ESG(環境・社会・ガバナンス)は投資家だけでなく、大手企業にとっても投資先や取引先を選んだり、企業の持続的成長を見たりする際の重要な視点になりつつある。本特集では、各企業のESG部門担当者にエネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施している。

サントリーホールディングス株式会社は大阪に本社を構え、120年以上も酒類や飲料を製造・販売している大手企業。「水と生きる」を掲げ、水に対するサステナビリティ活動に古くから精力的に取り組んでいる。

本稿では、飲料メーカー大手であるサントリーホールディングス株式会社のサステナビリティ推進部 部長の輿石 優子氏に、水を取り巻く環境を中心としたESGへの積極的な取り組み、未来を拓こうとする企業の活動や目標、現状の課題などを伺った。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

サントリーホールディングス株式会社
輿石 優子(こしいし ゆうこ)
――サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 サステナビリティ推進部 部長
2000年東京大学卒業、サントリーに入社。飲料、輸入酒のマーケティングを経験した後、2011年一橋大学大学院(ICS)にてMBAを取得。海外事業開発、コーポレートコミュニケーション、ならびに米国勤務を経て、コーポレートサステナビリティを担当。2020年4月より現職。サントリーグループのサステナビリティに関するコミュニケーションを担当する

サントリーホールディングス株式会社
酒類や清涼飲料の製造、販売事業を中心に国内に限らずグローバルに展開。その他、健康食品や外食など多彩な事業に取り組む。本社は大阪府大阪市。1899年、創業者鳥井信治郎が鳥井商店を開業しぶどう酒の製造販売を始めたところから歴史が始まる。
https://www.suntory.co.jp/
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年生まれ、埼玉県出身。東京都にて就職した後24歳で独立し、情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳の時、株式会社アクシスの事業継承のため家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. 事業の軸でもある「水」への取り組みを中心としたサステナビリティ
  2. 正しい水の循環を通じて地域社会とつながる
  3. 製品やサービスを通して人の生活を豊かにする活動を行う
  4. より環境負荷の少ない技術の開発で環境保全に貢献する

事業の軸でもある「水」への取り組みを中心としたサステナビリティ

株式会社アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):アクシス代表の坂本です。弊社は鳥取県に本社を構える、システム開発を中心としたIT企業です。ここ10年は再エネの見える化に関するプロダクトも手がけており、クライアント企業のDX支援もしています。地方にありながら、お客様の90%は首都圏のプライム企業であることも特徴です。今回は、御社のESGに対する取り組みについて勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。

サントリーホールディングス株式会社 輿石氏(以下、社名・氏名略):サントリーホールディングス株式会社のサステナビリティ推進部にて、主にサステナビリティのコミュニケーションを担当しております輿石です。当社は環境の中でも特に「水」への取り組み、その中でも「サントリー天然水の森」という取り組みを長く行っておりますので、本日はその辺りを中心にお話させていただければと思います。

坂本:初めに、御社のESG(サステナビリティ)活動における考え方について教えて下さい。

輿石:サントリーグループは飲料だけでなく酒類も扱いますので、水はとても重要なものであり、蒸溜所やビール工場は基本的に良い水のある土地につくってきたという歴史があります。

▼サントリーグループの沿革

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

水は用途が非常に多く、その土地に根差したローカルな資源であると考えています。サントリーの工場があるという観点も重要ですが、サントリーは自然界における水の循環の一部であり、我々が循環を損ねることなく健全な循環に貢献することが重要であるというのが、基本的な考え方です。

その考え方をグループの中でも可視化して共有していくために、2017年に「サントリーグループの水理念」を定めました。当社にとって水は原料として非常に重要であるだけでなく、その地域の貴重な共有資源であるという観点で「水の循環を知る」「大切に使う」「水源を守る」「地域社会と共に取組む」という4つの柱を定めています。

▼サントリーグループの水理念

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

当社は最終的に製品としてお届けしていますが、その裏には当然のことながらサステナブルな水への取り組みがあります。また、使った後の水が河川や海に流れて蒸発して雲になり、雨になってまた水源に戻るというサイクルにおいて、当社は上流と下流で取り組みを行っています。水が循環する地理的な空間を流域と呼びますが、流域単位で考えることで自社工場の敷地内のことだけを考えるのではなく、河川の上流や工場のある地域コミュニティなど、全体的な水のサステナビリティに取り組むことが重要であると考えています。

坂本:御社がグループで掲げる価値観として「利益三分主義」を挙げています。この言葉の意味と、御社の中でこの価値観がどのように根付いているか教えていただけますでしょうか。

輿石:利益三分主義は当社の果敢なチャレンジ精神を示す「やってみなはれ」という価値観と同じぐらい重要なもので、従業員が行動規範とすべき価値観と考えております。これは創業者の鳥井信治郎が唱えた経営哲学で、基本的に当社の事業はあくまでもお客様や社会があって初めて成り立ち、社会は自然があって初めて成り立ちます。それを理解した上で、事業で得た利益を会社の成長のためだけに使うのではなく、支えてくださっている世の中にもお返しし、役立ててもらおうというのが利益三分主義の考え方です。この価値観については、時代ごとの課題に合わせながら少しずつ取り組み自体を変化させています。

例えば、当社の創業は1899年で120年以上続く会社ですが、初期の頃は無料診療所など、社会福祉的な取り組みに注力していました。やがて第二次世界大戦が終わり、高度経済成長期に入って物が豊富になる中で、心の豊かさが非常に重要だと考えた二代目社長の佐治敬三は文化活動に力を入れ、サントリーホールやサントリー美術館などをつくりました。

2000年代前後から環境面での取り組み、なかでも当社の命ともいえる水に関する取り組みとして2003年に「サントリー天然水の森」活動を始め、2004年には子どもたち向けの教育プログラムである「水育」も始めました。

正しい水の循環を通じて地域社会とつながる

坂本:御社は「水資源の持続可能性」のため、「サントリー天然水の森」という活動を2003年から展開されています。具体的な活動内容と社会的意義についてお聞かせください。

輿石:サントリーでは、工場流域におけるウォーター・スチュワードシップ活動を進めています。ただし、流域の水の循環に関してしっかりと科学的に理解をしない限り、水源を正しく守る行動にはつながりませんので、まず初めに行うのが「水循環を知る」という取り組みです。当社には「水科学研究所」という組織があり、そこの研究者と外部の専門家の方々とともに、自然界の水の循環について科学的に調べ、当社が取水している水の源泉を確認し、その上で水源を守るための取り組みを行うのが、当社の「サントリー天然水の森」という取り組みです。工場で水を大切に使うことは当たり前ですが、工場は地域社会の皆様に支えられていますので、「地域社会と取り組む」という観点で水の大切さを次世代の子どもたちに伝える「水育」という小学生向けのプログラムを20年近く行っています。

▼流域の概念図と、ウォータースチュワードシップ活動

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

工場だけを見るのではなく全体的に取り組むというのが世界的な潮流ですが、当社はその潮流が見られる前から同様のアプローチを行っておりました。そのため、「水のサステナビリティ」をグローバルにリードするAWS(Alliance for Water Stewardship)という国際機関からも、当社の工場が流域単位の水のサステナビリティに取り組んでいるという認証をいただいています。現在日本でAWSから認証を受けているのは、サントリーの3つの工場のみです。

▼AWS認証取得の歴史

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

認証をいただいただけでなく、AWSとサントリーは日本におけるウォーター・スチュワードシップ活動という概念を広めていくためのパートナーシップを組んでいます。今年の2月には日本初の国際会議を開催し、AWSのCEOの方などに登壇いただき、ウォーター・スチュワードシップの理解促進に努めました。同じタイミングで、日本で初めてAWS認証を受けたサントリー九州熊本工場が最高レベルの評価「Platinum」を取得したことを発表させていただきました。

水源での取り組みに関しては「サントリー天然水の森」の活動に凝縮されています。現在、当社では日本で1万2千ヘクタール、22ヵ所の森を整備しています。当社が日本の工場で汲み上げている地下水の2倍以上の水を涵養する形でウォーターポジティブの取り組みを進め、2014年に設定したこの目標を、一年前倒しの2019年に達成することができました。

▼「天然水の森」活動の整備目標

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

そもそも地下水は降った雨の一部として蒸発したり、地表を流れたり、また、土壌に浸透した水が深い岩盤層を通り抜けてミネラルが溶け込み深層地下水として育まれます。当社の「天然水」という製品や「ザ・プレミアムモルツ」などは、この深いところにある地下水を汲み上げて使っています。降った雨が深層地下水として汲み上げられるまで約20年かかりますので、とても息の長い取り組みです。

20年間の取り組みの中で、さまざまな学びがありました。そもそも、土がスポンジのように水を吸収しないと地下水になりません。手入れされていない暗い森では草が生えないため地面が硬く、水が浸透しません。そのため、適度な間伐を行うことで太陽の光が入って地面に草が生える、そういった取り組みが非常に重要ですし、土壌が健康になれば地上の生態系も豊かになります。

▼「天然水の森」活動の間伐の様子

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

こういった仕組みの理解は当社だけではできませんので、さまざまな調査機関の方や専門家の方と連携しながら整備計画を立ててアクションに移しています。サントリーには水科学研究所がありますので、所員や外部の専門家の方とともに現地調査を徹底的に行い、調査結果をもとに地下水が流れるシミュレーションモデルを作っています。

ふかふかの土は、土の上の生物多様性にも良い影響をもたらします。水源涵養の森はまさに生物多様性に満ちたものであるということを、この20年のさまざまな取り組みを通じて体感しました。そのため一部の天然水の森では、生態系ピラミッドの頂点にいるワシやタカといった猛禽類が、安心して子育てをできるような森作りを目指しています。

▼30by30アライアンスの取り組み

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

生物多様性は世界的に注目されていますが、環境省でも『生物多様性のための30by30アライアンス』という枠組みが作られ、陸域・海域の30%を保全・保護する取り組みを進めるために、OECM(自然共生サイト)として、里地里山や企業の水源の森などの登録が進められています。「サントリー天然水の森」も、こうした取り組みに資するものとして登録を進めております。基本的に「サントリー天然生の森」は日本で行っている取り組みですが、理念自体は当社のグループ各社にも共有しており、スコットランドでは「Peatland Water Sanctuary」というピート(泥炭)の持続可能性を確保するための取り組みも行っています。

水は当社にとって主要な原料ですが、いただく以上にお返しすることに取り組むという思想は自然や生物多様性を保全し、回復させる「ネイチャーポジティブ」という考えにも資するものかと思います。このような「サントリー天然水の森」の20年におよぶ様々な取り組みや知見を、2022年に「生物多様性再生レポート」として発表させていただきました。当社の学びだけ並べても重要性が伝わりにくいと考え、レポートの「FACT DATA編」においては外部の有識者の方々から日本の森が抱えている一般的課題に関する言及をいただいています。

坂本:御社は人間社会だけでなく、動植物などの自然環境にも影響を与える「生物多様性」に関する活動を行っているとお聞きしました。それに至った経緯や、具体的な活動内容についてお聞かせいただけますでしょうか。

輿石:サステナビリティの自然に関する項目に関しては、生物多様性の概念にも注目しています。生物多様性は自然そのものですが、生物多様性の喪失に対する取り組みと気候変動に対する取り組みは表裏一体であるとの認識が世界的に広まっているので、当社としてもそのような考え方を理解した上で、取り組みを進めなければならないと考えています。

特に、生物多様性に関しては世界的にも失われつつある自然生態系の回復という、ネイチャーポジティブを目指すべきだという考え方が大きくなってきており、2022年に開催されたCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)でも生物多様性の喪失に関して「2030年までに地球上の陸域、海洋・沿岸域、内陸水域の30%を保護する」という国際的なゴールも合意されました。

▼気候変動と生物多様性の概念

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

当社にとって水は事業の生命線ですが、もちろんそれ以外にも自然の恩恵をたくさん受けています。例えばワインに使うブドウや、ビールに使う麦といった原料を始め、商品の容器や包装には化石燃料由来のペットボトルも使っています。

▼2030年に向けた取り組み

サントリーホールディングス株式会社
(画像=サントリーホールディングス株式会社)

それに対し、当社はどういった形でネイチャーポジティブに貢献できるかを考えなければなりません。例えば原料のブドウについては再生農業と呼ばれる除草剤を使わない農法をワイナリーで取り入れたり、容器のペットボトルを2030年までに全て100%サステナブル化する目標向けてリサイクル素材や植物由来の素材で作ったり、といった取り組みを進めているところです。

製品やサービスを通して人の生活を豊かにする活動を行う

坂本:弊社は地方IT企業として地域活性や地方創生といった活動を精力的に行っています。御社で取り組んでいる「生活文化」における社会貢献活動や社会課題の解決に向けた取り組みについて、具体的な内容を教えてください。

輿石:まず、当社は「水」を始めとした「CO2、原料、容器・包装、健康文化、人権、生活文化」という7つの重要なサステナビリティのテーマと、サステナビリティビジョンを定めています。その中で「生活文化」は当社にとって非常に重要で、こうしたサステナビリティの考えに入っているのはユニークかもしれません。

当社が生活文化を重要なテーマと考えている理由は、当社が酒類を取り扱っているということもありますが、究極的には人々の生活を豊かにしていこうという考えが根付いているからだと思います。「人間の生命の輝きを目指す」というのは企業理念にも掲げているのですが、地域や時代によって異なる価値観の中で人々の心と身体を潤し、生活文化を豊かにする製品やサービスを提供したいと考えています。そのため当社では製品やサービスなど、さまざまな手段で新たな価値創造を目指しています。

製品やサービスも間違いなく生活文化には不可欠ですが、それ以外にも文化や社会活動のような取り組みを行っています。芸術分野のサントリー美術館やサントリーホールの他、スポーツではラグビーチームの「東京サントリーサンゴリアス」やバレーボールチーム「サントリーサンバーズ」を持ち、スポーツを通じて喜びをお届けするというビジョンもあります。

また、サントリー美術館やサントリーホールなどではお子様向けのプログラムも行っております。こうした機会を提供することで、心や生活を豊かにすることにつながるような活動を行っています。会社としての歴史が長いこともあり、時代ごとの社会課題などに取り組んできた蓄積が当社のアイデンティティになっていると思いますので、多岐にわたる活動を行っていると認識していただくこともあるかと思います。

坂本:ESG活動において、従業員の皆様への啓蒙活動や取り組みの浸透についてはどのように取り組まれていらっしゃいますか。

輿石:社内コミュニケーションについてはかなり意識しています。基盤として取り組んでいるものとしては、国内のグループ会社を含めた2万人の従業員へ向けて毎年行っているeラーニングです。サステナビリティやSDGsとは何かという入口の部分から、サントリーグループの取り組みについてeラーニングを通じて毎年伝えています。

また、定期的に部門別勉強会なども実施しています。最近では営業部門から「お得意様のサステナビリティに対する意識の高まりを受けて、知識や理解をさらに深めたい」という声もあがっており、各部門で異なる課題意識に合わせたカスタムメイドの勉強会・説明会を行っています。 その他にも入社時研修やキャリアの階層に合わせた研修でも、サステナビリティのセッションを行っています。

また、特徴的な取り組みとしては森林整備体験が挙げられます。「サントリー天然水の森」の活動を行っている当社ならではの取り組みで、従業員に森に入ってもらって一緒に間伐を行ったり、場所によっては植樹を行ったりしています。「サントリー天然水の森」は植林活動ではないので、太陽の光が入る森にするためにあえて間伐を行うこともありますし、逆に地滑りが起きた場所に植樹を行うこともあります。海外の従業員が日本に来た際には森林整備体験や水育体験を通じて、グループ全体で共通の考え方やアクションを理解してもらうようにしています。

より環境負荷の少ない技術の開発で環境保全に貢献する

坂本:脱炭素社会を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれています。このエネルギーの見える化に対して、御社ではどのようなことに取り組んでおられるのでしょうか。

輿石:エネルギーの見える化は非常に重要だと考えています。当社は2050年までにGHG排出量実質ゼロを目指しているため、目標に向けて取り組みを進めていきますが、そのためには現在どのくらいのエネルギーを使用しているのかを把握することが重要です。ただし、簡単にはいかないと感じています。サントリーグループは事業展開国がかなり増えており、日本以外にも米州や欧州、アジア、オセアニアの主要地域でも事業を展開していますので、データ収集は一筋縄ではいかない点もあります。

また、当社事業には大きく酒類と清涼飲料の2軸がありますが、複数の事業をまたいで統一していくことも必要になります。データを収集してまとめたものを開示することは現在も行っていますが、さらに効率的に行うためにはシステム・データベースの活用なども必要だと考えています。

坂本:サプライチェーンやパートナー様を巻き込んだ取り組みについても教えていただけますでしょうか。

輿石:サプライチェーンに関しては容易ではなく、例えばCO2の排出量でいえば当社はスコープ3の排出量が圧倒的に多いため、その削減は非常に重要で大きな課題でもあります。

取り組みの一つに、ペットボトルのサステナブル化があります。こちらは2030年に向けて、すべてのペットボトルをリサイクル素材または植物由来素材のものにするという目標を掲げて取り組んでいます。ペットボトルのリサイクルの取り組みは10年以上前から行っておりますが、その技術開発は当社だけではなく、協栄産業様と一緒に行いました。使用済みペットボトルから新しいペットボトルを作る、いわゆるボトルtoボトル水平リサイクルと呼ばれる技術を確立し、国内の飲料会社で初めて100%リサイクル素材を使ったペットボトルを発売しました。

取り組みを広げていくにあたり、ボトルtoボトルリサイクルの技術をさらに環境負荷が小さいものにするため、数年前に「FtoPダイレクトリサイクル技術」というものを開発しました。こちらは当社と協栄産業様の他、イタリアの大手プリフォーム成型機メーカーのSIPA社、オーストリアのプラスチックリサイクルの世界トップメーカーのEREMA社とも連携して開発した技術で、CO2の排出量を従来のリサイクル技術よりさらに約25%削減することができました。この取り組みはリサイクルという点だけでなく、スコープ3のCO2削減という点でも意義がある事例になりました。また、リサイクルを通じて資源の循環を行っていくためには、使用済みペットボトルを分別していただくような活動をお客様にもご理解いただく必要があります。

坂本:再生可能エネルギーに関して、取り組んでいらっしゃることがありましたら教えてください。

輿石:製造拠点での太陽光パネルの導入に加え、購入電力についても、再生可能エネルギー由来への切り替えを進めています。昨年には、日本、米州、欧州の自社生産研究拠点における購入電力を100%再生可能エネルギー由来に替えました。

私どもからアクシス様にお聞きしたいのですが、多くの会社様とお話しされる中で、世間的な動きとしてESGに対する関心が高まっているという実感はありますか。また、ESGのうち特に関心が寄せられている分野は何でしょうか。

坂本:上場企業様を中心に40社ほどお話をさせていただいていますが、すべての企業様のESG活動が進んでいるわけではなく、まだスコープ1、2が中心であり、今後スコープ3に関しても集計する必要があることは皆様が理解されていると思います。ただ、具体的に取り組んでいるところは少なく、考えを整理したり、どこまで開示するのかを検討したりしている段階かと思います。

ESGに関しては、やはり環境の部分に関する関心が高く、2023年は具体的に予算を割いて実行しようとするところが大半だと思います。Z世代以下は学校でSDGsといった環境に関する教育を受けていることもあり、特に関心が高まっています。また、そのような世代に対してアピールしようとする企業様も増えています。

輿石:なるほど、ありがとうございます。

坂本:最後の質問です。ESG活動は多くのお客様が関心を寄せている分野でもありまる。ESGの取り組みを知って御社を支援したいと考えるステークホルダーの皆様もいると思いますが、その観点で御社を応援することの魅力をお聞かせください。

輿石:サントリーの「やってみなはれ」という言葉をご存じの方は多く、新しいことにチャレンジすることへの期待も大きいと思うので、まずはその期待に応えられるような企業でいたいと考えています。

ただ、ご期待に添うためにやみくもに新しいことをやるのではなく、地球環境や社会が正しく持続することが大前提であると考えています。あまり表に出ることはありませんが、製品やサービスを通じて人々の生活を豊かにすることと、サステナビリティの取り組みを両立させています。

「サントリー天然水の森」の活動は比較的わかりやすい活動かと思いますが、当社の活動を知って興味を持っていただけたのであれば、当社の「天然水」や「ザ・プレミアム・モルツ」といった製品をお楽しみいただく際に、使用している水がどこから来るのかというところに想いを馳せていただけると幸いです。私どもも水は共有資源であると認識しており、また水の循環の一部にいる会社として、それを次世代につないでいけるよう頑張りたいと思います。