外為マーケットレポート
(画像=外為どっとコム マネ育チャンネル)

ゴールデン・ウイークで静かなマーケット展開が期待された先週、ドル・円相場は高値137.77、安値133.51と4円26銭の値幅を付ける荒れ模様となり、休みの間も家族孝行そっちのけで相場に付きっ切りのトレーダーも多かったことであろうか?

前週の日銀の“政策変更無し。”にガッカリ(?)した市場参加者(特に筆者も含めた海外勢)による円売りが続いてFOMC.直前の2日(火)に週の高値の137.77を付けたが、明らかにはしゃぎ過ぎであったであろう。

先週のレポートでも述べた様に植田新総裁の言葉をよく読んでみると、“このまま未来永劫緩和政策を続けて行く。”とは言っておらず、筆者は何方かと言うと“データ次第で、必要とあらば何時でも政策変更を行いますよ。”と言っておられる様な気がしてならない。

その後たった二日後に安値133.51を示現したが、このドルの急落は市場の予想通りFOMC.で0.25%の利上げが決定されたものの、声明文には“追加策がどの程度必要か決定する際には、これまでの金融引き締めの累積的な効果や経済や物価に時間差で与える影響を考慮する。”と記し、“追加の政策措置が適切。”としていた前回会合時の表現を修正して利上げの打ち止めを示唆する内容になったことが原因である。

FOMC.後の記者会見で銀行破綻が相次ぐ現状について聞かれたパウエル議長は、“我々が間違いを犯したことは十分に認識している。”と述べ、監督責任を認めて銀行監督・規制を見直す方針を重ねて示したが、この発言も今後の利上げに対してFRB.はより慎重にならざるを得ないであろうとの認識を市場に与えた。

そもそも破綻した銀行を含め、地銀の経営不安を誘発した大きな要因はFRB.による2022年3月から始まった強力な利上げが要因であることは言うまでもない。

それにも拘わらず今回もFOMC.の全会一致で0.25%の利上げに踏み切った訳であるが、もし更なる金融不安が起きる様であればFRB.の失策に対しての批判はより高まるであろう。

そもそも2021年の夏頃からのインフレ懸念台頭に対してパウエル議長は、“アメリカのインフレは一過性のものである。”と一蹴して利上げスタートのタイミングを逸し、結果としてその後0.75%と言う通常の利上げ幅の3倍の利上げを4回も行う事を余儀なくされた。

今回は逆の利上げ停止のタイミングを誤る様な事になった場合のパウエル議長に対する批判は相当なものになる事であろう。

依然として日銀による政策変更(イールド・カーブ・コントロール政策=YCC.の変更。)とFRB.による利上げ停止は時間の問題であると認識しており、それに伴うドル安&円高の動きが起きるであろうことを確信している。

高金利のドルを売り持ちにし、低金利の円を買い持ちにするとキャリング・コスト(毎日金利差を支払わなくてはならない。)が掛かるので野放図なドル・ショート&円・ロングは持てないが、正しいタイミングでのドルのSell on rallies.(ドルが上がったら売る。)戦略は上手く行くのではなかろうか?

ところで余談であるが、今回のFOMC.直前の1日に米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)の破綻と米銀最大手JP.モルガン・チェースによる救済買収が発表されたが、筆者は1978年から1991年までJP.モルガン・チェースの前身であるJP.モルガンで働いていた。

同じくスイス最大手のUBS.がクレディット・スイス銀行の救済買収を行った事は記憶に新しいが、筆者は1993年から2001年までUBS.で働いていた。

銀行を2001年に退職して早22年が経つが、正に感無量である。

今週のテクニカル分析の見立ては135円を下切ったことで更なるドルの下落に注意。
終値ベースで134.40を下切ると132円台までの下落も有り得る。

酒匂隆雄
酒匂隆雄氏
酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表 1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で敏腕ディーラーとして外国為替業務に従事。その後1992年、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長に就任。 その一方で2000年には日経アナリストランキング・為替部門にて第1位を受賞するなど、コメンテーターとしても高い評価を得ている。