本記事は、荒木俊哉氏の著書『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
言葉が人に刺さるかは、「何を言うか」で決まる
コピーライターと仕事をしたことのない方に「コピーライターはどんな仕事をしていると思いますか?」と質問をすると、たいてい「キャッチコピーを考える仕事」、つまり「『どう言うか』を考える仕事」と答える方が多いなと感じます。
それは決して間違ってはいないのですが、キャッチコピーを考える仕事は、コピーライターの仕事のほんの一部にすぎません。
結論を先に申し上げますと、言葉が人に刺さるかどうかは、ほとんどが「何を言うか」で決まるといっても過言ではありません。ですから、私たちは「何を言うか」を考える時間を非常に大切にしていますし、その「言語化力」にこそ実はコピーライターの力量が表れるのです。
では、なぜ、言葉が人に刺さるかどうかは「何を言うか」で決まるのか。その理由について、コピーライターの仕事を例にもう少し具体的にお話をしてみましょう。
たとえばクルマのキャッチコピーを考える仕事があったとします。そのときに、私たちは大きく2つのステップに分けてキャッチコピーを考えています。それが、「what to say」と「how to say」というステップです。わかりやすくいうと、「what to say」は「何を言うか」。「how to say」はそれを「どう言うか」という意味になります(図表4)。
あなただったら、どんな「what to say」を思い付きますか?
クルマの「何の魅力」を言えば世の中の人に響くのか。そのクルマが好きになったり、欲しくなったりしてもらえるか。その正解は決してひとつではありません。「what to say」を考える上で大切なのは、フレーズや言い回しにはこだわらず、思いつくままにどんどん書き出していくことです。早速ですが、あなたもやってみましょう。試しに、1分間考えてみてください。
1分間考えていただいたら、次の例を見ながら話を進めていきましょう。
クルマの「what to say」の例
- デザインが美しい
- 色がかわいい
- 誰でも運転しやすい
- サイズ感がちょうどいい
- 家族で乗れる
- 長時間乗っていても疲れにくい
- 燃費がいい
- 荷物がたくさん積める
- 作り手の思いやこだわりに溢れている
- 何世代も進化してきた歴史がある
- すでに多くの人に選ばれている
ここに書いたもの以外にも、クルマの「what to say」はたくさんあると思いますが、果たしてあなたはいくつ思いつきましたか?
時間が足りずに苦労しませんでしたか?
クルマに対して、何となくぼんやりしたイメージはあるんだけど言葉にするのが難しかったと感じませんでしたか?
ここで感じていただきたかったのは、まさにそこです。
あなたは生活をしていて、ほぼ毎日、クルマという乗り物を目にしているはずです。
道を歩けばそこら中をクルマが走っている。テレビをつければクルマのCMが流れている。そもそもクルマに乗って毎日通勤しているという人もいるでしょう。
なのに、クルマの持つ魅力をいざ質問されると、パッパッパッと答えるのは、案外難しかったりします。
では、なぜ答えられないのでしょうか?
その理由は、あなたが普段感じていることや思っていることが、あなたの頭の中できちんと言語化されていないからです。
あなたの思いや意見が頭の中で「モヤモヤした状態」のまま放置されているので、急な質問に対してとっさに言葉が出てこない。それはつまり、コミュニケーションにおいて「何を言うか」がわからなくなっている状態といえるでしょう。
「何を言うか」にこそ〝あなた独自の視点〟がある
では、なぜ、キャッチコピーを作る過程で、「what to say(=何を言うか)」を考えることが大切なのか。なぜなら、「新しい視点」こそが人を魅了し、人を動かすからです。
クルマのキャッチコピーを見た人に「そうか、これまで考えたこともなかったけど、クルマの魅力にそんな視点があったのか」と思わせられたら大成功です。その「独自の視点」こそがキャッチコピーを見た生活者をつき動かします。
それはキャッチコピーだけでなく、普段のコミュニケーションにおいても同じです。先ほどの販促ポスターデザインの例を考えた際、3人の中でCさんだけが「独自の視点」を持っていました。そして、そんな「独自の視点」を持った意見に、私たちはハッとさせられました。
あなたが普段仕事をしていて、「この人の言うことは自分に新しい発見や気づきをくれるな」と感じた人に対して、自然と好意や尊敬の念が生まれた経験をしたことはきっとあると思います。
一方で、「どう言うか」では「視点」そのものは変わりません。同じ視点のことを言い方を変えているだけで、「新しい視点」を加えるためには、「何を言うか」そのものを考える必要があるのです。
あなたが「何を言うか」で、あなたの評価は大きく変わる。このことを理解していただけただけでも、本記事書いた意味はあると私は考えています。
もちろん、「how to say(=どう言うか)」を考えることもコピーライターの大事な仕事です。レトリック表現や効果的に数字を使った表現など、さまざまなテクニックもありますが、その部分については割愛したいと思います。
なぜなら、さまざまな「伝え方」の本があの手この手で指南している「どう言うか」のアドバイスは、残念ながら、あなたの悩みを根本的に解決したり、あなたの評価を劇的に上げたりすることにはつながりづらいと考えるからです。
いかに上手に伝えるか。いかに魅力的に話せるか。それはそれで大事な技術ではありますが、あくまでコミュニケーションにおける最後の最後のテクニック論の話。「はじめに」でも触れましたが、あなたがいくらおしゃれな服を身に着け着飾っても、最後はあなたの中身が問われる。そんな感覚に近いかもしれません。
うまく話したり、伝えようとしたりする必要はないのです。周りの人が聞きたがっているのは、しっかりと言語化されたあなたの思いや意見。つまり「何を言うか」です。
ここまで、コピーライター的思考で言葉のコミュニケーションを「何を言うか」と「どう言うか」に分解し、「何を言うか」が何より重要だというお話をしました。
実は、昨今その重要性がますます高まっていると感じることがあります。それが新型コロナウイルスの影響による働き方の変化です。
一橋大学卒業後、2005年に株式会社電通に入社。営業局の配属を経てクリエーティブ局へ。その後は、コピーライターとしてさまざまな商品・企業・団体のブランディングに従事。これまで手掛けたプロジェクトの数は100以上、活動は5大陸20か国以上にのぼる。
世界三大広告賞のうちCannes LionsとThe One Showのダブル入賞をはじめ、ACC賞、TCC新人賞、NIKKEI ADVERTISING アワード、YOMIURI ADVERTISING アワード、MAINICHI ADVERTISEMENT DESIGN アワードなど、国内外で20以上のアワードを獲得。
広告以外にも、国際的ビッグイベントのコンセプトプランニングや、スタートアップ企業のビジョン・ミッション・バリュー策定のサポートも行う。また、毎年一橋大学でコピーライティングやアイデア発想のゼミも開講している。
コピーライターとしての長年の経験を通して「どう伝えるか」の前に「何を伝えるか」こそが大切だと感じるようになり、本書を執筆。本書が初の著書になる。 ※画像をクリックするとAmazonに飛びます