特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

今回は、駅や街中で見かける周辺案内地図をベースとしたビジネスで圧倒的な国内シェアを誇る表示灯株式会社の代表取締役社長、德毛孝裕氏に話を伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

表示灯株式会社
德毛 孝裕(とくも・たかひろ) 表示灯株式会社代表取締役社長
広島県出身。1990年に大学を卒業後、日本電信電話株式会社入社。固定および携帯電話における営業・サービス開発をはじめ、国内・海外事業に至るまで通信分野に関する幅広い知見を有する。2020年8月表示灯入社、同年9月に執行役員 生産本部副本部長に就任。名古屋支社長、副社長執行役員を経て2022年6月より現職。デジタルインフラ分野の知見を活かし、当社が展開する事業活動とWeb領域の融合、新サービスの展開を目指す。
表示灯株式会社
1967年、愛知県名古屋市にて創業。いつの時代も「道を表し示す灯になりたい」を企業ビジョンとし、公共性の高い事業を展開。全国主要駅や自治体庁舎、病院などを中心に、地図広告・誘導サイン・デジタルサイネージの企画および設置運用、広告営業、デザイン・制作・施工をワンストップで提供する総合広告会社。

目次

  1. 表示灯株式会社の事業概要について
  2. 表示灯株式会社が誇る事業の強み
  3. 上場の狙いと上場後の変化について
  4. 今後の日本経済の行方について
  5. 表示灯株式会社の未来構想

表示灯株式会社の事業概要について

―― 御社の事業内容についてお聞かせください。

表示灯株式会社代表取締役社長 德毛孝裕氏(以下、社名・氏名略):本日は貴重な機会をありがとうございます。当社は1967年2月に名古屋の地で創業し、総合広告会社として、いわゆる広告付きの周辺案内地図(サービス名称:ナビタ)を中心に広告関連ビジネスを展開してまいりました。皆さんも鉄道駅の改札前にある案内地図をご覧になったことがあるかもしれません。
表示灯では地図や広告をコミュニケーション媒体と捉え、地域で暮らす人々の生活を豊かに彩る、さまざまな情報を発信しています。ナビタ誕生のあらましですが、バス停への設置からスタートし、鉄道駅、自治体庁舎といった社会インフラとなる場所でシェアを拡大してまいりました。設置数は鉄道駅が2,485駅、自治体庁舎は1,038ヵ所、警察関連施設(警察署、交番、運転免許試験場など)は136ヵ所に上ります。最近は全国の中核病院などの医療機関や神社や寺院など、新たな設置場所を開拓しております。
従来はフィルムに印刷をし、背面からLED照明をあてるナビタが中心でしたが、近年はWebやデジタルの活用も進めています。ナビタの設置場所は全国で3,500箇所以上ですが、うちデジタルサイネージを用いたナビタは2,000台を超えました。

▼ナビタの主な設置場所

表示灯株式会社
(画像=表示灯株式会社)

ナビタのビジネスモデルの特徴は、関係者がWin-Winであることです。
例えば、ナビタをAという鉄道駅に設置するとしましょう。当社では、このA駅をロケーションオーナー(設置場所を提供していただく方)とお呼びしています。 設置にかかるコストは基本的に当社が負担しますので、ロケーションオーナーには金銭的な負担はありません。A駅の利用者や付近を通行する方への、対人接触機会も低減できる情報提供手段としてナビタをご活用いただくことで、A駅の利便性向上につながります。

さらに、ナビタに広告を出稿していただく協賛スポンサー(クライアント)もいらっしゃいます。駅や自治体庁舎といった公共の場所での情報発信が可能になれば、広告主の信用も高まり、より集客が促進されやすくなります。協賛スポンサーからは広告費を頂戴しますが、ナビタ1台で多数の広告を同時掲載することができるため、スポンサーあたりの広告費をリーズナブルに抑えられるというメリットもあります。

ナビタの情報をご覧になるA駅の利用者や通行人の方は、わかりやすい周辺案内地図をご利用いただくとともに、周辺事業者の情報も得ることができます。ナビタの一部機種にはQRコードも掲載していますので、モバイル端末上で「地図を持ち歩く」こともできます。

このように、ナビタのビジネスモデルはロケーションオーナー、クライアント、施設の利用者、通行人すべてのお役に立てる仕組みとなっています。

▼ナビタのビジネスモデル

表示灯株式会社
(画像=表示灯株式会社)

表示灯株式会社が誇る事業の強み

―― 御社の強みは、どのようなところにあるとお考えでしょうか?

私は前職で通信業界にいたため、培ってきた知見を活かして当社の事業をさらに発展させたいと考えています。具体的には、ナビタ事業をリアルの場だけでなく、Webやデジタルの技術を用いたバーチャルな世界と融合させるなど、ネクストステージへの挑戦です。ビジネスでのデジタル活用が企業にとって不可欠なものとなる現代において、私が表示灯株式会社を外から見た時に強みだと感じたのが、「圧倒的にリアルな接点・媒体を多く持っていること」です。

現在ロケーションオーナー数は3,500以上、クライアント数は延べ約7万5,000件です(2022年12月末現在)。クライアントは医療業界やサービス業界、飲食業界、教育業界、介護・福祉業界など、多岐にわたります。培ってきたクライアントとの関係性を基盤としながら、クロスセル・アップセルという観点で新たなサービスを成長させていくことができれば、大きなアドバンテージになると考えています。
近年では病院などの医療機関やその来院者に対し、新たな医療業界向けサービスを開始しており、順調にご契約数を増やしています。

▼クライアント数詳細

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(画像=表示灯株式会社)

上場の狙いと上場後の変化について

――2021年4月に東証二部(現:東証スタンダード)へ上場されましたが、上場後の変化についてお聞かせください。

当社は「社会貢献性の高いビジネスをつくる」という志でスタートした会社です。創業から50年以上が経った今もなお、新しいメンバーを含めて同じ気持ちで取り組んでいるのですが、上場はこうした志が一つの形として世の中に認めていただけた証だと受け止めています。創業の地であり本社がある名古屋では地元の方々から応援の声を頂戴し、ありがたいことだと感じております。
上場後の変化としては、総じて認知度の向上や信頼力の高まりを感じています。以前は、ナビタそのものが知られていても「表示灯」という社名は無名に近かったと思います。上場したことで社名を覚えていただけるようになり、営業活動でお伺いした場面でも耳を傾けていただきやすくなりました。

近年、さまざまな企業様との業務提携が進んでいることも変化の一つです。実際に駅探様やナビタイムジャパン様との協業が始まっており、サービスの拡充につながっています。

上場は、私たちの考えを世の中に発信する大きなチャンスでもあります。コロナの影響によって業績面では耐え忍ぶ状況が続いておりますが、下を向くのではなく、表示灯の取り組みをご理解いただけるように、積極的にステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを図りたいと考えています。

今後の日本経済の行方について

――現在の日本経済が直面している課題や、これから企業が求められることはどのようなものだとお考えでしょうか?

「失われた30年」といわれるように、日本経済はバブル崩壊やリーマンショックという荒波を経験し、厳しい状況が続きました。この状況に追い討ちをかけるように新型コロナウイルスが流行し、また国際情勢への懸念や物価上昇なども重なり、非常に苦しい状況です。
そのような状況が続いたことで、日本の企業は守りの意識が強くなってしまいました。取り残されないようにしがみつくことで精一杯だったのですね。その結果、「時代を先読みしてイノベーションを起こそう」という攻めの姿勢が弱まっている気がします。
苦しい状況は続いていますが、このままでは何も変わりません。守りの姿勢から脱却する力こそが、これからの時代に必要なのではないでしょうか。

日本経済への大きなプラス要素として考えられるのはインバウンド需要や観光産業で、国としても今後もバックアップしていくでしょう。当社の事業もインバウンド需要と相性が良いため、起爆剤となることを期待しています。神社や寺院へのナビタ事業の進出はインバウンド需要を想定したもので、日本の神道や参拝方法を正しいニュアンスの英語で発信しています。インバウンド需要復調の波にうまく乗れるよう、自社の強みを活かしながら、さらなる成長を目指してまいります。

表示灯株式会社の未来構想

――最後に、中長期的な目標と未来構想についてお聞かせください。

創業から56年が経ち、売上高100億円規模の企業へと成長することができました。近年はようやくコロナ禍の影響から脱しつつあり、受注件数にも回復の兆しが見えています。今後は成長を加速させ、中長期的な目標として売上高が一桁アップする拡大路線を目指します。ゆくゆくは、東証プライム市場への上場も視野に入れたい考えです。成長を加速させるために、従来のビジネスへの堅実な取り組みに加えて、デジタル技術を使った新規事業の推進、そしてM&Aにも力を注いでいく方針です。

デジタル活用については、さまざまな事業がスタートしています。1つはQRコードを活用した「ナビタ特設サイト」。当社にはナビタの他にも、紙媒体の「ペーパーナビタ」といったナビタブランドの関連商材がありますが、新たにWebサイト「ナビタ特設サイト」も導入しました。「ナビタ特設サイト」は、地域ごとの観光情報や協賛スポンサーの情報を詳しく紹介するサイトです。周辺案内地図や紙媒体に特設サイトのQRコードを掲載することで、リアルとWebの融合を図りました。利用者は、スマホなどのモバイル端末で情報を手軽に持ち歩けます。

▼QRコードを使いリアルとWebを融合

表示灯株式会社
(画像=表示灯株式会社)

医療機関向けサービスについては、市内医療機関の検索機能や、診療予約・事前問診機能の追加を予定していますし、ナビタイムジャパン様との協働によるコミュニティバスのデジタルサイネージ広告事業や、乗換案内サービス駅探様と当社のフリーペーパー事業とのコラボも始まっています。

デジタルサイネージについては今や多くの企業が活用していますが、運用管理に苦心しているという声も聞きます。表示灯には、ベンダーの枠を超えて多数のデジタルサイネージを運用管理する実績とノウハウがありますので、それを活かした運用プラットフォームサービスを提供できるのではないかと、ご提案を始めています。

上場したことで表示灯の知名度が向上すると同時に、市場からのご期待もひしひしと感じております。当社は周辺案内地図というニッチマーケットでトップシェアを維持しており、基本的なビジネス基盤は底堅いといえます。積み重ねてきた「周辺案内地図=リアル」の接点はWebとの相乗効果をもたらし、より人々の暮らしに役立つ独自性のあるサービスを提供できると自負しています。さらなる成長のため、社員一同邁進してまいります。ぜひご期待ください。

※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です。