本記事は、荒木俊哉氏の著書『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
〝メモ書き〟が「無意識の思い」を言葉にしてくれる
ではなぜ「とりあえず書いてみる」ことが、言語化力を身に付けることにつながるのでしょうか。
「仕事として毎日コピーを書いていたら、最初はどんなに素人でもさすがに言語化力は身に付くでしょ?」と思う方もいるかもしれません。おっしゃりたいことはわかります。
ですが言語化力を身に付ける上で大事な行為は、「とりあえずコピーを書いてみる」という行為では決してありません。大事なのは、自分が考えたことを「とりあえず書き出してみる」という行為なのです。
でも、なぜそう言い切れるのか。
その理由について、「書き出すことで言語化力が磨かれる脳の仕組み」を自分なりに考え、あらためて整理してみました。ここからお伝えすることは、あくまで自分の経験をもとにした仮説です。もちろん、私は脳科学者ではありません。あくまで私が普段の仕事を通じて感じている言語化の流れを、よりわかりやすくイメージしていただくためにまとめたものになります。ですが、なぜ「とりあえず書き出してみる」ことが言語化力につながるか、その理由が少しはご理解いただけるのではないかと思います。
「とりあえず書き出してみることで言語化力が磨かれる」過程には、図表6のように6つのステップが存在していると感じます。ここからは、そのステップをひとつずつお話ししていきます。
(1)「思い」のほとんどは頭の中で言語化されていない
どんなテーマでも構いませんが、あなたがある物事に対して抱いている「思いや意見」は、そのほとんどが言葉にならない漠然としたイメージとして脳の中に蓄積されています。言葉になっているのは、ほんの一部。残りは言葉にならない状態で、無意識下に置かれているといってもいいかもしれません。
だから、意識しなければ、無意識に感じていた「思いや意見」を思い出すこともありませんし、言葉にして誰かに伝えることもできません。
(2)頭の中にあるほんの一部の「言葉」を、まずは書き出してみる
そこで、あなたが無意識に感じていたさまざまな「思いや意見」の中で、ほんの一部だけ「言葉」になっているものを、まずは書き出してみます。自分の思いや意見を、自分の脳内からいったん切り離して、客観的に眺めてみるようなイメージです。
実は、ここが非常に重要なポイントです。この工程を頭の中だけで行うことは非常に難しいからです。物理的に書き出したものを見ることで、より客観的に、より効率的に自分の思いや意見とあらためて向き合うことができるようになります。
(3)書き出された「言葉」がトリガーとなり、「無意識の思い」が言語化される
書き出すことで自分の脳内から切り離した「思いや意見」は、自分がこれまでに無意識に感じていたことを言語化するトリガーになってくれます。書き出した言葉をきっかけに、そのときに具体的にどう感じたのか、なぜ自分がそう感じたのかなどが、まるで連想ゲームのように自然と言語化されていきます。
まず書き出してみた言葉が、自分の思考を深め、無意識に感じていたことの言語化を進める道しるべになってくれるのです。
(4)言語化された「無意識の思い」をさらに書き出す
そうやって脳内で追加で言語化された「思いや意見」を、再び書き出していきます。そうすることで、あなたはさらに自分の思いや意見を客観的に見て、気づくことができるようになります。これを繰り返していくことで、あなたが無意識に感じていたことの言語化が芋づる式に次々と進んでいきます。
(5)追加で書き出された「言葉」が再度トリガーとなる
そうやって目の前に書き出されたさまざまな言葉。それらは、漠然としたイメージとして脳内に眠っていた、あなたが無意識に感じていた思いや意見、その理由の数々です。それらをあらためて「言葉」の状態で、あなたは再認識することができます。
(6)「思い」が言葉の状態で大量にストックされる
そうすることで、脳内には、無意識に感じていたことが「言葉」の状態であらためてストックされていきます。その状態になれば、たとえ誰かに急に意見を求められたとしても、パッと言葉で返すことができるようになります。その状態こそが、「言語化力のある状態」といえると私は考えています。
いかがでしょうか? 書き出してみることで言語力が磨かれる理由について、少しでもイメージが湧いてきたと感じていただけたらとても嬉しいです。
先ほどもお話しさせていただきましたが、言語化力を磨く上で一番重要なポイントは「とりあえず何かを書き出してみることで、一度客観的に自分の思いや意見を知る」という点です。
あなたが感じていることのほとんどは、言葉ではなく漠然としたイメージとして脳の中に眠っています。ですので、とりあえず言葉にできるもの、とりあえず書き出せるものは、あなたが無意識に抱いている思いや意見のうちの氷山の一角でしかありません。
そして、具体的にどう感じたのか、なぜ自分がそう感じたのかなど、その深い部分まではすぐには言語化することができません。
でも、その深い部分にこそ、あなた独自の「思いや意見」が詰まっています。誰かに伝えるときも、それがあることで、より説得力が生まれるはずです。
だからこそ、とりあえずひとつ書き出してみて、今まで言語化されていなかった深い思いや意見を言語化するきっかけをつくり出すこと。その工程が非常に大事だと考えています。そして、その工程を頭の中だけで行うことはとても難しいのです。
ここまで少し概念的な話が続きましたので、ひとつ具体的な例を挙げて一緒に考えてみたいと思います。
たとえばあなたが、隣の席の後輩からチェックを頼まれた報告書を読んでいたとしましょう。目を通していくと、何か引っかかる。違和感がある。でも、その原因が何かははっきりとはわからなくて、「うまく言葉にできないんだけど、ここの部分がなんかしっくりこないんだよね」としかアドバイスできなかった。そんな経験はないでしょうか。
「何か違う」と感じている自分には気づいても、なぜ自分が「何か違う」と感じたのかまで頭の中で「言葉」にすることは案外難しいものです。
ところが、もしも後輩へのアドバイスをメールで送るとしたらどうでしょう。メールの場合は、自分が感じた違和感の理由まで「言葉」にする必要があります。「作ってもらった資料、なんかしっくりきません。以上。」だけだと、さすがにアドバイスにもなりませんので。
そこで、資料を読んだときの違和感の理由まで、メールを書きながら自分でも整理しようとする。そうやって書いて言葉にしてみることで、自分が「何か違う」と感じた理由に自分自身でも気づいていく。
もしかしたら、あなたもそんな経験があるのではないでしょうか?
先ほどお伝えした「とりあえず書くことで、あなたの中に眠っていた無意識に感じていることが次々と言語化できるようになる」という意味は、まさにそれです。ここで書いた「次々と言語化できる」とは、もう少し丁寧にいうと、自分が無意識に感じている「思いや意見はもちろん、その理由までちゃんと言葉にできる」ということなのです。
そのためには、繰り返しになりますが、書き出すことが非常に効率がいい。自分が無意識に感じていることを言葉にして、その理由まで全て頭の中だけで深掘りしていくと、途中で整理ができなくなって収拾がつかなくなることが往々にして起こります。挙句の果てには考えることを放棄してしまう。
しかし、とりあえず書き出していけば、自分が感じたことを順を追って整理できますし、なぜそう感じたのかまでどんどん言語化できるようになるのです。
さらに、書き出すことで無意識に感じていたこと、自分の中のモヤモヤが目に見える形で整理されることに加えて、もうひとついいことがあります。
自分の頭の中で眠っていたさまざまな思いや意見、その理由を書き出してみて、一度ずらりと「言葉」の状態で眺めてみる。そうすることで、自分にとって特に大切にしたい思いや意見がどれなのかにも、あらためて気づくことができるようになるからです。「この意見はわりと普通だな」とか「これは他の人は気づいていない視点かもしれない」など、自分の思いや意見に優先順位をつけることもできるようになります。
そのことが、あなたの発言やあなたが書く文章をより魅力的なものにしてくれるはずです。
このように、「とりあえず書き出してみる」という行為は、自分が無意識に感じていたことや、そう感じた理由を言語化するための近道なのです。
一橋大学卒業後、2005年に株式会社電通に入社。営業局の配属を経てクリエーティブ局へ。その後は、コピーライターとしてさまざまな商品・企業・団体のブランディングに従事。これまで手掛けたプロジェクトの数は100以上、活動は5大陸20か国以上にのぼる。
世界三大広告賞のうちCannes LionsとThe One Showのダブル入賞をはじめ、ACC賞、TCC新人賞、NIKKEI ADVERTISING アワード、YOMIURI ADVERTISING アワード、MAINICHI ADVERTISEMENT DESIGN アワードなど、国内外で20以上のアワードを獲得。
広告以外にも、国際的ビッグイベントのコンセプトプランニングや、スタートアップ企業のビジョン・ミッション・バリュー策定のサポートも行う。また、毎年一橋大学でコピーライティングやアイデア発想のゼミも開講している。
コピーライターとしての長年の経験を通して「どう伝えるか」の前に「何を伝えるか」こそが大切だと感じるようになり、本書を執筆。本書が初の著書になる。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます