特集『Hidden unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。

今回は物流受託事業、生活支援物流事業、宅配ボックス事業を三本柱とし、地域密着型の物流サービスとシステムを提供するウィルポート株式会社代表取締役社長の藤原康則氏に、自社の強みや今後の展望などを伺った。

(取材・執筆・構成=井澤梓)

ウィルポート株式会社
藤原康則
ウィルポート株式会社 代表取締役社長
1960年生まれ広島県出身
広島で運輸関連グループ企業の役員を経てベンチャー支援のNPO法人立上げ、自らも東京で加工食品輸入会社Fruity7㈱を設立、メキシコにMexifrutas社とJV設立、2014年バングラディシュの貧困対策に加工食品工場を立上。国内では医療機器販売会社の立上げ支援をするなど、数々の法人を立上た経験をもち、2018年4月シードステージから現代表取締役に就任
ウィルポート株式会社
EC台頭で変容する物流業界。小口化、多頻度化、過重配送先数、再配達など配送計画は複雑化する中で、2024年問題、宅配クライシス解決を「狭商圏共同配送」で解決するシステム「Polaris Navi」を開発。そのシステムを共同配送の標準とするオープンプラットフォーマを目指す物流DX企業です。

目次

  1. 自社開発システムを全国32万車両が稼働する軽貨物配送事業者に提供
  2. 現場ファーストの精神で配送業界の変革を
  3. 狭商圏エリアの地域密着型配送に特化
  4. 「物流2024年問題」にDXで立ち向かう
  5. ドライバーの価値向上に貢献したい

自社開発システムを全国32万車両が稼働する軽貨物配送事業者に提供

―― 展開している事業と御社の強みについて、お聞かせください。

ウィルポート代表取締役社長・藤原康則氏(以下、社名・氏名略):受託物流、生活支援物流、宅配ボックスの3事業を展開しており、今期の売上は18億5,000万円を見込んでいます。売上の9割は配送関連の事業ですが、新規事業であるIOT宅配ボックスも注目をいただいており、今後の成長を見込んでいます。電源が不要で安価で導入できるにもかかわらず、クラウド上で物の出し入れなどを管理できる世界初のサービスです。

主力である配送事業では、全国32万車両の中小規模の配送事業者に「Polaris Navi(ポラリス)」という配送管理システムを提供し、地域に密着した物流事業小規模物流ネットワークを構築しています。この「ポラリス」を自社のエンジニアチームで内製化していることが当社の強みです。配送業界を熟知しているメンバーが制作しているからこそ、隅々まで行き届いたシステムの構築が実現できるのです。

加えて、現場での課題や困りごとを吸い上げて、すぐさま開発に活かすこともできます。現場の事業者様からは「使い勝手が良い」と好評をいただいています。配送大手3社は独自のシステムを使っていますが、オープンプラットフォームとしては最大かつ唯一無二のサービスだと自負しています。

現場ファーストの精神で配送業界の変革を

―― 「ポラリス」を利用することのメリットを教えてください。

一般的に、配送される荷物は物流センターから出荷されたり、個人宅から集荷されたり、ネットスーパーで購入して当日配送の指示があったりとさまざまな経路があり、また配送業者もバラバラです。

「ポラリス」の独自の伝票発行システムを使うと、他社から荷物のデータもまとめてドライバーに配送依頼が送られ、共同配送が実現します。加えて、「自動ルーティング」というルートの最適化・ナビ連携を行うAI技術で、経験の浅いドライバーでも配送時間や配送場所を守れるようになります。ドライバーの皆様のエンゲージメントを高めることで、顧客満足度の向上にもつながる考えております。

「ポラリス」をご利用いただくと、無駄をなくせるだけでなくCO2の削減にもつながり、あらゆる面で効率化を図れます。弊社は、このシステムで配送業界の変革を目指しています。

―― 非常に画期的なシステムですが、「ポラリス」を作ろうと思ったきっかけは何ですか。

創業地の広島で配送業を営んでいた頃の負を解消しようと思ったのがきっかけです。

当時は伝票を1枚ずつ手書きで作り、集計して請求データに変換する必要がありました。とにかく手間がかかり、無駄も多かったのです。これらの作業をシステム化しようとしたのが発端でした。さらなる効率化を目指した時に「地域に配送する荷物は、その地域で完結させよう」と考えて始めたのが生活支援物流事業です。創業当初から現場ファーストで、現場のフィードバックをシステムに反映させることを心がけてきました。

狭商圏エリアの地域密着型配送に特化

―― 「生活支援物流事業」について詳しく教えてください。

一般消費者の買い物を支援する「ブラウニー」というサービスを提供しています。

最大の特徴は地域の配送ドライバーを駆使することで、消費者が店舗で購入した商品を3時間以内に届けるというスピード配送です。主に地域のスーパーなどの小売店舗に、顧客サービスの一つとして導入いただいています。

配送希望の商品をレジで清算後、サービスカウンターで予め登録した配送会員カードをスキャンされると配送システムに自動登録され、地域のドライバーにスマートフォンのアプリ上で配送依頼通知が送られます。ドライバーは指示に従って店舗まで商品を取りに行き、消費者の自宅に届けるという流れです。

当社はお客様と店舗からそれぞれ利用料をいただいて運営しているのですが、消費者は基本的に1回の配送が100円のみと非常に安価で利用できます。小売店舗からは「本サービスが付加価値となり、地域の顧客の囲い込みに成功している」という嬉しい声をいただいています。

現在は買い物代行事業者などとも提携開発を進めており、利用者の拡大を目指しています。

―― 次に、物流受託事業について教えてください。

狭商圏エリア内での物流を受託するサービスで、事業者様の配送システムの状況に柔軟に対応できることが強みです。特に強みが発揮できるのは、ECを活用する事業者様における配送です。消費者が購入した商品は配送センターから出荷されるのが一般的ですが、例えば店舗の在庫を引き当てて店舗から直接配送するなど、在庫状況に応じてシステム上で物流を最適化できるのです。

集荷からお届けまでをクラウド上で一元管理ができることについても好評をいただき、衣料品や本、スマホパーツなどのEC事業者様にご利用いただいています。

「物流2024年問題」にDXで立ち向かう

――事業の中で課題だと思うことはありますか。

業界全体の課題でもありますが、「物流2024年問題」ですね。

働き方改革関連法によって、2024年4月1日から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用され、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されるという問題です。違反すると罰則が科せられます。それによって、ただでさえ人手不足のトラックドライバーがさらに不足しますし、運賃の上昇だけでなく、配送ができないといった事態も起こりかねません。また、トラックドライバーの収入減少や、それによる離職も懸念されます。一方でEC市場の拡大に伴い、荷物はさらに増えていくでしょう。

これらの課題を解決するためには、物流現場のDXによる効率化しかないと考えています。先程申し上げたAIの自動ルーティング機能や共同配送を用いることや、地方には地方の、都市には都市に合った最適な配送方法を提供することで、業界のDX化を牽引したいと考えています。

ドライバーの価値向上に貢献したい

―― 今後の目標を教えてください。

まずは、足元の事業の中で堅実にプラットフォームを拡大させながら『狭商圏・共同配送』の確立を目指します。全国の配送ドライバーや中小規模の運送会社或は異業種の方にも本システムを導入いただくことで、大手の下請け作業ではなく、自分たちで仕事を獲得できる環境を整えていきたいと考えています。

そして、いずれは各配送ドライバーをプラットフォーム上でスコアリングし、成果を出しているドライバーに高い報酬が支払われるようにするなど、ドライバーの価値向上に貢献していきたいと思っています。

それを実現するためにも、当社のプラットフォーム上で稼働する車両をさらに増やさなければなりません。目標は、5年以内に約6万台の車両が常に稼働している状態です。稼働率を鑑みると、登録している車両数を10万台程度まで伸ばす必要があると思っています。

日本の物流網は世界に誇れるものです。その先には、本システムの海外進出も思い描いています。

井澤梓
立命館大学卒業後、金融機関を経て、2010年ビズリーチの新規事業立ち上げに参画。法人営業や人材エージェントの新規開拓営業に携わる。その後ライターとして独立し、経営者などのインタビューを数多く手掛けている。2020年にカタル(https://cataru.co.jp/)を設立し、代表取締役に就任。