式会社ヒューマンクリエイションホールディングス
1974年創業のバンキング・システムズ(現ブレーン・ナレッジ・システムズ)を前身として2016年10月に設立。企業課題の答えを創造する企業群として、ITコンサルティング・受託開発とITエンジニア派遣を手がける。
好調な需要を取り込み、オーガニック成長を続ける一方でM&Aも積極的に行い、現在子会社6社を抱える。
システム構築の最上流工程であるコンサルティングから開発、保守・運用、BPOまでをグループ6社で行う独自のワンストップ体制を武器に、売上高CAGR17.0%、EBTIDA CAGR46.2%と好調に業績を伸ばしている。

目次

  1. IT業務を一気通貫で対応し、高い利益率と稼働率の両方を実現する
  2. 行動主義こそが成長を加速させるポイント
  3. 市場の変化に応じた柔軟な対応でさらなる事業拡大を目指す

IT業務を一気通貫で対応し、高い利益率と稼働率の両方を実現する

―― ヒューマンクリエイションホールディングス様のカンパニープロフィールと、現在の事業内容についてお聞かせください。

ヒューマンクリエイションホールディングス代表取締役社長・富永邦昭氏(以下、社名・氏名略):以下の画像は、2023年2月10日にコーポレートサイトなどで公開した決算説明補足資料の一部です。

株式会社ヒューマンクリエイションホールディングス

当社は持株会社であるヒューマンクリエイションホールディングスを中心に、事業会社を6つ持っています。大きく分けて、コンサルティングと受託開発事業、ITエンジニアの派遣事業の2つを展開しています。なぜこの2つを実施しているかというと、高い利益率と高い稼働率の両方を実現できるからです。

コンサルティング・受託開発事業は利益率が高く、当社の重要戦略の一つです。利益率が高い一方で炎上リスクもあるため、案件の選定は慎重に行っています。そのため受託案件が常時あるわけではないので、通常時は保有するエンジニアを派遣先に出し、技術力を提供しています。エンジニアの派遣事業は地味と思われがちですが、国内企業のエンジニア不足は以前から顕著で、当社は常に参画の要請を受けています。エンジニア派遣によって高稼働率を保持し、それが安定した収益につながっています。

他社さんは開発のみ、ITコンサルティングのみというところもありますが、最上流工程であるコンサルティング業務から最終工程まで、同じグループ内にて一気通貫で対応できることも当社の特徴の一つです。上場は2021年3月16日で約1年半(注:インタビュー当時)が経過しましたが、上場に踏み切ったのは一気通貫で受託できる体制が整ったからです。

6つの事業会社は、上流工程のコンサルティングを担い、IT戦略立案を主としている株式会社アセットコンサルティングフォースと株式会社ヒューマンベース、システム開発業務を行う株式会社ブレーンナレッジシステムズと株式会社シー・エル・エス、保守運用やヘルプデスクなどのBPOを展開している株式会社セイリングと株式会社コスモピアです。

3つの事業を2社ずつで行っているように見えるかもしれませんが、例えばプロジェクトマネージャークラスにはアセットコンサルティングフォースの社員が対応し、開発に移った際にはブレーンナレッジシステムズとシー・エル・エスの両輪を使ってプロジェクトを進めます。納品を済ませた後は保守運用に入るので、セイリングが請け負います。

このように、それぞれが独立して事業を行うのではなく、相互にシナジーを効かせながら、同じお客様の入口から出口までを一気通貫で請け負うのが当社グループの最大の強みです。発注するお客様からすれば、イメージどおりのシステムが納品されてメンテナンスも請け負ってもらえ、さらに想定外のことが起きたとしてもどの工程のトラブルでも万全の対応をしてもらえるという点が評価され、信頼のおけるグループだというお声を頂戴しています。

―― 創業から上場に至るまでさまざまな変化があったかと思いますが、事業の変遷についてお聞かせください。

富永:当社は1974年に創業しましたので、もうすぐ50周年を迎えます。現在のホールディングス体制になったのは2016年10月で、それまではいわゆるSES事業のみを行っていました。

SES事業だけですと、受託開発の契約を取りに行くパワーも実力もなかったため、成長ドライバーを効かせられない状況でした。現在のホールディングス体制になってからは、M&Aなどを駆使しながら現在のグループ体制を整備したことで契約を取れるパワーを得ただけでなく、結果的に技術力も向上しました。そのため、上場前は体制整備に終始したという感じです。

上場前と上場後で大きく変わったのは、お客様があらかじめ当社グループをご存じであるケースが増えたことです。上場後は、少し調べれば当社の情報を得られるようになったので、お客様のほうから案件をお持ちいただけるようになりました。これまでは自分たちで営業を仕掛けなければ良い案件を受託できませんでしたが、上場したことで社会的信用力が向上しただけでなく、知名度も上がったことが事業面の大きな変化といえます。また、受託開発実績を積み上げてきたことで、お客様からの追加発注や他のお客様へ紹介いただくケースも増えています。

社内的には、上場前はずっと派遣事業だけをやっていたので業務の指示命令系統は他社様にある状況で、案件をどこか他人事のように捉えていました。その状況を変えたいと考えていましたので、上場することで「当社の仕事はお客様にとって付加価値があり、社会的に認められている」ということを社員に実感してもらいたいという思いもありました。

金融面に関しては、上場前からキャッシュフロー自体は良好でしたが、上場後は資金調達の手段自体が多様化したと感じています。いつ行うかは別として、さまざまな調達手段を俎上に載せられるようになりました。当社グループの事業会社のほとんどはM&Aという形で合流しましたが、資金調達の手段が増えたことでグループを拡大する際にもさまざまなパターンを検討でき、これまでにない規模の事業も含めて考えられるようになりましたね。

行動主義こそが成長を加速させるポイント

―― ヒューマンクリエイションホールディングス様は企業理念として『ITと人材で未来を創造する』を掲げていますが、ビジネスを進める上で特に重視しているポイントをお聞かせください。

富永:これは社員の前でよく話すことですが、まずは「行動」だと思います。検討しているうちに時間だけが過ぎていくというのは、避けたいですね。

当社のビジネスに限らず、変化を続ける世の中では実際にやってみないとわからないことのほうが多いでしょう。ですから、「行動」が事業を進める上で重要なポイントだと思います。

社員の自発的な行動を促すために、当社では特徴ある人事制度を設けており、いわゆる成果主義ではありません。成果に応じたリターンという形ではなく、行動の質や量が処遇に直結する制度になっており、「まずは行動する」ことを人事制度で支えています。行動したのであれば、良い結果が出なかったとしてもプラス評価をします。決してマイナス評価にはなりません。

この行動主義という考え方は上場前からある人事評価の物差しで、これは上場後も変わっていません。上場後は社員に対する還元も積極的にできるようになり、例えば当社グループでは係長職以上の社員にはストックオプションを付与しています。行動を評価し、その処遇として給与だけではなく上場企業の株式のリターンも得られることは、上場後に大きく変わったポイントといえるでしょう。

―― ヒューマンクリエイションホールディングス様が注力している領域や、得意としている領域はありますか?

富永:良く聞かれるのですが、どこかの領域に特化しているということは一切なく、全方位のお客様に対応しています。売上が最も大きいお客様であっても、売上シェアは数%です。特定のお客様や業種に依存しないことで、市場変化に対するストレス耐性を担保しています。

例えば、航空業界や飲食業界に特化したビジネスを展開していた場合、コロナ禍において相当苦しい時期があったと思われます。「~が得意」ではなく「すべて得意です」と言い続けてきましたが、上場を経てお客様にも伝えられるようになってきましたね。

―― 現在の事業課題は何でしょうか。また、それは上場に伴って発生した課題でしょうか?

富永:これは課題であり続けるものだと思いますが、行動主義というのは前年よりもスピードを上げる必要があるものと考えています。「常にスピードを上げて仕事を積み上げていく」という気持ちがないと、会社の成長は止まってしまうでしょう。

それは社員教育においても、経営陣の思考や判断においても同じです。行動に移してもすべてがうまくいくとは限らないので、その反省を次の行動にどう生かすかを考えて、コントロールする必要があると思います。

市場の変化に応じた柔軟な対応でさらなる事業拡大を目指す

―23年2月に日鉄ソリューションズ株式会社との資本業務提携を発表しましたが、どういう狙いがあったのでしょうか

富永:日鉄ソリューションズとの資本業務提携には、大きく2つの意味があります。一つ目は、資本政策としてです。ベンチャーキャピタルであるリサ・パートナーズが保有していた約17万8000株のうち、10万株を当社が自己株式として取得し、残りの約7万8000株を日鉄ソリューションズ(NSSOL)が購入しました。結果、リサ・パートナーズは当社の株主ではなくなり、当社は持株比率を向上させました。また、高い事業シナジーを期待できるNSSOL社に大株主になっていただくことで、これまで以上に強固な資本体制を築けたと思っています。

二つ目は、事業拡大の観点からです。NSSOL社とは現在も取引がありますが、今後は同社の案件への参画レベルが格段に上がる見込みです。また、人財育成の面でも、NSSOL社の教育プログラムに当社の人財を参加させて人材育成スピードを上げていく予定ですし、中長期的には両者の知見を組み合わせた新しい事業機会を生み出していくことが期待できます。

――激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面している課題と今後の日本経済の動向について、ご意見をお聞かせください。

富永:日本経済の環境がどうであれ、チャンスは常に転がっていると思います。例えば急激な円安や物価上昇など、良いニュースがない中ではビジネスチャンスもないかといえばそんなことはありませんし、市場環境変化への対応力さえあればビジネスを成功させることはできるのではないでしょうか。

現在の状況をどう捉えるかという話であり、ネガティブに捉え過ぎずに「マイナスな市場環境の中で、どうすればビジネスチャンスが生まれるのか」という発想があれば市場の影響を受けることもなく、逆にプラスのインパクトを生み出せるのではないかと思います。

―― ヒューマンクリエイションホールディングス様はIT分野の受託開発や技術者の派遣などの事業に強みがありますが、同様の事業領域を持つ企業が2023年以降の市場で成長するためのポイントは何でしょうか。

富永:当社グループの行動規範や評価基準は行動主義だとお伝えしましたが、行動を起こしてもらうための動機付けと、行動のスピードを上げるための継続性の両方を会社が担保する必要があると考えています。

当社グループの場合、動機付けに関しては「行動すれば評価される、それは処遇にも反映される」ということと「自分自身の成長にもつながる」ということを社員全員に理解してもらいつつ、リターンとして何があるのかを明確にしておくことが大切だと思っています。これは処遇や本人のスキルなど、続ければ続けるほど積み上がっていくものなので、継続する動機もきちんと用意しています。動機と継続性の両方を担保できれば、IT業界に限らず成長していけると思いますね。

成果に対するインセンティブのようなものを用意している会社は多いと思いますが、動機付けにはなるものの、毎年継続できるかといえばかなり難しいと思います。社員としても、毎年「前年の自分と戦い続ける」という状況になると3年、4年と続けていくのはなかなか難しいでしょう。

当社の場合は行動を積み重ねていく形なので、行動して一番得するのは本人なんですよね。行動することで実力が身に付き、仕事が段々楽しくなる。先月までできなかったことができるようになれば、本人も自身の成長を実感できるでしょう。これが継続性を担保できる理由です。

どの業界であろうと行動するのは「人」なので、社員がどのような考えで会社に在籍し、どのような考えで業務を続けていくのかを深く考えなければ、うまくいかないのではないでしょうか。

―― 上場からさらに成長するための目標(売上、成長、事業展開など)や、5年後、10年後にヒューマンクリエイションホールディングス様が目指す姿についてお聞かせください。

富永:当社グループが追い求めているものは、企業理念の『ITと人材で未来を創造する』に表れており、これは永遠に追い続けるべき指針です。

マーケット目線でいえば、プライム市場に上場することは最低条件だと思います。具体的に「~年後に」という数字は差し控えますが、まずはプライム市場への上場を目指します。

そこに到達するためには、お客様と社員の未来をきちんと作る必要があります。「ITというツールを通じて、お客様それぞれの経営課題を解決する、答えを創る」というミッションがあるので、その量と質を上げていくことが結果的にプライム市場への上場につながると思います。具体的な時期は申し上げられませんが、そこまでのシナリオはしっかり描いています。

今後の事業拡大におけるM&Aの方向性の一つは、一気通貫で案件を行うメンバーを増やしていくことですが、これだけだと事業領域がなかなか広がらないので、IT分野だけでなく、その周辺事業とのM&Aや業務提携も視野に入れるべきだと考えています。

―― 激変の時代に上場した企業は、投資家・富裕層から注目されます。そのような読者へメッセージをお願いします。

富永:当社グループは2021年に上場して、ようやくスタートラインに立ったところです。これからが本当の勝負だと考えており、持続的成長に向けた取り組みや継続のための動機付けについては、質・量ともに上げていかなければなりません。

激動の時代に上場したというよりは、すでにマーケットが激動の状態なので、対応力がなければすぐに置いていかれるでしょう。引き続きステークホルダーの皆様の協力を仰ぎながら、さらに努力を重ねたいと思います。