特集『Hidden unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、非上場ベンチャー企業の各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、戦略について聞き、各社の取り組みを紹介している。今回は、株式会社Braveridge(ブレイブリッジ)代表取締役社長の小橋泰成氏に今日までの経緯や事業の特長、将来の展望などを伺った。

株式会社Braveridgeは、2004年に創業したハードウェアメーカーだ。現在は福岡市西区に本社を構え、無線通信技術を強みに独創性の高いIoTデバイスの企画・開発・製造をワンストップで行っている。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。本稿ではインタビューを通じて、さまざまな視点からメスを入れていく。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社Braveridge
小橋 泰成(こはし やすなり)――株式会社Braveridge代表取締役社長
福岡県小郡市出身。九州芸術工科大学芸術工学部卒業。大学在籍中、友人の勧めで電子工作に熱中し、電気設計にのめり込む一方で、大学でのデザインやマーケティング理論にも興味を持ち、芸術工学と独学の電子工学に3年間没頭する。卒業後、九州松下電器に入社。趣味の電気設計を本職とし、無線技術を中心とした回路設計に従事し、コードレス電話機などの開発に携わる。2年間の北米駐在を経て2002年に独立。2004年にBraveridgeを創業。
株式会社Braveridge
Braveridgeは福岡に開発拠点と工場を持ち、Bluetooth®LEやLTE-M、LPWAなどの無線通信技術を核に、IoTデバイスの企画・設計開発・製造を行うハードウェアメーカー。無線のプロの視点からIoTを徹底的に追求し、ハードウェアのみならず、その開発環境から通信&ネットワークに至る統合型IoT実現環境と、それらを活用したIoTサービスまで、さまざまなデバイス・サービスを提供している。

目次

  1. 無線技術のプロフェッショナル集団
  2. 他が追随できない高度な製品開発で技術大賞を受賞
  3. 日本メーカーが辞めてしまった携帯電話づくりにも再挑戦したい

無線技術のプロフェッショナル集団

―― 最初に、株式会社Braveridge の事業内容や特長をお聞かせください。

株式会社Braveridge代表取締役社長・小橋泰成氏(以下、小橋氏):弊社はBluetooth®︎ Low EnergyやLTE-Mを始めとする各種LPWAなどの無線通信技術を強みとし、IoTデバイスの企画・開発・製造をワンストップでサポートできる無線技術のプロフェッショナル集団です。無線の設計ができる会社はいくつもありますが、アンテナ設計も含めた無線設計を自社で完結できる企業はほぼありません。両者は中華料理とフランス料理くらい異なる技術なのですが、無線がわかっていてもアンテナを熟知している技術者はまずいないのが現状です。我々の最大の強みは、無線のエンジニアもアンテナに精通したエンジニアも、それに必要な各種エンジニアもレベルが高く、しかも半径10m位内で常にお互いが連携した開発をしているということです。

▼福岡市のBraveridge本社

株式会社Braveridge
(画像提供=株式会社Braveridge)

私はパナソニック(旧九州松下電器)出身で、20代の頃からコードレス電話機の設計に携わっていましたが、独立後も無線技術を本格的に事業化する必要があると考えていました。また、若手にも無線設計技術を承継しないと、将来は無線を設計できる企業は世界で10社もいなくなるかもしれないと懸念を抱いていました。この失われつつある本当の無線技術を継承していけば、将来には世界でも稀少な無線開発企業となると考え、2004年に弊社を立ち上げました。それ以降は自社でモノづくりを進める一方で若手の育成にも取り組んだことで、無線もアンテナもプロコトルも機構設計も熟知するエンジニアを揃えることができました。おそらく現在では、弊社の無線技術レベルほどに精通している会社は、世界では10社もないと思います。

これが弊社の基本的な企業アイデンティティなのですが、ここ数年間の新たな取り組みでは、無線技術だけではなく、製品やサービスとして完成させるために、クラウド側の設計やアプリ設計にも力を入れています。

また、弊社は本社の直ぐ近くに自社工場を保有しています。ここ20年では、海外委託製造が定着してきた国内製造業の一般的な動きとは完全に逆行していますが、製造を知らない・製造を考慮できないエンジニアであっては本当の量産設計などできませんので、ここは死守しているというところです。今後、無線の設計をスクラッチ開発(ゼロの状態からモノを作ること)に始まり、完成品製造までを受け持つ統合製造業社は、恐らく日本からほぼ消えていくと思うので、5年後、10年後でも無線技術力と製造力を保有した稀少な存在でいることに、企業価値を求めています。

▼2017年に糸島工場を竣工

株式会社Braveridge
(画像提供=株式会社Braveridge)

―― どのように成長してきたのですか。

元々、私の創業時点の企業哲学は「○○をやるベンチャー企業」という『型』を先ずは決めないということでした。ちょっと珍しいと思われるでしょうが、創業時点で○○という製品やサービスを決めて創業したとしても、それは既に既知のモノですから、すぐさま陳腐化するのではという恐怖心があったのです。それよりも未知の新しいビジネスの『タイミングの運』を掴む準備や備えの方が重要だと思っていました。企業の成功事例を観ていますと、タイミングという幸運に恵まれたという点は否定出来ません。だからこそ常日頃から基礎技術を鍛え、グローバルに情報収集していれば、先陣を切って製品化できる『タイミングの運』を先んじて掴みとれると思っています。それが結実したならば、周りから「○○のBraveridge」と評価されるであろうということです。そしてまた、新たに次なるビジネスの機会を狙い、繰り返すというのが理想です。それを無線技術に絞っていますが、無線技術が不要となる様な未来はあり得ませんからね。恒久的技術だと思います。

創業当初は、私が製品企画・設計してPC周辺機器メーカーにプレゼンして卸すというスタイルで始めました。当時は某社に持ち込んだ企画製品が大ヒットした一方で、外注先であった九州の製造業の経営状況が芳しくなく、常に危機感を感じていました。その熟考の結果として、自社工場を構え、自社製造することを決断したのです。

そうこうしていると、12年程前に極低消費電力で通信できるBluetooth®LEが新に規格化されるという情報を察知したものの、国内では情報が少なく、海外からの情報収集に奔走しました。その分析の結果、Bluetooth®LEは、新ビジネスの『タイミングの運』に違いないと確信し、この技術の習得に没頭しました。この『運』は上手く掴んだと今でも思っています。おかげでODM/OEMの案件が急増しましたが、その一方で、リソースが足りず、自社企画製品の開発ができなくなっていきました。これではまずいと、8年程前から私を含め数名のみで、細々と自社企画製品の開発に取り組み始めています。最近でもまた、別の新たな『タイミングの運』を見つけ分析した結果、これは確かな『種』だという確信があり、それにも取り組んでいます。

他が追随できない高度な製品開発で技術大賞を受賞

―― 御社の技術力の高さを示すエピソードを教えてください。

例えば、多くのIoT機器で使われているBluetooth®LEの通信距離は10m程度という認識が一般的なイメージだと思います。しかし、同条件で我々が開発すると200m(見通し)は飛びます。しかも、最新のBluetooth規格(LongRange仕様)を使えば、ボタン電池であっても1km以上(見通し)は通信できます。正しい理論と経験を元に設計すればBluetooth®LEにはそのくらいのポテンシャルがあるのです。さらに、2022年6月20日からドローンの登録が義務化され、識別情報を電波(Bluetooth®LEまたはWi-Fi)で遠隔発信するリモートID機能を機体に備えなければならなくなり、弊社もこの事業に参入したのですが、この製品では3kmもの通信を実現しています。

無線機器の企画や開発において、その正しい理論に誤解があっては、正しい商品企画はできません。アンテナ技術やプロコトル開発技術などを含めた、正しい無線技術を身に付け、企画・提案ができなければ、本当のプロフェッショナルとは言えないと思います。

この無線技術を中核として、8年ほど前からIoTに不可欠なネットワークやクラウドシステムも完全独自の設計思想で構築しました。弊社のハードウェアの開発はかなり合理化し短期間で開発できるように工夫出来ていたものの、クラウド側システムの構築側の開発は、LTE通信を採用し開発するとなると2~3年程も要します。システム開発に数年も要していてはコストも高額になりますし、第一に遅すぎます。管理職からみれば「未だ終わらないのか? もう別のことやったら?」となりますよね。

そこで、既存のネットワークの常識に囚われず、ハードウェア技術者目線で白紙ベースから構想した結果、ネットワーク上にサーバーが存在しない全く新しいIoTシステムを発明しました。これが弊社で独自開発した「BraveGATE」と呼びます。通信ネットワークの経路にサーバーが無いので、複数の開発会社間の接続テストやデバッグが不要となります。これであれば、システムの導入が早い事は理解していただけると思います。実際、BraveGATEを使えば、無線IoTサービス構築を6ヶ月程度で実用可能なレベルに追い込めます。

どうなっているのかと言いますと、実は無線IoTデバイス自身をサーバーとして機能させているからなのです。この突拍子もないアイディアは、無線IoTデバイスの更なる低消費電力化にも貢献するというオマケも付きます。

また、お客様のシステム開発には特殊な要求は無く、これまで通りの開発で良く、BraveGATEとの接続には数日で完了し、IoTシステムが簡単に且つ安定に稼働するというものです。通信経路に複数のサーバーが無く軽量ですので、凄く安定なのも理解していただけるかと思います。

このように、未経験な領域においても、伝聞による知識や常識に頼らず、白紙ベースから『有るべき姿』を求めて、構築する根性とういかマインドが弊社内では当たり前なのです。

都市ガス大手の西部ガス様と開発した「ガス導管内 露点・圧力遠隔管理システム」は同様の製品システムはコレまでにも数々の会社がトライし、失敗してきたと耳にしました。ご相談があった時には、まさにBraveGATEが完成ホヤホヤの状態でしたが、西部ガス様の独自システムはコレまで通りに開発されて、繋ぎ込みもあっさりと数日で完了されました。量産してかれこれ数年にもなりますが、現在でも安定して動作しています。これは、埋設したガス導管の破損箇所を低コストで探索できるIoT機器で、一般社団法人日本ガス協会による2021年度ガス技術大賞・技術賞でガス技術部門の「技術賞」を受賞しました。

▼「ガス導管内 露点・圧力遠隔管理システム」は日本ガス協会「技術大賞」を受賞

株式会社Braveridge
株式会社Braveridge
(画像提供=株式会社Braveridge)

その後、全国の都市ガス事業者様で1,000台ほど使われるようになり、2023年度には「技術大賞」にも選ばれました。これが注目されたことで、最近はガス事業者様とのプロジェクトが増え、今は事業用ガスメーターをスマートメーター化するシステムを西部ガス様と共同で開発しています。これも、ハードウェアを含めた全体の開発には5ヵ月ほどしかかかってなく、現在は共同でフィールドデバッグに時間を掛けて最終的な検証に充分な時間を掛けています。

IoTの成功には、開発期間を短縮し、開発コストを抑え、本来のデバッグに時間を割き、市場導入を早める事だと思います。もともとネットワークシステムの開発は、本業ではなく相当に苦労しましたが、今ではBraveGATEを開発して良かったと痛感していますね。

日本メーカーが辞めてしまった携帯電話づくりにも再挑戦したい

―― 非常に高い技術を持っていることがわかりましたが、今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

無線技術力の鍛錬と伝承、そしてそれを活用した製品の開発と製造の技術の蓄積はこれからも続けて行きます。それらを磨き、活かし、開発した製品を、国内のみならずグローバルに展開することも計画しています。一見、ハードウェア無線技術って地味に見えますが、これが将来に不要となる日は絶対にありえません。愚直にこれにとり組んで行った将来には、グローバルに「無線といえば福岡のBraveridge」と言われるような姿を目指しています。

将来、上場する際には、大きな目標があります。これが弊社のノーススターメトリックだと言っています。日本メーカーが辞めてしまった携帯電話の開発・製造にチャレンジするぞという目標です。事実、常にそのタイミングを見計らっています。弊社の無線技術者達はコードレス電話機やPHS電話機を設計していたベースがあるので、電話機の開発はお手の物です。

だからといって、現在のスマートフォンをそのまま作るわけではありません。もうそれは既存製品ですから、今更感がありますよね。よくよく考えてみれば、10年後、20年後にも今のスマホがコミュニケーション端末としてそのままであるとは思えないのです。全く概念も使われ方も異なる『全く新しいコミュニケーション機器』が新に発明されるのが世の常で、その変わり目というか潮目を狙って情報・状況を収集・分析し続けています。この大きな『タイミングの運』を必ず掴み取ろうと企んでいます。私が追い続けているのは、その技術の『種』レベルの情報なのです。この『タイミングの運』を掴んだら決して逃さず、誰よりも早くモノにし、弊社を大きな発展に導こうと考えています。この情報収集と分析は凄く深くて難解なのですが、少し見え始めてはいます。

創業時からこういう活動は常にやっていますが、この『新コミュニケーション端末』を追い続ける中で、Bluetooth®LEやLPWAやIoTといった新たな価値に出会い、ここまで来たのも事実なのです。最初に言いました『○○をやるベンチャー企業』と決めずに創業した結果、このような臨機応変な開発に貢献していると思います。企業家としては、時代や社会に合わせて、技術をお金に変えるのが、私の企業哲学でもありますので。

最近は、新たな製品カテゴリにも取り組んでいます。3月16日には、九州大学の研究室の特許技術を元に開発された小型且つ超薄型のアンテナの製品化で、部品事業とも言えますね。最も特徴的なのは、1mmという薄さにも関わらず、金属面に貼り付けても全く影響を受けない特殊な特性をもっています。電波は特性上金属からは充分に離しておかないとアンテナの機能を失います。これまでマンホールの金属蓋やロッカーなど金属筐体は無線特性を阻んで来ました。長年、無線によるIoT化が望まれつつもこのような課題があったため実現が難しかったのです。これもまた無線技術の中から生まれた新製品なのですが、非常に問い合わせが多いです。それどころか、私が全く想定していなかった製品で使用したいとの問い合わせも来ていますので、面白いですよね。

▼金属面に貼り付けても影響を受けない特殊なアンテナを開発

株式会社Braveridge
株式会社Braveridge
(画像提供=株式会社Braveridge)

―― 生き残るためには優秀な人材も必要です。

ソフトウェアの世界では、新しい技術が日進月歩の様に生まれていますが、技術の共有という形で人材が増えています。一方、ハードウェア技術となると、私の経験上の話ですが、現時点で65歳以上の無線技術者たちの中に相当な技術力を保有している方々が居られたのですが、上手く伝承されていない印象です。弊社には、運良く無線技術を継承した者が複数名居ます。これからは、私達が若い無線技術者を育て、伝えていく責任があると思っています。

これは、私の企業哲学の1つでもある『継続』を元にしています。若い世代に『教育・伝承』することは、企業価値の存続には必須です。弊社では、無線技術者に限らず、各エンジニアも優秀でして、全く別業種の中途社員でも1年もすれば、一線で設計を任せられる程にまで成長させています。勿論、本人の『継続する気持ち』が一番大切ではありますけどね。私が将来、引退した後でも技術的に成長し続ける『企業文化』の醸成も私の使命だと思っています。こういうのは、1人の日本人技術者として、私にも課せられた責任だと感じています。

―― 先ほど、上場というワードが出てきました。

各半導体メーカーのIC開発には5年以上も掛かるようです。つまり、半導体メーカーは、5年以上先の世界の情勢を見据え、情報収集し、分析した上で、確実に企画し開発の判断をしています。失敗すれば、かなりの投資損失になりますからね。一方、私共を含めたハードウェア企業は、各種様々なICが無ければ新たな製品を具現化することはできないのが現実であり、相互的な連携が必要なのです。そして上場といっても、巷で言われる『上場ゴール』などと批判されるのはやはり嫌ですね。だからこそ、この製品やサービスで上場しましたというのではなく、上場後の成長戦略の綿密な計画はもっと重要だと思っています。そのためにも、各半導体ICメーカーとのコミュニケーションを駆使し、常々3年以上先の情報・状況の収集と分析を持った上で、明確な成長戦略をもっての上場をしたいと思っています。

最近ではかなり先の情報を提供される程には信用されている実感はあります。勿論、丸々情報を貰える訳ではありませんが、欠片の様な情報を自ら紡いで先を読み解く感覚です。これは本当に重要な『種』の探索であって、まさに『タイミングの運』の探索だと思います。一方的に自分が考えた将来を夢見た企業戦略ではなく、現実的に半導体ICの現実的な将来動向に同調し、臨機応変に対応する企画力も、上場後にも認められる企業としては必要なのではと思うのです。その結果、もしかしたら新しいコミュニケーション端末では無いかもしれませんが、「Braveridgeは○○で上場した。そして、上場して新に○○をやり遂げた」と評価される事が理想ですね。

―― 最後に、ZUU onlineの読者にメッセージをお願いします。

ここ20年で、ITやサービス業界が注目されるようになりました。それは自然な流れですが、これらにばかりに期待をするのは、偏り過ぎではないかと思います。ソフトウェアが無くならないのも事実ですが、ハードウェアも無くなることは有りません。ハードウェアは中国で作れば良いじゃ無いかという方々も結構居られます。それは本当に正しいのでしょうか? 

一方、海外ではハードウェア企業に対するベンチャー投資も根強いと伝え聞きます。まだまだ日本は、知識と知恵において他国には、決して引けを取りません。私も社長という役職ではありますが、若手に負けぬように無線設計でも常に先頭にいます。実務から離れ、マネージメントに集中するなんて言っていたら、もう取り残されてしまうのではとの恐怖感があるので、未だに無線設計の前線に居続けています。なんとも古くさい経営方針だと思われようとも、その古臭い哲学や理念から、誰も考えていない新たな価値を産みだしてみせる覚悟です。若いエンジニア達も将来ずっと技術から離れず、年をとっても設計を楽しんでいて欲しいですね。

私はソフトウェアの世界では勝てませんが、ハードウェアの世界では、わりと先頭にいる実感はあります。他人や他社がやっている事に追随しても、何も面白くないと思うのです。社員にも「刺身と言えば美味いが、死んだ魚の切り身と言えば食えない。そうは成りたくない」と冗談を言っています。この我々Braveridgeの挑戦が、どう結実するのかにも、ぜひ注目していただければと思います。