中小企業で後継者が決まらない原因
中小企業で後継者が決まらないのは、どこに原因があるのだろうか。ここでは、その問題点や原因について解説する。
事業承継の3つの方法
事業承継には、主に以下の3つの方法が考えられる。
・1.親族内承継
経営者の息子など子どもや兄弟など親族のなかから候補者を選んで承継する方法
・2.従業員など自社企業の生え抜きへの承継
自社の有望な役員や従業員など社内の優秀な人材を候補者に選んで承継する方法
・3.第三者承継
外部から後継者となる候補者を選んで承継する方法
事業承継で生じる問題
事業承継によって経営者が交代することで起こり得るリスクには、以下のようなものがある。
・1.売上の減少
特に中小企業では、創業者の力量で事業拡大を図ってきた企業が多い。なぜなら中小企業は、良くも悪くもワンマン経営になりやすく経営者の経営センスや能力、人間関係で経営基盤が成り立っているからである。経営者の人脈によって売上を獲得するなど、経営者自身の営業活動でビジネスが成立し、長年取引している顔見知り同士の取引が多いことも特徴だ。
経営者の長年培ってきたノウハウと人脈によって安定した経営基盤を築いてきたため、後継者問題で派閥ができたり跡目争いが生じたりすれば、取引先との信頼関係が損なわれてしまう可能性もある。相続によって子どもが後を継いでも、経営基盤をしっかりと引き継ぐことができなければ売上は減少しかねない。
経営者が変わることで別会社のように経営方針が一変することは、よくあることだ。なじみの客というのは、長年の信用により取引を継続してきているため、経営方針の変更によっても売上が減少することがあるのだ。世代交代によって経営方針が変われば、それがきっかけとなって取引先との関係が疎遠になったり取引を解消されたりする可能性もある。
・2.従業員から離職者が発生する
経営者の交代により、これまで経営を支えてくれた幹部や従業員の心が離れ、退職してしまうことも考えられる。ワンマン経営ではなくても企業経営者の人間性や魅力、経営理念で成り立っている中小企業は多い。経営者の交代によって求心力が低下すれば、離職者が発生することが考えられる。
また息子が後継者となって「息子自身の考えで経営を立て直す」ということもあるかもしれない。しかし後継者と従業員で経営方針に対する考え方の対立が原因で有能な人材が流出することもある。
・3.事業継続の危機となる要因が発生する
事業計画の作成や経営会議、銀行など金融機関の手続き、取引先との業務の打ち合わせなど事務的なことは引き継ぐことができるだろう。しかし言葉では説明しにくい経営者個人が持つセンスや長年の経験に基づくノウハウを引き継ぐことは容易ではない。また中小企業では、経営者自身が自社の株式を保有し、経営者の個人資産を事業に提供しているケースも多い。
事業資産と個人資産とが密接な関係にあるため、「相続による持株の譲渡」「個人資産と事業資産との分離」「後継者への事業承継」といったことがうまくいかないと事業継続の危機につながる可能性がある。
中小企業で後継者が決まらない原因
中小企業の経営者が連帯保証人となって、金融機関からの借入金など会社の債務を個人保証することは珍しくない。しかし親族内承継の場合、後継者が引き続き債務を個人保証するように金融機関から求められることがあるため、会社の経営状態が悪化すると後継者が債務を弁済することになるリスクが生じてしまう。このような経済的な負担を危惧して後継者となることを拒否する親族も少なくない。
会社経営には、社会情勢や市場のニーズの変化、資材高騰、為替レートの変動など経営者の手腕だけでは避けられないリスクが多く発生する。これらが要因で経営が厳しくなると後継者が経営責任を問われる事態にもなりかねない。経営リスクを恐れて親族内承継を希望する経営者が減少していることも、中小企業で後継者が決まらない要因といえる。
後継者は、技術的な能力はもとより、「リーダーシップに優れ人格的に優れている人物でなければならない」というプレッシャーを抱えている。しかし求められる能力が高いほど社内でも親族内でも後継者の候補となる人材を見つけることが困難になるだろう。「既存のビジネスを維持しつつ新しい分野に進出する」といったチャレンジ精神も経営には必要だ。
しかし、新しい時代に合った経営ができる人材は、募集してもなかなか見つけることができない。