特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業のトップにインタビューを実施している。経営者は、何を思い描き事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのだろうか。本稿では、これまでの変遷を踏まえたうえで、経営戦略についてさまざまな角度からメスを入れていく。

株式会社ネクストワンは、ITSM(ITサービスマネジメント)を中心に運用やシステムの最適化を行うIT企業だ。公共事業やエンタープライズ向けに安全・安心なシステムを提供しているだけでなく、人財採用・育成にも注力し、IT業界の人手不足の解消に尽力している。今回は、株式会社ネクストワン代表取締役社長の村田怜皇氏に今日までの変遷や事業の特長、将来の展望などについてうかがった。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社ネクストワン
村田 怜皇(むらた れお) ――株式会社ネクストワン代表取締役社長
1982年生まれ。東京都出身。2006年3月に成城大学経済学部経営学科を卒業後、ITベンチャー企業へ入社し営業を担当する。2011年に転職し、株式会社ネクストワン(父親が2001年に創業した会社)に入社。2015年11月、父親から引き継ぐ形で代表取締役社長に就任し現在に至る。
株式会社ネクストワン
2001年8月、IT人材の教育機関として有限会社ネクストワン(現:株式会社ネクストワン)を創業。翌月9月に現在の住所地となる東京都渋谷区東に移転。2006年6月に現商号となる株式会社ネクストワンに改称した。2010年3月、プライバシーマークを取得。
現在はSES事業を中心に事業を展開。未経験からWebデザイナーへの就職や転職をサポートする職業訓練校「WebStudySapporo」も運営している。

目次

  1. SES事業を主軸にセキュリティ、教育事業も展開
  2. IT人財の育成を掲げ2001年8月に創業。エンジニアファーストを掲げる
  3. 人財育成事業を拡大しIT業界の発展に貢献する

SES事業を主軸にセキュリティ、教育事業も展開

―― 最初に、株式会社ネクストワンの事業内容や特長をお聞かせください。

ネクストワン代表取締役社長・村田怜皇氏(以下、社名・氏名略):弊社は「人を創り、人を育てる」をモットーにネットワークシステムの運用を通じて「世の中の安全安心を守るサポート」「IT教育」を提供している企業です。企業へITエンジニアを派遣するSES(システムエンジニアリングサービス)事業をメインに日本屈指のセキュリティベンダーと連携したセキュリティ事業やIT人財の育成などを手がけています。

SES事業の特徴は、携帯キャリアのサーバ・ネットワーク更改や新契約システムの構築などインフラ構築に特化していることです。現場に派遣する際は、本人の意向を尊重し業務内容や諸条件が合わない限りアサインせず、エンジニアファーストで彼らのモチベーションを最も大事にしています。また経験者・未経験者を問わず弊社の教育機関で研修を重ねたうえで現場に派遣しています。

従業員約200名のうち、ほとんどがエンジニアで売上の9割近くがSES事業によるものです。本社は、東京都渋谷区にありますが、育成のノウハウがあることから札幌支社では職業訓練校を3教室運営するなど求職者支援訓練も行っています。

―― 近年はIT関連の人財不足が叫ばれていますが御社はどのような工夫をされていますか?

ご多分に漏れず苦戦していますが、弊社は未経験者であってもITに興味がある人財を積極的に採用・育成することで人手不足をカバーできています。大卒者は、文理を問わず募集していますが、実際は理系出身者や専門学校出身者が半数以上です。

―― SESの競合他社と差別化はどのように図っていますか?

やはり教育に力を入れているところです。また現場では、リーダー・サブリーダーを約30名配置し、彼らを中心にエンジニア同士が技術・知識を高めあったり、先輩が後輩をサポートしたりする仕組みを構築しています。

―― 研修制度の内容は?

ITエンジニア研修としてインフラやコンピュータの階層構造などについて学ぶ「コンピュータ基礎」、OSI参照モデル、イーサネットなどについて学習する「ネットワーク研修」、Linuxについて学ぶ「Linux研修」、あいさつや身だしなみ、電話対応、ビジネス文書、報連相などを身につける「ビジネスマナー研修」を提供しています。

座学だけではなく実機やシミュレーターも使い、実践力を身につけるのが狙いです。また技術力だけではなくコミュニケーションスキル、ビジネスマインドも育成することでクオリティの高いエンジニアの育成を心がけています。講師を務めるのは、エンジニア経験者です。基本的には、社内向けのものですが、他社から依頼を受けて受け入れることもあります。こういったしニーズは増えているので、今後は講師の派遣も行いたい考えです。

▼ネクストワンの研修制度

株式会社ネクストワン
(画像提供=株式会社ネクストワン)

IT人財の育成を掲げ2001年8月に創業。エンジニアファーストを掲げる

―― 今日までの変遷をお聞かせください。

弊社は、私の父(現会長)が2001年8月に創業し、2015年11月から私が引き継いでいます。当時からエンジニアの採用は難しく、「それならば一から育てよう」とIT人財の教育機関として立ち上げました。SES事業は、別の会社で展開していましたが、弊社で多くの人材が育ってきたことから2021年5月に組織を統合しました。札幌で求職者支援訓練を行っている理由は、教育機関としてのノウハウがあるからです。

―― エンジニアファーストを心がけているとのことですが、事業運営では何を大切にしていますか?

エンジニアのモチベーションやキャリアを1番に考え、現場のアサインをすることです。SESは、良くも悪くもさまざまな現場に就くことができます。そのため例えば「最初は監視・運用で経験を積み、次は開発・検証環境へ」など、どんどん変えていくことで経験や知識を積み重ねることが可能です。しっかりとステップアップしながら立派なエンジニアに育てることが重要だと考えています。

そのためにも本人の希望を聞くなど年2回の面談は必須です。研修を通じたスキルアップや、キャリアを意識できる業務提供で日本に優秀なエンジニアを増やすこともミッションだと考えています。

人財育成事業を拡大しIT業界の発展に貢献する

――さらなる成長を実現するため、今後の目標や5年後、10年後に目指すべき姿をお聞かせください。

2021年10月期の売上は、約10億円で着地しましたが、5年以内に倍まで増やすのが目標です。そこに向けて人財の拡充や先ほど述べた外部に向けた研修事業など、新たなことも検討しています。最も関心を抱いているのは、教育です。弊社は、未経験者を現場で通用するエンジニアに育成できるのが強みであり、このノウハウをうまくビジネスに活用したいと思っています。

他社の研修は、CCNA(Cisco Certified Network Associate)など資格取得が目的になっていることが少なくありません。しかし弊社の場合は、サーバやネットワークといったITの基礎、データベース、プログラミングなどエンジニアが現場に出ても困らないためのスキルを短期間で習得させるのが目的です。またさまざまな技術に触れることで自分自身の得手不得手も知ることもできるので、こういった研修を業界に広めたいと思っています。

スキルだけではなくマインド面も成長できるような研修プログラムの策定に向け、現在準備中です。加えてセキュリティ事業もさらに拡大させていきたいと思います。

―― 話は変わりますが、最近気になるニュースやトレンドはありますか?

やはり教育関連でしょうか。親の教えで子どもの成長の度合いが変わるようにエンジニアも研修内容によって優秀になれるかは違ってくると思います。私たちの世代と今の若者たちの世代で感覚は異なるでしょうが、お互いの良いところを伸ばせるようなものにしたいです。そのためそういったヒントになるニュースにはよく目を通しています。

―― 御社は東京ヴェルディのオフィシャルパートナーを務めるなど、スポーツとの関わりが見られます。なぜでしょうか。

東京ヴェルディの「世界で輝ける人材を育成する」というミッションに共感したことが理由です。ユースにも力を入れ、バスケットボールやeスポーツなど新たなジャンルのスポーツの発展にも尽力する姿が、ジャンルは違えど「強い人材を作る」という点で弊社と理念が共通していると感じ、2020年からコーポレートパートナー契約を締結しています。

▼東京ヴェルディのオフィシャルパートナーを務める

株式会社ネクストワン
(画像提供=株式会社ネクストワン)

他にも2021年からは、格闘技イベント「RIZIN」のパートナーも務めています。アスリートの活躍が社員のモチベーションにつながったり、弊社の認知度アップにもつながったりすれば良いと思っています。

▼RIZIN×ネクストワン

株式会社ネクストワン
(画像提供=株式会社ネクストワン)

―― 最後に、ZUUonlineの読者にメッセージをお願いします。

私自身、「JC(日本青年会議所)」で社会・地域貢献活動をしたり、「EO(Entrepreneurs' Organization:起業家機構)」で経営者たちと切磋琢磨したりするなど常に成長すること考え日々を過ごしています。会社も同様で人材育成を通じて社会に貢献したいと考えています。

今後、日本には富裕層や起業家がさらに増えるなか、公益活動に関心を寄せる方も多いと思いますが、弊社の活動に興味も持っていただけると幸いです。