特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手あるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのかなど、これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れる。
株式会社ライズクリエイションは奈良市に本社を構え、EC事業などを展開。自社で開発した商品を複数のECモールを通じて販売している。本稿では代表取締役の坂口竜一氏に今日までの経緯や事業の特長、将来の展望などについて伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
2005年 奈良工業高等学校を卒業し、シャープ株式会社に入社
2012年 独立し、個人事業でEC通販事業を開始
2013年 法人化し、株式会社ライズクリエイションを設立
2022年 120年の老舗メーカーなどグループが8社に成長
商品企画から発送まで自社完結するD2Cメーカー
―― 株式会社ライズクリエイションの事業内容とその特長をお聞かせください。
ライズクリエイション代表取締役・坂口竜一氏(以下、社名・氏名略):弊社は幅広いジャンル・カテゴリーで商品開発を行い、ECサイトで販売しているD2Cメーカーです。インターネットでものを売る会社はたくさんありますが、我々の強みを挙げるとすると、製造自体はファブレスですが、企画から販売まですべて自社で完結している点です。本来であればベンチャー企業が手を出さない商品企画や仕様設計、生産・品質管理、貿易、物流、在庫管理、デザイン、広告運用、販売、発送まで、すべて自社で行っています。
――どのような商品を販売していますか。
それを聞かれるのが一番困るくらい多く、日用雑貨やスポーツ用品、フィットネス用品、雨具、ガジェット、アウトドアブランド、食品など多岐にわたります。
▼ライズクリエイションが扱う商品
なぜこれだけ幅広いかというと、弊社はものから入らず市場をリサーチした上で、ニーズのある商品を作っているからです。昨今は多くの企業がプロダクトに力を入れていますが、お客様が満足していないところは必ずあります。私たちはある程度ジャンルやニーズを捉え、既存商品をリサーチして足りない部分を洗い出し、ユーザーリサーチも通じてブラッシュアップし、ネガティブな要素を改善した上で市場に投入しています。そういったこともあってジャンルを気にせず商品を作っており、最近ではアパレルブランドやキャンプブランドも立ち上げました。
――競合他社との差別化をどのように図っていますか。
ネット通販のビジネスは単純なので真似されやすく、どのように参入障壁を作るかが重要だと考えています。弊社は今年度で10期目となりますが、その間に積み上げてきたのがデータ分析のノウハウです。例えば、Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングで販売するにしても、他社と見た目はさほど変わりませんが、その中で我々が扱う多ジャンルのデータを検証していて、広告対策や月間販売数などについてはライバルを丸裸にできるほどだと自負しています。これを社内で行っているので知見が蓄積し、売れる可能性が高い商品を投入できるのです。その結果、勝ち続けることができています。また、普段から数値の管理は徹底していますから、ライバルが追い上げてきたり、新規参入があったりしてもすぐに察知することができ、対策を講じられます。このようなことが差別化につながっていると思います。
入口から出口まで自社で完結していることも、参入障壁の一つです。売上と利益にこだわるのであればマーケティングと商品開発だけを行い、残りはアウトソーシングしたほうが組織としては身軽になりますが、あえてすべてを内製化しているのは参入障壁が高くなるとわかっているからです。私は創業当時からベンチャーと争う気はなく、大企業にいかに立ち向かうかを考えて組織を作ってきたので、現在のような体制になりました。
――現在はECモールへの出店がメインですね。
おっしゃるとおりです。自社サイトもありますが、まだ本腰を入れるタイミングではありません。売上と利益を最適化するためにはECモールを活用するのが、現時点では正しいと考えています。例えば楽天市場だと関西では上新電機などが売上の上位に入っていますが、なぜ自社サイトだけではなく楽天市場も活用しているのかというと、集客の面で圧倒的に有利だからです。ECモールでは手数料がかかりますが、集客の負担はかなり軽減されます。モール内のライバル対策は必要ですが、大企業に比べて認知度の低い我々がゼロベースからマーケティングやブランディングを行って集客するにはコストがかかります。ECモールで顧客を獲得してから自社ショップに送客することによって利益は最大化しますが、今は前者の段階です。
――ECモール内での差別化はどのように図っていますか。
今は会社やブランド毎のブランディングも始めたので、ライズクリエイションだからという理由で商品を手に取っていただくケースも増えました。とはいえ、知名度では大手にかないませんから、商品単位のニッチ戦略で臨んでいます。日本一売れている商品も生まれて、特定のジャンルでナンバーワンをたくさん積み上げた結果、ライズクリエイションが目立っているという流れを作りたいと考えています。
老舗の甘栗店をM&A
――御社の歴史についてお聞かせください。
私は小学2年生から奈良県で育ち、高校までバスケットボールをしていました。大学に行きたかったのですが家庭の事情で進学できず、高校卒業後はシャープに勤めました。必死に働き、それなりの評価を得ていましたが、私は転勤のない地域限定社員だったので、そうではない社員と比べると給与水準が低く、20歳の時点で家庭のある私にとっては厳しい状況でした。会社に働きかけて地域限定社員の解除を求めたのですが「5~10年はかかる」と言われ、ここでは自分が望むキャリアは積めないと思い、23歳の時に退職しました。
転職も考えましたが、在職時から独立にも興味がありました。そこで、20歳の頃に始めた副業を通じて出会った方と一緒に会社を立ち上げたのですが、何とお金を持って逃げられまして。妻子ある身ですから、どうしようか悩みましたね。少し人間不信に陥っていたので、インターネットでできる仕事はないか探した結果、副業としてかじったことがあるEC事業を選びました。
――事業は順調に成長したのでしょうか。
リユース商品の販売から始めて、その後、輸入・輸出事業も手がけ、1年も経たないうちに生活できるようになりました。為替が大きく円高に傾いた時に苦労しましたが、そこで社内体制や利益改善、商品開発にも取り組み始めたので、今があります。
最初に自社で開発したのは、ゲーム用の接続アダプターです。当時の我々からすると大ヒットで、市場ニーズを捉えて確証を持った上で商品を作るというビジネスモデルに手ごたえを感じました。この時アダプターに目を付けたのは偶然で、リサーチを通じて類似商品が売れていることを知りました。この「売れている」を理解することが重要で、作る前からある程度の勝算があったことは大きいと思います。このような姿勢は今も続いていて、勝負は作る前に8割決まっていて、残りの2割は売り方だと考えています。我々はマーケットインで商品を作りますが、ものがしっかりしてないとマーケティングを行っても意味がないので、根底にはプロダクトアウトの考えがあります。両者のバランスを取ることも大切ですね。
――現在はEC事業以外も手がけています。
2021年3月に大阪の甘栗老舗「樂天軒」のM&Aを実施しました。地元では知名度が高いのですが、経営不振とコロナ禍の影響で常設店は1店舗にまで減るという厳しい状況の中、当時のオーナーがECに進出したいとの考えで、弊社に連絡が入りました。話し合った結果、私たちの通販ノウハウで再起をお手伝いすることになり、M&Aという形でご一緒させていただいています。今後も分野にはこだわらず、足りない部分の補完と商品ジャンルの拡充を目的に、積極的にM&Aを推進する方針です。
地域創生ビジネスに本格参入
――さらなる成長を目指すための、今後の目標をお聞かせください。
2018年に数億円だった売上は、直近で数十億円規模にまで成長し、「楽天SHOP OF THE AREA 2022」にも選出されました。自社配送の通販企業として、奈良県内ではトップレベルの出荷量を誇ります。
▼「楽天SHOP OF THE AREA 2022」に選出
正直なところ、現時点でIPOはあまり考えていません。実現したいのは「クリエイティブな三方良しが実現できる会社を創る。」という企業理念のように、スタッフやお客様など私たちに関わる方が自己実現できる環境を用意することです。企業として見られ方が変わるのは、私は「売上高100億円」だと思っています。そこまでいくことで外部評価が高くなり、多くの人が集まってくるはずです。まずは、現在数十億円の売上を今後3年間で100億円まで伸ばすのが、直近の目標です。
残念ながら日本の人口は減少しており、このままでは規模が縮小するのは明らかですが、まだ元気でできることを経営者として示したい気持ちもあります。弊社スタッフの9%は外国人で、今後さらに増やす予定です。さまざまな国や歴史、文化が混ざることで日本の可能性を高めることができますし、海外へのチャレンジもしやすくなるでしょう。
3月8日には熊本市と立地協定を締結しました。これによって熊本市内に事業所を新設し、同市におけるIT関連求人の増加とIT人材育成の一助になることを目指しています。加えて、地域産品の販売もお手伝いしたい考えです。日本全体で人口減少が進む中、地域内で生産・消費する地産地消だけでは今後の成長は難しいため、地域で生産し、ネット通販を使って他地域で消費する「地産他消」を通じて地域に寄与するのが目的です。今後は、このようなコンサルティング事業を全国的に広げたいと思います。
――最後に、ZUU onlineの読者へメッセージをお願いします。
世の中には普遍的なこともありますが、今は変化の時代です。変化を捉える視点は企業だけでなく、投資家にも求められます。これから訪れる激動の時代を乗り切るためには攻めと守りのバランスを考える必要があり、私たちも実直に取り組む考えです。読者の皆様もそれは同じですから、お互いに頑張っていきましょう。