外為マーケットレポート
(画像=外為どっとコム マネ育チャンネル)

一時再び0.50%の利上げに戻るのか、それとも0.25%の利上げに留めるのか、それとも思い切って利上げ停止となるのかが注目された3月のFOMC.は市場の大方の予想通りの0.25%の利上げで終了した。

今回の声明文では、今後の複数回の利上げを示す“継続的な”という表現が無くなって利上げの到達点に近づいていることが示唆されたが、パウエル氏はFOMC.後の会見で“必要であれば、さらに利上げをする。”と強調し、インフレを重視して今後も利上げを続けるのか、或いは金融不安を重視してそろそろ利上げを打ち止めにするのかについてはっきりとしない態度を示した。

FRB.は2022年3月から0.25%の利上げを開始し、5月に0.50 %、その後6月、7月、9月、11月にそれぞれ0.75%ずつ合計3%の利上げを行い、12月は0.50%そして2月に0.25%の利上げと徐々に利上げ幅を縮小していたが、2月に発表された1月の米国経済データがことごとく市場予想を上回るものばかりで3月のFOMC.では再び0.50%の利上げが妥当であろうとの認識が市場に先走った。

パウエル議長はつい3週間前の米連邦議会上院での証言で、いったん縮小した利上げ幅を再度拡大する可能性を示唆した為、市場はFRB.が再びタカ派(金融引き締めに積極的)に逆戻りしたと理解したが、此処にシリコンバレー銀行破綻やクレディット・スイスのUBS.による合併などの激震が走って再びハト派的(金融緩和に積極的)な姿勢に戻らざるを得なかった感が有る。

振り返ってみると米国でのインフレ懸念が台頭した2021年の夏頃、パウエル議長は“米国のインフレは一時的なものである。”と述べて市場の利上げ期待を一蹴した。

その後米国の消費者物価指数は10月6.2%、11月6.8%、12月7.0%、1月7.5%、そして2月7.9%と上昇を続けてついにFRB.は3月に利上げに踏み切った訳であるが、消費者物価指数は6月についに9.1%まで上昇し続けることとなる。

現在筆者を含め何人かが疑問に思っているのは、2022年3月の利上げ開始のタイミングが遅きに失したのではないのかと言うことである。

言い換えれば、パウエル議長の昨年夏からの“米国のインフレは一過性のものである。”との認識が間違っていたのでないかと言うことである。

その後の米国インフレ加速を見てFRB.は通常の3倍に当たる0.75%の利上げを4回も行った訳であるが、今回のシリコンバレー銀行、そしてそれに続く一連の銀行の問題はある意味このFRB.の急激な利上げの犠牲者であったと言えなくもない。

問題銀行の長期金利動向の読み間違えと言ってしまえばそれまでであるが、急激な利上げと言う金融政策のみならず、中央銀行としての監督責任は免れることは出来ないのではないか?

FRB.の調査によると3月9日から15日までの1週間で米国の中小銀行から約1200億ドル(約15兆7千億円)もの巨額の預金が引き出されたらしい。

何故この巨額の預金が引き出されたかと言うと、預金者が自分が預金を預けている銀行に対する信頼性を失ったからである。

最近はSNS.などのオンラインでの風評で消費者は一斉に行動を起こす。
そして店頭に並ばなくても、これまたオンラインで一斉に巨額の預金を引き出す。

既に名前の挙がった幾つかの銀行だけで今回の金融不安が収まったかどうかは定かではない。

先週末にはドイツ最大の銀行であるドイッチェ・バンクの株価が15%も急落した。
実はドイッチェ・バンクはかねてからデリバティブ商品(オプションなどの派生商品)の残高が巨額過ぎて、市場は“大丈夫なのか?”との疑問を抱いていた矢先の株価下落である。

市場に“他にも問題銀行は居るのではないか?”との猜疑が生じても不思議ではない。

一時大統領候補として持て囃された米民主党上院議員のエリザベス・ウォーレン氏が、米財務省の銀行審査官や米連邦預金保険公社(FDIC)、FRB.に書簡を送り、シグネチャー・バンクを破綻させる要因になった銀行監督の対応の不手際を調査し、30日以内に議会に提出するよう求めた。議会は今後、2018年に緩和された中堅銀行への規制を再び強化する法案を検討する可能性もある。預金取り付けリスクが他の地銀にも広がる懸念があるからだ。

こうなると市場は当然リスク・オフに動き、投資家は既存の債権の圧縮・処分に走り、新たな投資を控える。

結果として安全資産である債券が買われて金利は下がる。
金も大幅に上昇した。

米国30年債利回りも4%台から3.3%台へと下落し、つい先日までイールド・カーブ・コントロール(YCC.)の上限である0.50%に張り付いていた我が国の10年債利回りも金曜日、0.28%まで下落した。

為替市場では安全通貨と目されるドルと円が買われて対ドルと対円で主要通貨は下げ、米国30年債利回りの下落につれてドル・円相場は一時129.65の安値を付けた。

週明けの東京市場ではドル・円相場は130円台を回復しているが、その頭は重い。

未だ欧米発の金融不安が落ち着かない現在では、安全資産と目される円は中々売れない。
暫くはドル・円の頭が重い展開は続くことになろう。


リスク・オフは文字通り、リスク・オフ。
リスクをオフにするのが賢明である。

FRB.高官からのタカ派的スタンスからの変化、欧米の金融システムに対する不安の増長などのニュースを注視したい。


今週のテクニカル分析の見立ては下値を大きく切り下げたことで更なる下落を示唆。
先週安値の129.65を下切れば127円台も有り得る。
上値は134.00まで大きなレジスタンス(上値抵抗線)は無し。