Credit Suisse in the financial center of Zurich city.
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スイスの金融大手クレディ・スイス・グループの偶発転換社債(CoCo債(AT1債))が無価値になりました。株式が劣後するという通常の銀行破綻のプロセスを踏まなかったスイス政府の意図を改めて解説いただけますか。また、この事件は金融システムの未来にどのような禍根を残すのでしょうか。さらに投資家はこの事件からどのような教訓を得るべきなのでしょうか(ZUU online編集部)。


債券投資に関するリスク認識のあるべき姿

スイス金融監督局(FINMA)は2023年3月19日、同国の金融大手UBSのクレディ・スイス・グループ買収に関連し、クレディ・スイス・グループが発行した偶発転換社債(CoCo債(AT1債))の価値をゼロにすると発表した。正直「やはり来るべき時が来たな」というのが偽らざる第一印象。それは決してシリコンバレーバンク(SVB)の破綻に絡んで騒がれていたような「金融不安の現実化」というたぐいものではなく、あくまで金融商品のあるべき姿というか、債券投資に関するリスク認識のあるべき姿など、昨今の時事的問題とは少し違った視点からの印象だ。

今回、ご指摘の通り、確かにスイス金融監督当局の決定により「普通株主はUBSとの株式交換(交換比率でUBSの株式を取得する)によって保有株全損を回避できる一方、会社清算時の弁済順位が普通株より上位にあるCoCo債保有者はその全額を毀損する」という事態になった。だがこの事態、この段階でスイス政府の裁量が働いたわけではなく、実は起債時点で起こり得るリスクとして発行条件に明示されている。それはスイスの金融機関のCoCo債にはUBS起債のものも含めて、同じように明示されている条件であり、専門家の間では「言わずもがな」的なものだった。だが同時に、すべての投資家がそこまで注意を払っている専門家レベル、もしくはそうした専門家レベルの適切なアドバイスを受けている投資家ではないということが露呈した問題だと言える。

CoCo債は、私が前職でプライベートバンクのISSヘッドをしていた頃、日本のプライベートバンク業界でも富裕層向け金融商品として注目され始めた新しい金融商品の1つだった。資産運用業界がこの金融商品に着目したのは2008年頃だ。リーマン・ショックでいったんは「二束三文」となった多くの既発の(グローバル金融機関の)劣後債を上手に取り扱ったプライベートバンクが大きな収益をあげた。当然それらを購入した富裕層顧客もご満悦となる結果を手にすることができた。単純にそのアップデート版の金融商品をCoCo債だと思って受け入れる人が多かったわけだ。記憶の限りで言えば、事細かにトリガー条項の違いにこだわる風潮はなかった。ならば、なぜ「来るべき時が来たな」というような印象がよぎったのか。ファンドマネージャー時代からの嗅覚かもしれない。つまり、投資家感覚でCoCo債には「なにやら胡散臭い」ものを感じていたのだ。有り体に言えば「実に分かり難い」商品だったということ。私は基本的に、自分に理解できないものには投資をしないことを基本ポリシーとして過ごしてきた。