この記事は2023年3月24日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「輸入インフレで拡大する海外への所得流出」を一部編集し、転載したものです。


輸入インフレで拡大する海外への所得流出
(画像=CzintosÖdön/stock.adobe.com)

(内閣府「国民経済計算」ほか)

わが国の交易条件が悪化している。交易条件は輸出物価と輸入物価の比、つまり貿易取引のマージンと定義される。日本銀行「企業物価指数」によれば、交易条件はコロナ流行後に悪化に転じ、足元ではこの50年間で最も低い水準にある(図表1)。

この背景として、資源や食料といった1次産品価格の高騰に伴う輸入物価の大幅な上昇が挙げられる。また、円安の進行も交易条件の悪化に作用している。わが国では、輸入の方が輸出に比べて外貨建ての取引比率が高く、円安が進行すると、円換算した輸入物価が輸出物価よりも膨らむからだ。

交易条件の悪化は、国民生活の豊かさを損なう。マクロで見た輸入原材料の支払いを輸出の受け取りでカバーできなくなり、国内の所得が海外に流出するからだ。内閣府「国民経済計算」によると、国内総生産の緩やかな回復とは対照的に、国内総所得は減少している(図表2)。両者の差は、交易条件の悪化で流出した所得を示す。国内の生産活動で所得を得たものの、稼いだ以上の額が輸入原材料の支払いに充てられた結果、所得面で見た経済成長率がマイナスに陥っているわけだ。

こうした海外への所得流出は、国内の企業や家計の負担を増加させる。企業では、輸入原材料コストの増加を販売価格に十分に転嫁できず、収益が悪化。家計では、消費者物価の上昇に賃金の上昇が追い付かず、購買力が低下する。これらの負担増加が、設備投資や個人消費の原資を削り、景気を下押しする。

海外への所得流出を防ぐためには、エネルギー資源の輸入依存度を低下させる取り組みが必要だ。わが国でエネルギー資源の輸入依存度が高い一因として、電源構成が火力発電に偏っていることが挙げられる。

電源別発電量の割合は、火力発電が7割程度に上っており、主要先進国(G7)の中で最も高い。火力発電で利用される石炭や石油、天然ガスのほとんどは輸入に頼っている。再生可能エネルギーの普及や安全性に万全を期した原子力発電の有効活用を通じて、化石燃料に過度に依存しないエネルギー構造に転換する必要がある。

輸入インフレで拡大する海外への所得流出
(画像=きんざいOnline)
輸入インフレで拡大する海外への所得流出
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日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 研究員/北辻 宗幹
週刊金融財政事情 2023年3月28日号