ESGとは?3つの要素の意味と取り組み企業事例
(画像=Antony Weerut/stock.adobe.com)

ESGへの取り組みを成功させるためには、「E」「S」「G」それぞれの意味やその背景を正しく理解する必要があります。3要素の具体例、企業が取り組むべき理由、メリット、実際の事例を押さえることで、社会のニーズを満たした施策を検討しやすくなります。

目次

  1. ESGとは?3要素(環境・社会・ガバナンス)の具体例
  2. ESGと共に押さえておきたい関連用語
  3. 企業がESGに取り組むべき理由とメリット
  4. 中小企業のESGへの取り組み事例
  5. 大企業のESGへの取り組み事例
  6. 事例から見るESGへの取り組みを成功させるポイント
  7. 個人でできるESGへの取り組みはある?
  8. 取り組み事例を生かしたESGへの速やかな対応が必要

ESGとは?3要素(環境・社会・ガバナンス)の具体例

ESGとは、企業活動の中で意識すべき「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの要素を表す言葉です。元々は投資用語として登場しましたが、今では企業に欠かせない思想として浸透しつつあります。

ESGを理解するためには、まず3つの要素の具体例を知ることが大切です。

  • E(環境):水資源汚染と気候変動の対策、生物多様性の保護
  • S(社会):格差の解消、ダイバーシティへの配慮、労働環境の改善
  • G(ガバナンス):経営の透明化、法令の順守、社会規範の尊重

E(環境):水資源汚染と気候変動の対策、生物多様性の保護

「E」(環境:Environment)は、水資源汚染や気候変動の対策、生物多様性の保護など、地球の今と未来を守る取り組みを指します。

【具体例】

  • 製品の原材料や梱包材をエコ素材に切り替える
  • 農薬を環境負荷の低いものに切り替える
  • 再生可能エネルギーを利用する
  • 食品ロスなどの廃棄量を減らす
  • 排水管理や水源保護を進める

カーボンニュートラルで注目される「温室効果ガス排出量の削減」もESGの環境に含まれるアクションの一つです。

S(社会):格差の解消、ダイバーシティへの配慮、労働環境の改善

「S」(社会:Social)は、貧困・格差の解消、ダイバーシティ(国籍や性別などを越えた雇用機会の均等化)への配慮、労働環境の改善など、誰もが安心して暮らせる社会に向けた取り組みを指します。

【具体例】

  • フェアトレード(発展途上国との対等取引)の徹底
  • 長時間労働や過労死問題への対策
  • (取引先も含めた)児童労働や強制労働の禁止
  • 経営陣における女性比率の上昇
  • 障害者や高齢者の雇用と働きやすい環境の整備

特に理解しておくべき点は、ESGでは原材料の調達先など取引先の行動も考慮される点です。例えば、下請けの外国企業が児童労働を行わせていれば、自社も「S」に反していると見なされます。

G(ガバナンス):経営の透明化、法令の順守、社会規範の尊重

「G」(ガバナンス:Governance)は、経営情報の外部公開(透明化)や法規制の順守、社会規範の尊重など、企業管理の側面を指します。

【具体例】

  • 社外取締役の任命
  • (中長期的視点を含む)経営計画の公開
  • 不適切な会計処理や汚職の防止
  • 法規制への対応状況の外部公開
  • コンプライアンスに関する社内教育の徹底

環境や社会に比べると重要性が掴みにくいかも知れませんが、ガバナンスは「企業が中長期的に繁栄できる管理体制を整えているか」を表す大切な要素であり、投資家からも厳しく確認されます。

ESGと共に押さえておきたい関連用語

続いて、ESGと一緒に理解しておきたい関連用語を見ていきましょう。

ESG投資:ESGの側面を考慮した投資方法

ESG投資とは、従来の財務情報に加えて企業のESGへの取り組みも考慮する投資方法です。現代では、企業のみならず投資家にもESGへの配慮が求められています。「企業がESGを尊重しない場合、資金を提供する投資家にも責任があるのではないか」とする考え方です。

GSIA(Global Sustainable Investment Alliance:世界持続的投資連合)の報告によると、2020年時点での世界のESG投資の総金額は35兆3千億アメリカドル(約3,883兆円)にもおよびます。年々規模は増加しており、今後もますますその重要性は高まると予想されます。
(出典:「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」を参考。1アメリカドル=110円換算。
https://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2021/08/GSIR-20201.pdf

ESG経営:ESGを念頭に置いた企業の経営方針

ESG経営とは、ESGを念頭に置いた企業の経営方針を意味します。「環境」「社会」「ガバナンス」の3要素を尊重する形で企業のかじ取りを進めること」とも言い換えられます。

経営においてESGを考慮することは今や当たり前になりつつありますが、かつては先進的な取り組みでした。そのため、従来の経営と区別するために「ESG経営」という言葉が誕生し、現在でも使われています。

SDGs:環境や人権にまつわる世界規模の共通目標

SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)とは、持続可能な社会の実現に向け、2015年の国連会議で誕生した世界的共通目標です。貧困解消や自然環境の保護など17のゴールが定められており、2030年を達成期限と設定しています。

世界的な社会問題の解決に向けた考え方としてSDGsとESGは同じ方向性をもっていますが、明確なゴールがある点がSDGsの特徴です。目標としてのSDGsを達成するための指針となる考え方の一つがESGであるといえるでしょう。

企業がESGに取り組むべき理由とメリット

では、なぜ企業はESGに取り組むべきなのでしょうか? その理由は、取り組みによってさまざまなメリットを得られる点にあります。

ブランドイメージの向上

SDGsやカーボンニュートラルの話題が社会に浸透する中、ステークホルダーは企業のESG的側面にも注目しています。ESGに取り組み、その内容を外部へ公開することは、自社のブランドイメージの向上につながります。結果として、売り上げの増加や人材採用における優位性の確保も期待できるでしょう。

もし自社のESGへの取り組みが不十分であった場合は、風評被害やレピュテーションリスクにさらされる恐れがあります。メリットとは反対に、売り上げの減少や人材不足に悩まされるかもしれません。

資金調達のハードルの低下

前述の通り、近年はESG投資の重要性が浸透しつつあります。ESGに取り組めば自社の資金調達を進めやすくなり、フットワークの軽い経営の実現につながるでしょう。

一方、ESGへ取り組まなければ、投資や融資を打ち切られるリスクを常に抱えながら経営を進めることになります。資金面の不安は思い切りの良い経営施策の発案と実行を妨げます。

新たなビジネスチャンスの発掘

意外なメリットとして、ESGへの取り組みは企業に経済的な恩恵をもたらすこともあります。環境に優しいエコ素材の開発や再生可能エネルギーの研究など、そこには新たな商機も眠っています。

例えば、他社よりも温室効果ガスを排出しない梱包(こんぽう)材を検討できれば、社会的責任の大きい大企業からの発注を期待できるでしょう。一方、競合がそのような開発に成功すれば、自社が取引先を失う可能性が高まります。

中小企業のESGへの取り組み事例

では、中小企業におけるESGへの取り組み事例を見ていきましょう。取り組みがESGのどの要素に該当するのかも合わせてご紹介します。

株式会社茨城製作所

風力・水力の発電機材や鉱山向けの添削用機械の製造を担う株式会社茨城製作所では、自社技術を活用し国際規模でのESG活動を実践しています。

具体的には、電力不足の深刻なネパールに自社の軽水力発電機「Cappa+++」や「kingyo」を提供し、電気のある暮らしをもたらしました。ランタンを使って真っ暗だった夜でも勉強ができるようになるなど、現地の人権問題の解決に一役買っています。

株式会社高坂工業

株式会社高坂工業は、防水工事や外壁の塗装を手がける企業です。環境保護への取り組みとして、自社の業務に欠かせない塗装剤をエコなアイテム(宇宙開発の研究から誕生した断熱塗料剤「ガイナ」)に切り替えることで、CO2排出量を削減しています。

また、同企業は40年近くも前から外国人労働者を積極的に迎え入れているそうです。さまざまな国からやってくる彼らの宗教や文化に触れることで、固定概念にとらわれない多様な価値観を社内に浸透させています。現代企業に欠かせないダイバーシティへの配慮も実現できている好例です。

株式会社山翠舎

日本各地で問題視されている空き家に関して解決策を打ち出し自社の新しいビジネスとしたのが、株式会社山翠舎です。

空き家となった古民家は地域で邪魔者扱いされがちですが、今の時代には手に入りにくい希少な木材を使用していることがあります。同社では、その木材を再利用して温かみのあるインテリアや家具を製作し、店舗デザインの提案などのコンサルティングまで含めビジネスを展開しているそうです。持続可能な未来につながる「E」=環境への取り組みといえます。

また、「G」=ガバナンス的側面として「長野県SDGs推進企業登録制度」に登録し、自社の取り組みを対外的に公表しています。古い木材の施工技術を他社にも共有する「古木研究会」の運営も進めているそうです。

株式会社水島紙店

ESGへの取り組みを通じて業態の変革まで達成したのが、株式会社水島紙店です。和洋紙の専門商社だった同社は、環境保護のための脱プラスチック運動が世界的に進む中、自社の紙袋を広くアピールできないかと考えました。元々は卸売業としてBtoBで事業を展開していましたが、ESGへの取り組みをきっかけに、対面販売やECサイト経由でお客さんにオーダーメイドの紙手提げ袋を作成する新事業「手提屋(てさげや)」に挑戦しています。環境への貢献と自社の経済的利益を同時に追求する好例です。

カネパッケージ株式会社

カネパッケージ株式会社は、緩衝材や梱包(こんぽう)材の製造など、製品の安心・安全な流通を手助けする企業です。梱包材のダウンサイズ化やエコ素材である「プラシェル(卵の殻から生まれる素材)」の活用を通じて、流通過程の二酸化炭素排出量を削減する形で環境への取り組みを進めています。

また、間接的な環境への貢献として、マングローブの植林活動にも取り組んでいます。取り組み開始から10年が経過した2019年の時点で1,200万本と、東京ドーム71個分もの植林を達成したそうです。

大企業のESGへの取り組み事例

続いて、より規模の大きな大企業のESGへの取り組み事例をご紹介します。

株式会社IHI

株式会社IHIは、1853年に創設された「石川島造船所」を起源とし、170年近くの歴史を持つ総合重工業メーカーです。ESGへの取り組みに積極的で、3要素すべてにおいて幅広いアクションを実践しています。

  • 環境:環境配慮製品認定制度の策定と運用、化学物質・水資源の適正管理など
  • 社会:女性の採用比率や管理職比率の策定、男性の育児休暇取得の推進、障害者雇用の促進など
  • ガバナンス:法令順守状況の公開、商品品質・社員行動におけるコンプライアンスの徹底など

また特徴として、同企業は公式サイト上で「環境」「社会」「ガバナンス」のそれぞれの取り組みを個別に確認できるページを公開しています。大企業にふさわしい先進的な活動事例です。

すかいらーくホールディングスグループ

「ガスト」や「バーミヤン」などのファミリーレストランで有名なすかいらーくホールディングスグループも、ESGに積極的に取り組む企業です。お客様に食べ物を届ける企業として、サプライチェーンまで含めた品質管理を徹底しています。純粋な原材料の安全性はもちろん、仕入れ先の人権問題や環境負荷も考慮しており、ESGの観点においてふさわしいサプライヤーを優先していると公表しています。

そのほか、従業員の働き方改革も進めています。例えば残業時間に関しては、「2030年までに月20時間以下へ、2050年にはゼロに」という目標を立てているそうです。

三井不動産株式会社

女性の活躍推進に取り組む企業を認定する「なでしこ銘柄(令和3年度、令和4年度)」に2年連続で輝いた三井不動産株式会社では、ESGに関するKPI(重要業績評価指標)とその達成状況を公式サイトにて公開しています。

三井不動産「当社グループのESGに関する取り組み目標(KPI)と進捗状況」:
https://www.mitsuifudosan.co.jp/esg_csr/kpi_progress/

女性や障害者の雇用状況や有給休暇の取得率、二酸化炭素排出量の削減率や再生可能エネルギーの利用割合など、幅広い事項を確認できるのがポイントです。また、こうした情報の外部公開自体がガバナンスへの取り組みともなっています。

事例から見るESGへの取り組みを成功させるポイント

前述の事例を踏まえ、ESGへの取り組みを成功させるためのポイントを確認しましょう。

目的&目標の明確化を行う

もっとも大切となるのは、目的と目標の明確化です。ただ「ESGへの取り組みを」と考えるだけでは、何から手をつけるべきか迷ってしまいます。

  • 既存社員のモチベーションアップのために労働環境の改善を進める
  • 投資家からの関心を集めるために社外取締役を任命する
  • 新規取引先を開拓するために既存商品のエコ化を進める

上記のような狙いに対して具体的な数値目標を設けることで、具体性のある取り組みが進めやすくなります。

自社の業態と強みを理解する

ネパールに発電機器を提供し現地の人権問題を解決した茨城製作所の事例のように、ESGへの取り組みでは自社の業態と強みを生かすことで大きな影響力を生み出せます。「バリューチェーン(価値連鎖)」などのフレームワークを用いて図に起こすなど、自社の活動を視覚的に振り返ってみましょう。

ESGへの取り組みでは、実現可能性の低い理想を掲げると「SDGsウォッシュ(SDGsに配慮しているふりをする企業)」と判断される恐れがあります。自社の知見の活用は、非現実的な計画を立ててしまうリスクを下げることにもつながります。

中長期的な視点を持ち改善を続ける

ESGは一度挑戦して終わりではありません。カネパッケージ株式会社のマングローブ植林活動のように、長期的に継続することで初めて成果として評価されます。取り組みを継続することは、SDGsの根幹である持続可能性の観点からも欠かせないことです。

「2030年までに自社製品の○○%を再生素材由来に切り替える」といったように、中長期的な目標を立てて活動を継続していくことが求められます。

外部に向けて取り組み事例を公表する

ESGへの取り組みを誰でも閲覧できるように公表することも大切です。たとえ優れた施策を実施していたとしても、それが社外に伝わらなければ、ESGに取り組んでいない企業と見なされてしまいます。

具体的な公表方法としては、サステナビリティレポートのような書類を公式サイトで公開する方法が考えられます。

個人でできるESGへの取り組みはある?

ここまでご紹介した通り、ESGとは企業活動における3つの要素「E」(環境:Environment)、「S」(社会:Social)、「G」ガバナンス(Governance)」を表す言葉です。そのため、個人レベルの用語ではありません。

しかし、ESGなどを通じて達成を目指す目標「SDGs」に対しては、個人でできることも多くあります。以下はほんの一例です。

  • 自分のいない部屋の照明を消す
  • 車ではなく自転車や徒歩で通勤する
  • 水を流しっぱなしにしない
  • 賞味期限内に食べきれる量だけの食品を買う
  • 冷房の設定温度を上げる、暖房の設定温度を下げる
  • 買い物の際にマイバッグを持参する

国際連合広報センターの公式サイトでは、このような個人でできるSDGsの行動をまとめた「ナマケモノにもできるアクション・ガイド」を公表しています。閲覧は無料で、今日からでも実践できます。

ナマケモノにもできるアクション・ガイド(改訂版) | 国連広報センター
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/24082/

取り組み事例を生かしたESGへの速やかな対応が必要

この記事では、ESGの3要素の具体例や、企業が取り組むべき理由とメリット、知っておきたい関連用語、中小企業・大企業のESGへの取り組み事例、事例から見るESG成功に重要なことなどをご紹介しました。

ESGへの取り組みにより企業はさまざまな恩恵を受けられる一方、取り組まなければリスクが生じます。ご紹介した事例も参考に、競合他社よりも速やかに対応を進めていきましょう。