特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業のトップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略についてさまざまな角度からメスを入れる。

クモノスコーポレーション株式会社は、3Dレーザースキャナ・外壁診断・構造物点検などの最先端技術を有する建設コンサルタント会社。阪神大震災の復興支援のため、1995年3月に関西工事測量会社として大阪府箕面市で創業し、2015年に現在の社名に変更した。本稿では、代表取締役の中庭和秀氏に今日までの変遷や事業の特長、将来の展望などについて伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

クモノスコーポレーション株式会社
中庭 和秀(なかにわ かずひで)――クモノスコーポレーション株式会社代表取締役
1995年、阪神淡路大震災の復興寄与を志して創業。“測れないものを測る”をモットーに、多数の特許技術を駆使して測量のデジタル化を牽引。3D計測においても日本で圧倒的No.1の実績を誇るパイオニア。
大阪・関西万博では「会場整備参加」第1号協賛契約を締結し、会場全域の基礎測量を担当。全パビリオンを3Dデータ化し、開幕と同時にバーチャル万博の公開を目指している。
2025年、万博開催期間中のIPOに向け準備中。
クモノスコーポレーション株式会社
クモノスコーポレーション株式会社は、1995 年に阪神淡路大震災の復興支援を目的に創業した会社で、社名は、自社特許技術である 100m先の 0.2 ㎜のひび割れを早く正確に計測できる世界唯一無二の計測機「KUMONOS」に由来する。
1998 年、日本の建築業界に初めて 3D レーザースキャナを導入して以来、日本の3D計測と機器販売を牽引し、日本 3D 界のリーディングカンパニーの地位を築き上げている。

目次

  1. リスクサーベイ事業とポイントクラウド事業で成長
  2. 高度な技術を社長自ら開発
  3. 来るべき未来に向けたプラットフォーム構築を推進

リスクサーベイ事業とポイントクラウド事業で成長

―― 最初に、クモノスコーポレーション株式会社の事業内容や特長をお聞かせください。

クモノスコーポレーション代表取締役・中庭和秀氏(以下、社名・氏名略):弊社は今年度で29期目を迎える会社で、事業は大きく分けて2つあります。1つ目はリスクサーベイ事業で、建物・橋梁などのひび割れや破損状況などのダメージをデジタル・非接触で計測・解析する「コンクリート・クラック計測システム“KUMONOS”(クモノス)」を提供しています。これまでは、近接目視で点検し、手書きでスケッチするといった非常にアナログな世界でしたが、政府のデジタル臨時行政調査会は2022年6月、目視や対面といったアナログ規制を定める法律や政省令など約4,000条項を2025年までに改正し、遠隔監視といったデジタル技術の活用を広く認め、規制を一括で見直す方針を示しました。ようやく法律が弊社の技術に追いつき、大きな波が来ていると考えています。

▼建物:橋梁などのひびわれや破損状況を計測する「KUMONOS」

クモノスコーポレーション株式会社
(画像提供=クモノスコーポレーション株式会社)

2つ目は3Dレーザースキャナを使い、すべてのものを3次元デジタルデータ化するポイントクラウド事業です。私たちが暮らす世界はもともと3次元です。でも、歴史的には、それを紙に記録するために2次元の平面図・立面図・断面図に落とし込み、受け取った人は脳の中で再び3次元に再構築して理解し作業するという手順を踏んでいました。今は技術の進歩によって3次元データをデジタル上で自由に構築できるようになりました。例えばデジタル計測したひび割れを、さらに3次元化すると、より正確に状況を把握することができます。

▼クモノスコーポレーションの3Dレーザースキャナ

クモノスコーポレーション株式会社
(画像提供=クモノスコーポレーション株式会社)

―― 御社の技術は、どのようなシーンで活用されていますか。

2018年に発生した熊本地震で大きな被害を受けた熊本城を修復する際に、弊社の技術で倒壊した状況を正確に3次元化し、修復工事が行われました。2011年の東日本大震災に伴う福島原発の事故の際も、弊社の技術で原子力発電所内の事故状況を精巧に3次元化し、復旧・復興に活用されました。

もちろん、災害だけでなく、建築・土木の分野から文化財のアーカイブまで、弊社の技術は幅広く活用されていますが、なかでもなぜ震災・災害復興に力を入れているかというと、私たちは1995年に阪神淡路大震災の復興支援を目的に大阪府箕面市で創業した会社だからです。災害が起きたら、最初に駆けつけるのが私たちのポリシーです。

高度な技術を社長自ら開発

―― これらは御社が発明した技術なのですか。

はい、私は「代表取締役発明家」と呼ばれるほど「発明」をライフワークにしており、これまで計測機器やノウハウ、3Dレーザースキャンの領域のみならず80件を超える特許を取得しています。その一つが「KUMONOS」で、100m先にある0.2mmのコンクリート・クラック(ひび割れ)を早く正確かつ安全に測ることができる世界唯一無二のシステムです。2012年から海外展開を始め、現在は世界29ヵ国でビジネスを展開しています。例えば、ブラジルとウルグアイの国境にある世界最大の発電量を誇るイタイプダム(高さ195m)でも、漏水チェックや維持管理のためにKUMONOSが利用されています。バンコク(タイ)のランドマークとなっているラーマ8世橋の維持管理にもKUMONOSが活用され、このプロジェクトは国土交通省の「第2回JAPANコンストラクション国際賞」を受賞しました。

▼ラーマ8世橋の維持管理にKUMONOSを活用

クモノスコーポレーション株式会社
(画像提供=クモノスコーポレーション株式会社)

また、弊社は15年以上前から「〝作る測量〟から〝守る測量〟へ」とコーポレートポリシーを大きく転換しているのですが、この姿勢がSDGsの文脈に合致し、経済産業省から国際ビジネス事例として選定されたため、2022年のG20大阪サミットにも出展することができ、世界の首脳にご覧いただく機会に恵まれました。日本のインフラ点検は長らく近接目視のアナログ文化が続いたため、国内のKUMONOSの活用は当初は遅々とした歩みでしたが、むしろ海外で認められ、日本でもデジタル庁が発足したことで、ようやくインフラ点検のデジタル化が全面解禁されます。

こうしたDXのトレンドによって、並行してポイントクラウド事業も大きな盛り上がりを見せています。ポイントクラウド(3D点群データ)は、精巧なデジタルデータで、弊社の技術を使えばユーザが能動的に360度×360度動かすことができるのが特徴です。例えば現在の教科書の写真は平面なので文化財も表側しか見えませんが、3次元化すると裏側も見えるようになります。芸術作品も自由な視点で鑑賞できるようになり、ゲームへの活用や施設の維持管理にも役立つなど、幅広い用途が期待できます。

この技術に取り組むことになったきっかけは、1998年に日本に初めて持ち込まれた3Dレーザースキャナーの軽量化の依頼でした。当時、原子力発電所向けに開発されていたこの機械は実に40㎏もありましたが、軽量モデルの開発に携わり、2000年には16㎏の「GS100」の開発に成功しました。現在では、さらに高精度かつ軽量の4㎏の3Dレーザースキャナーが市場に出ており、これらを駆使して国内外のインフラなど様々な対象のデジタル化を進めています。
2015年に発生したネパール地震では、車両などの進入が困難なエリアにある世界遺産を、歩行タイプのスキャナ技術を活用することで復興に貢献しました。また、2025年に開催される大阪・関西万博の基盤整備工事やパビリオンなどの敷地境界測量などにも、弊社の技術が使われています。3次元計測に最も早くから取り組んだことにより、弊社の3D計測実績は3,000件超と国内最多を誇り、現在は震災時のシミュレーションや避難訓練、バリアフリーマップ、まちづくりへの活用も進めています。3次元点群データは非常に重たいのですが、今後は5Gの普及など通信インフラの進化によって遠隔地に送ることも可能になるため、ニーズはますます高まると思います。今後は地球の裏側の精巧なデータを瞬時に見られたり、月面開発に貢献できたりするかもしれません。それもあって、弊社は現在開発中の技術に「スペース・スウィフト」と名付けています。

来るべき未来に向けたプラットフォーム構築を推進

―― 阪神淡路大震災を機に創業したとのことですが、なぜ新技術の開発に注力したのですか。

発明がライフワークというのもありますが、それ以上に、復興支援を迅速に進めたい気持ちが強かったからです。
また、当時、日本人科学者として初めてスペースシャトルに搭乗した毛利衛さんが宇宙から地球を測量したことを目の当たりにして、これからは衛星で測量する時代が到来すると確信し、「ならば衛星で測れないものを作ろう」と思ったことも影響しました。その結果、1998年にトンネルマルチ測量システム「KANON」が生まれました。この技術は高く評価され、現在世界中で造られているトンネルには私が考案したこのシステムが使われています。でも、残念ながら、開発直後に模倣された結果の普及でした。そこで「特許」の重要性を痛感し、以後、発明の道を極めていくことになりました。
「KANON」の失敗があったからこそ、3Dレーザースキャナのコンパクト化の依頼を受けられましたし、衛星から測定できない壁面に着目したからこそ「KUMONOS」の開発につながりました。当時は時代を先取りし過ぎて周囲の理解が追いついてきませんでしたが、ようやく政府も含めてKUMONOSの必要性が認識され、日の目を浴びるようになりました。
好きこそものの上手なれではありませんが、好きだからこそ率先して取り組み、率先して取り組んだからこそ誰よりも先に課題に直面し、それを解決してきたことが強みになっていると思います。

―― さらなる成長に向けた、今後の展望をお聞かせください。

受動的な3Dの映像も、映画や動画などで目にすることは一般的になりました。さらにこれを自由に動かせるようになり、おそらく将来は手に取れるような3次元データもできるようになると、二次元の平面図や断面図から3Dを再構築していた旧来の文化がパラダイムシフトを迎えることは間違いありません。いつも見る地図にしても、等高線よりリアルな高低差が見えたほうがわかりやすく、それが当たり前の世界になっていくでしょうから、そうした3次元データのプラットフォーム構築に邁進したいと考えています。
昨今話題のメタバースも現在の見た目はアニメやCGっぽいですが、ここに弊社の技術でモデリングしたデータを取り込むと、もはやリアルと区別がつかなくなります。そんなことが当たり前になる世界を2025年の万博をきっかけに実現したいですね。

―― 最後に、ZUU onlineの読者へメッセージをお願いします。

弊社に出資・投資していただける方は、ともに夢を見てくれる方だと思います。その夢を共有しながら、世界を一緒に変えていきたいです。一方、KUMONOSが普及するまで16年かかったように、技術が認められるまでにタイムラグがありますが、そのタイムラグを埋めていただけるのがのが投資家だと考えております。皆様の協力を得ながら、来るべき未来を1日でも早く実現したいと思います。