アパート経営など一棟物件の大家は通常、実際の入居者である賃借人と直接、不動産賃貸借契約を結ぶものである。その際、契約面での煩雑な実作業などが大家側に発生するのだが、それらを不動産業者が代わりに行ってくれる契約方法の1つに「マスターリース」というものがある。
そもそも、不動産賃貸借契約の方法はマスターリースとサブリースの2つに大別される。これから大家になるなら、2つの契約方法の違いを知っておくことが必要だ。本記事では、賃料の支払方法など両者の違いを紹介しつつ、マスターリース契約の概要やメリット・デメリットについても解説していく。
不動産賃貸借契約の方法の1つ「マスターリース契約」とは?
マスターリース契約とは、物件を所有するオーナーと不動産業者が結ぶ「特定賃貸借契約」のことを指す。オーナーから物件を一括して借りた不動産業者は、入居希望者に貸し出して家賃収入を得る。その後、不動産業者が手数料を差し引いてあらかじめ取り決めた賃料をオーナーに支払う仕組みだ。
不動産業者がオーナー、入居者とそれぞれに契約を結ぶことから、マスターリース契約は三者間契約の一つとして位置づけられている。
サブリースとの違い
マスターリースと比較される言葉にサブリースがある。どちらも間に不動産業者が入るので混同しやすいが、両者には明確な違いがある。マスターリースとサブリースの違いを把握しておこう。
言葉の意味とは?
マスターリースとは、簡単にいえば第三者への転貸を目的とした「一括借り上げ」という意味だ。一般的に賃貸物件は1戸ごとに借りるものだが、マスターリースでは不動産業者が物件のすべての部屋を一括して借り上げる。入居者に関わるすべての業務を不動産業者に委託できるため、オーナーは手間をかけることなく家賃収入を得ることができるのが魅力だ。
一方でサブリースは「転貸」という意味を持つ。一般的な不動産賃貸契約の場合、物件の貸主はオーナーとなるが、上図の通りサブリース契約では入居者に対する貸主は不動産業者となる。物件の所有者であるオーナーから不動産業者が物件を借りて入居者に貸し出すため、「転貸」という意味になるのだ。
誰と誰の契約なのか?
マスターリースとサブリースの大きな違いは「誰と誰が契約を結ぶか」という契約主体の違いである。マスターリースは、オーナーと不動産業者が「特定賃貸借契約」を結ぶのが特徴だ。特定賃貸借契約は、営利の意思を持って反復継続的に転貸する場合に該当する。そのため事情があって一時的に第三者に転貸する場合は該当しない。
一方、サブリースの契約主体は入居者(転借人)と不動産業者である。入居者と不動産業者が「転貸借契約」を結ぶため、オーナーが間に入ることはない。そのためオーナーは、入居者から直接家賃を受け取ることはできない仕組みとなっている。
マスターリース契約における賃料の2つの支払方法
マスターリース契約には、賃料の支払方法として「空室保証型」と「実績連動型」の2つがある。それぞれにメリット・デメリットがあるため、比較検討して選ぶことが大切だ。
空室保証型
空室保証型は、物件が満室か空室かに関わらず一定の家賃収入が保証される契約方法だ。「固定型マスターリース」と呼ばれることもある。不動産投資の最大のリスクは空室であるため、空室でも家賃収入が保証されることはオーナーにとって大きな安心につながる。
ただし、満室経営になっても当初契約した金額以上の家賃が入ることはない点は留意しておきたい。一般的には、満室経営時の賃料の15%程度を差し引いた額がオーナーに入るといわれている。
実績連動型
実績連動型は、部屋の稼働実績に連動して賃料が決まる契約方法のため、空室が出た場合は家賃が保証されない。家賃の保証がない半面、稼働率が良い物件であれば空室保証型よりも多くの家賃収入を得られる可能性がある。不動産業者の運営能力によるところが大きく、景気に左右されやすいのが特徴だ。「パススルー型マスターリース」と呼ばれる場合もある。
マスターリースのメリット
マスターリースのメリットとしては「契約面で手間がかからない」「相続税の節税になる」といった2点が挙げられる。
契約面での手間がかからない
マスターリースは、賃貸借契約書が不動産業者との1通のみとなる。個別の入居者ではなく不動産業者との契約になるため、入居のたびに1回1回契約する手間がかからない。最初に不動産業者と契約を締結すれば入退去が発生した場合でもオーナーが個別に対応する必要がないため、便利だ。中規模以上で物件の戸数が多いオーナーほど業務効率化のメリットは大きいといえる。
相続税の節税効果が期待できる
マスターリースは、相続税において節税効果が期待できる。相続税を節税するためには、相続税評価額を少しでも低くすることが必要だ。そこでポイントになるのが、土地の評価額と建物の評価額を計算するときに用いる「賃貸割合」である。相続税評価額は、賃貸割合が高いほど低く算出され、逆に空室が多いと高く算出される仕組みだ。
そこでマスターリース契約を結んでいれば、不動産業者にすべての部屋を貸し出していることになるため、賃貸割合を100%として計算できるのだ。
固定資産税評価額1億円のマンションの建物評価額
・賃貸割合50%(半分が空室の場合)
建物の相続税評価額=1億円×(1-30%×0.5)=8,500万円
・賃貸割合100%(満室の場合)
建物の相続税評価額=1億円×(1-30%×1)=7,000万円
※30%は借家権割合(全国一律)
マスターリースのデメリット
マスターリースにはデメリットもあるため、注意しておきたい。特に以下の2点は、デメリットとして心得ておく必要がある。
完全な賃料保証ではない
マスターリース契約では、賃料が完全に保証されているわけではない点に注意が必要だ。マスターリース契約は賃貸借契約であるため、借地借家法によって借主(不動産業者)はオーナーに賃料減額を請求することが認められている。
例えば、物件が劣化して空室が目立つようになった場合、賃料を下げて入居者を募集する場合もあるのだ。そのため契約当初の家賃よりも減額になることがある。契約時に家賃を減額する場合の条件についても確認しておいたほうが無難だろう。
オーナーから解約するのが難しい
マスターリース契約では、オーナーから解約することが難しいのも大きなデメリットといえる。マスターリース契約も賃貸借契約であるから、借地借家法によって借主(マスターリース契約をした不動産業者)の権利が保護される。物件を売却するためにどうしても解約したい場合は、違約金として契約書に記載した金額を支払うなどの方法をとる必要がある。
そのため家賃収入を目的とするインカムゲイン投資には適しているが、物件を売却してキャピタルゲインを狙う投資には、不向きな契約システムといえるだろう。
信頼できる不動産業者とのマスターリース契約で経営の安定につなげよう
オーナーは、マスターリース契約は結べるが、サブリース契約は結べない。不動産業者とマスターリース契約を結んだ場合、物件の運用は不動産業者に任せるしかなくなる。そのためオーナーが入居者を選ぶことができないことは、あらかじめ考慮することが必要だ。
マスターリース契約では、かつて大きな不祥事が起き社会問題になったことがあった。2018年にシェアハウスのサブリース契約を行っていた不動産業者が破たんしたことで、多くのオーナーが経営に行き詰まった「かぼちゃの馬車」事件である。
このような不動産業者とマスターリース契約を結んだ場合、大きな被害を受ける可能性があるため、注意が必要だ。同事件をきっかけに「賃貸住宅管理業法」が制定され、現在ではオーナーを保護するためにマスターリース契約に一定の規制がかかっている。
しかし、不動産業者選びが重要であることに変わりはない。マスターリース契約を結ぶなら信頼できる不動産業者を選び、経営の安定につなげることが求められる。
(提供:manabu不動産投資 )
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