外為マーケットレポート
(画像=外為どっとコム マネ育チャンネル)

株式市場には、Sell in May.=(5月に売れ。)と言うアノマリーがある。
アノマリーとは、理論的根拠は無いがよく当たる経験則のことで、株式市場に限らず為替市場にも似た様な物は存在する。

これには続きが有って、Sell in May, and go away. Don’t come back until September.=(5月に売って何処かに行きなさい。9月まで帰って来ない様に。)と言う。

別に全く根拠の無い経験則ではなく、過去に5月から9月に掛けて株価が下落した確率は結構高いらしい。

その、売れと言われている5月の株価に異変が起きている。

特に日経平均株価の高騰は凄まじく、月初の29,123円からあれよあれよと言う間に3万円の大台を超え、先週末は30,808円と5.8%高で終えた。
2021年9月につけたバブル経済崩壊後の高値(3万0670円)を上回り、33年ぶりの高値水準となった。

正にBuy in May.=(5月に買え。)と言わんばかりの逆アノマリーが起きた。

この背景には著名な米国投資家のウォーレン・バフェット氏の日本株買い推奨に乗った海外投資家の買いが有ると言われている。
日銀の執拗な緩和政策継続やコロナ後の我が国経済の持ち直しなども日本株買いの後押しをしているものと思われる。

日本株上昇は結果としてリスク・オン(投資家が新たなリスクを取る事を好む。)となり、安全資産の債券は売られ(金利は上昇。)円も売られる傾向が多い。

そして正にその通りに円が売られて先週は6日連続してドル・円は上昇した。

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(5月からのドル・円日足・ローソク足チャート)

先週のレポートでドル・円相場の上昇の背景に、短期の投機筋のショート・カバー(ドルの売り持ちを買い戻す。)があると触れたが、その他にも日本株を購入した海外投資家が為替ヘッジの為に先物で円を売った可能性が高い。

137.10近辺に在った200日移動平均線(上のチャートのオレンジ色の線)を殆ど抵抗無しに超えて、140円も視野に入ったと言う声が多いが筆者は相変わらず米国が抱える問題(爆弾)は何も変わっておらず、爆弾の導火線が多少伸びただけで爆発は時間の問題であると認識している。

いみじくもパウエルFRB.議長がワシントンで開催された会議で、最近の信用状況の逼迫を受けて、“我々の目標を達成するために政策金利をそれほど引き上げる必要がないかも知れない。”と更なる利上げに対して慎重な意見を述べたが、2021年に“米国のインフレは一過性の物である。”と利上げ開始を躊躇して、結局翌年の2022年3月から1年間、10回に渡って5%もの利上げに踏み切らざるを得ず、結果として中小銀行の倒産、信用状況の逼迫を招いたことは明白だ。

今度は利下げ開始を躊躇して米国経済のオーバーキル(急激な景気後退)を招かなければ良いなと願うばかりである。

米国人のクレジット・カード決済の延滞、商業用を含む不動産価格の低下、そして事あるごとに触れて来たシャドウ・バンキング問題などを見るに付け、爆弾の存在を忘れる訳には行かない。

とは言えドルの売り持ち継続はキャリング・コストが掛かる。
これも何度も言ってきたが、野放図なドル・ショートの継続は慎んである程度下がったところではドルを買い戻して再び上で売ると言う戦略で臨みたい。


今週のテクニカル分析の見立てはドルの買われ過ぎに注意。

じわじわ上がって、どすんと下げる局面もあろうか?

酒匂隆雄
酒匂隆雄氏
酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表 1970年に北海道大学を卒業後、国内外の主要銀行で敏腕ディーラーとして外国為替業務に従事。その後1992年、スイス・ユニオン銀行東京支店にファースト・バイス・プレジデントとして入行。さらに1998年には、スイス銀行との合併に伴いUBS銀行となった同行の外国為替部長、東京支店長に就任。 その一方で2000年には日経アナリストランキング・為替部門にて第1位を受賞するなど、コメンテーターとしても高い評価を得ている。