米国の銀行が相次いで破綻し、金融危機到来かと危惧する見方が広がっています。スイス大手銀行のクレディスイスも経営危機が表面化し、UBSに吸収されました。いまや大手銀行でも経営危機に陥る時代です。そこで知っておきたいのが、金融機関が破綻した場合に預金がいくらまで保護されるかです。金融危機の現状と、預金保護の仕組みについて解説します。
米銀行の相次ぐ破綻で金融業界に激震走る
2023年3月10日、米国16位の大手銀行シリコンバレー銀行が経営破綻しました。同行は主にスタートアップ企業(新興企業)を貸出先としている銀行で、日本の大手地銀に匹敵する総資産がありました。しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)が行った相次ぐ利上げにより取引先のスタートアップ企業の資金繰りが悪化。預金の引き出しが急速に増えたことで預金額が減少し、経営破綻に陥りました。
その2日後には米国のシグネチャー銀行も経営破綻し、さらに動揺が広がる事態となったのです。米銀行破綻の余波は欧州にも及び、クレディスイスが経営危機に陥るなど、破綻の連鎖が懸念される情勢となりました。株式市場も金融株を中心として一時的に大きく下落するなど投資家にも動揺の動きが見られました。
スイス銀行最大手のUBSがクレディスイスを買収する形で救済することになったことでひとまず破綻の連鎖は食い止められましたが、今後金融不安が起これば再び破綻する金融機関が出る可能性は捨てきれません。
大銀行でも経営危機に陥る時代、自分の銀行もチェックしておこう
クレディスイスの経営危機は、世界的な大銀行でも破綻の可能性がゼロではないことを改めて知らしめる結果となりました。自分が預金している銀行は大丈夫なのか?一度点検してみる必要はあるでしょう。
金融機関の健全性を表す指標として、最も重要なのが「自己資本比率」です。自己資本比率とは、自己資本を総資産で割った比率です。資本は「自己資本」と「他人資本」に分かれ、そのうち自己資本は株主から得た出資金や毎年蓄積した利益(内部留保)によって構成されます。つまり返済する必要のないお金のことです。
この自己資本比率が高いほど経営の安全性が高いといえます。一般企業には自己資本比率が50%を超える会社が多数存在しますが、銀行は預金者から預かっている他人資本が圧倒的に多いため、5%以下の比率であることが一般的です。
したがって、シリコンバレー銀行のように預金の引き出しが相次いで他人資本が流出すると、わずかな自己資本では経営が立ちいかなくなります。そのため自己資本の充実が求められるのです。
日本銀行によると、自己資本規制比率は国際統一基準では8%以上、日本国内では4%以上と定められています。主な国内上場銀行の自己資本比率(2022年12月現在)は下表のとおりです。
意外にも地方銀行のほうが自己資本比率の水準が高いことがわかります。みずほFGとりそなホールディングスは基準以下なので若干注意が必要です。ただし、都市銀行の自己資本比率が低いといっても自己資本の絶対金額がケタ違いに多いので、両者を単純に比較することはできません。地方銀行が頑張っていると解釈すべきでしょう。
▽主な上場銀行の自己資本比率(FG=フィナンシャルグループ)
都市銀行 | 地方銀行 | ||
---|---|---|---|
三菱UFJFG | 4.3% | コンコルディアFG | 4.6% |
三井住友FG | 4.7% | 東京きらぼしFG | 4.7% |
みずほFG | 3.6% | 武蔵野銀行 | 4.7% |
りそなホールディングス | 3.3% | 千葉銀行 | 5.4% |
金融機関破綻時に保護される金額は?
金融機関が破綻しても一定の預金額は保護されるということは社会的に認知されています。しかし、対象外になる預金もあるため、預金保護の概要を把握して預金する必要があります。
銀行預金は1,000万円+利息分が保護される
金融機関が破綻したときは預金保険制度によって、預けているお金の全額または一部の金額が保護されます。まず、当座預金や利息が付かない普通預金などの決済用預金は全額保護されますので、事業を行っている人が決済できないという事態は避けられるので安心です。
次に利息が付く普通預金や定期預金・定期積金・元本補てん契約のある金銭信託などの一般預金等は、預金者1人当たり1,000万円までの元本と破綻した日までの利息が保護されます。したがって、零細な金額の預金者が預けているお金を失う心配はありません。
1,000万円+利息を超える分については、破綻した金融機関の資産状況によって支払われるため、いくら返還されるかはケースによって異なります。
また、あくまで金融機関ごとに預金者1人当たり1,000万円+利息を補償するという制度なので、同じ銀行に複数の口座を持っている場合は合算して1,000万円+利息までしか補償されません。同じ銀行で複数の支店に預金を分けてもリスクの分散にはならないので注意が必要です。
外貨預金は保護されない
高利回りの商品が多いことで、資産運用として外貨預金を行っている人も多いでしょう。預金保険制度となっていますが、外貨預金は保護されないので注意が必要です。外貨預金をポートフォリオの一部に組み入れるのはよいですが、預金の大半を外貨預金にすることは避けたほうが無難です。
外貨預金の他にも、譲渡性預金、無記名預金、架空名義の預金、他人名義の預金、金融債などは保護対象外となります。
証券は保護の対象になるのか
預金ではない株式などの証券は保護されるのでしょうか。証券会社の経営破綻としては、1997年11月24日に当時の4大証券会社(野村、大和、日興、山一)の一角だった山一證券が自主廃業に追い込まれたことがよく知られています。同じ年に準大手の三洋証券も経営破綻しており、証券口座を持っている人は預けている株式などがどうなるか気になるところでしょう。
日本証券業協会によると、証券会社が顧客から預かっている有価証券や現金は、自社の資産とは区別して管理することが法律で義務付けられています。そのため通常は顧客の資産は全額保護されますが、万一分別管理されていなかった場合でも、日本投資者保護基金から1,000万円を限度に補償されるようになっています。
経営破綻した証券会社に保有していた証券は、他の証券会社に移管して引き続き運用することができます。したがって、少額で資産運用している顧客にはほぼリスクはないと考えてよいでしょう。
日本の金融機関は再編が進み安全性は高い
米国や欧州で相次いだ経営破綻ですが、日本の金融機関は再編が進み安全性は高いと考えられます。上記自己資本比率の一覧で見たとおり、現在は多くの上場銀行が経営統合によりフィナンシャルグループとなっています。
複数の銀行が経営統合されることで、同じエリアにある支店を統廃合するなどしてコストダウンし、かなり体力を強化しています。独立系の武蔵野銀行と千葉銀行にしても包括提携しており、完全に独自経営を行っている銀行は少ないのが現状です。
シリコンバレー銀行の経営破綻はスタートアップ企業に偏った貸付が裏目に出た形です。同様にシグネチャー銀行も暗号資産(仮想通貨)関連企業への融資に力を入れていたといいます。日本にはスタートアップ企業や暗号資産関連企業に偏った融資を行う銀行はないので、米国の銀行のようなことは起こりにくいとみられています。
とはいえ、クレディスイスの例もあることから、預金を1つの金融機関に集中させず、複数の銀行や証券会社に分散して預金または資産運用することが大事です。資産規模が大きい場合は、一部をマンションなどの不動産に変えておくのもよいでしょう。現金を不動産に変えておけば相続税対策にもなります。
金融機関の破綻が相次いだこの機会に自分の資産ポートフォリオを再点検し、投資の基本である分散投資をさらに徹底させ、万一の金融機関破綻に備えることが求められます。「転ばぬ先の杖」ということわざは、資産管理にこそ相応しいといえるのではないでしょうか。
(提供:Incomepress )
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