特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業のトップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略についてさまざまな角度からメスを入れる。
Thinkings株式会社は、「採用管理システムsonar ATS」を中心としたSaaSビジネスを展開するHR Techカンパニー。人材の獲得から活用まで、一気通貫で対応可能なプラットフォームが支持され、これまでに1,400社以上が同システムを導入している。本稿では、代表取締役社長の吉田崇氏に今日までの変遷や事業の特長、今後の展望などについて伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
2022年7月にシリーズBで16.2億円を調達、月間定期収益(MRR)も1億円を突破しました。提供する「採用管理システムsonar ATS」は、2023年3月現在で導入実績が1,400社以上あります。
エコシステム型の採用管理システムとHRサービスのマーケットプレイス事業で成長
―― 最初に、Thinkings株式会社の事業内容や特長をお聞かせください。
Thinkings代表取締役社長・吉田崇氏(以下、社名・氏名略):弊社はHR Techの分野で、主に2つの事業を展開しています。1つ目は、企業の人事向けに提供している採用管理システムの「sonar ATS」です。これは応募者を適切に管理して入社まで導く業務支援システムで、採用担当者の業務負担を大幅に削減するものです。SaaSの形式で提供し、1,400社以上に導入されています。
2つ目は、HRサービスの検討・導入支援サービスの「sonar store」です。これは求人媒体、適性検査、オンライン面接など、store ATSと連携するツールを購入できるHRサービスに特化したマーケットプレイスで、「sonar ATS」の中に格納されています。採用活動において当初の計画より応募者が少ない、内定を出しても競合に取られるといった課題を発見した時に、「sonar store」から外部のHRサービスを購入して対処できるなど、両者を組み合わせて使えるのが特長です。弊社は、このような「採用管理システム× HRサービスのマーケットプレイス」を手がける唯一の企業です。
▼Thinkingsの事業
―― 近年はスタートアップを含めて多くのHR Tech企業がありますが、どのように差別化を図っていますか。
採用管理システムを手がける専業メーカーであることが大きな違いです。同業他社の場合、メインのキャッシュカウが求人メディアなど別の事業あり、サブシステムとして採用管理システムを作っているケースがほとんどです。一方で弊社はメディアなどを持たない専業メーカーであるがゆえに、HRサービスのマーケットプレイスを展開することができるんです。ですので「Offre Box」や「ONE CAREER」などといった幅広いHRサービスと協力体制が組めています
採用管理システムには求人メディアの色があり、その経済圏の中で採用を進めるという世界観がほとんどです。対して我々は色のついていないプラットフォーマーなので、どことでも組むことができます。お客様が自由に選べるエコシステム型であることが大きな違いであり、それが差別化になっています。
―― 特徴的なサービスですが、ビジネスを進める上で大切にしていることはありますか。
「お客様の採用や組織作りの成功」を中心に考えることです。ビジネスモデル上、提供者側にとってはお客様を自分の経済圏にロックすることはメリットだと思いますが、お客様側はベンダーにロックされたくありません。お客様のことを第一に考え、エコシステム型のサービス提供を選びました。
―― 導入先に特徴はありますか。
千差万別で、トヨタ自動車様やNTTデータ様、LINE様といった大手企業もあれば、社員が数名のスタートアップもあり、大手から中小まで幅広いお客様にご利用いただいています。その理由は、管理する応募者の数で料金が変わる仕組みだからです。また、HR Techはホリゾンタルなのかバーティカルなのかと聞かれますが、どの業界も採用活動は行っているため、どちらかというと前者です。つまり、業界を問わず幅広くご利用いただけるのも特徴だと思います。後発の会社はいきなりホリゾンタルだと太刀打ちできずに業界を絞り込むケースがありますが、弊社はすでにトップシェアに近い形で活動しているので、ホリゾンタルに提供しています。
HR Techを日本国内に浸透させたパイオニア
―― 今日までの事業の変遷をお聞かせください。
弊社は、「採用管理システムsonar ATS」を中心にHR Tech事業を展開していたイグナイトアイ株式会社と株式会社インフォデックスが経営統合し、2020年1月31日に設立された会社です。
私自身の経歴ですが、大学時代のインターンシップ先だった採用コンサルティング会社に2002年に新卒で入社し、3年半ほど勤務しました。その後総合商社の双日に移ってシリコンバレーに駐在し、最先端のITテクノロジーを日本やアジアに持ち込むといったIT関連の業務に8年間従事しました。この時にSaaSやITビジネスの可能性を目の当たりにし、1社目と2社目のそれぞれの経験を組み合わせた新しいサービスを提供したいと考えました。そこで2013年に弊社の前身となるイグナイトアイを設立し、「sonar ATS」をリリースしました。
開発自体はインフォデックスが担うというように、パートナーシップを組んで事業を拡大してきましたが、HR Techが盛り上がってきたことや、新たな事業構想もあり、経営統合に至りました。採用においては応募チャネル領域、採用選考領域、適性検査、応募者とのコミュニケーション、面接など、各プロセスでさまざまなツールがあり、これらをマーケットプレイスで購入すると採用管理システムとAPIで連携し、データも同期されるといったビジネスを始めたいと思っていました。しかし、採用管理システムに留まらないビジネスを始めるには製造と販売が別会社では進めにくく、ならば一緒になりましょうというのが大きな理由です。これを実行するためには先行投資が必要だったので、このタイミングで外部からの資金調達も始め、2021年1月にシリーズAで9.5億円、2022年7月にはシリーズBで16.2億円を調達しました。
―― イグナイトアイの設立以降、ビジネスは順調に成長しましたか。
創業当初はHR Techという言葉自体がなく、そういう意味では走りだったと思います。クラウドビジネス自体への理解もなかなか得られず、数年間はかなり苦労しました。
―― ブレイクスルーはいつでしたか。
当社が打ち出した、採用ステップをマーケティングのように捉えるという考え方に、真っ先に共感いただいたのは広告やマーケティング、ウェブサービスの業界の会社でした。
「sonar ATS」では応募から内定までのプロセスを可視化でき、どの応募経路でどのくらいの効果があったのかなど、クロス分析ができるのが特徴です。そのため、効果の高いメディアにもっと予算を投下するといったPDCAを回すことができます。マーケティングの会社では会員獲得からコンバージョンまでのPDCAを日々回していますが、同じことが採用でできるとご理解いただいたことが大きかったと思います。これを機に、徐々に利用が広がっていきました。
導入期のキャズムを乗り越えられたのは、これらの業界のお客様のおかげです。
人材の総合プラットフォームになることを目指す
―― 今後の目標や5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。
企業の成長には、ヒト・モノ・カネが必要です。弊社は「採用」で事業をスタートしましたが、ヒトの領域で総合的にマネジメントできるプラットフォームになることを目指しています。
応募者を集めてマッチングし、入社後も組織の中で活躍してもらう必要があるため、我々はマッチングの部分からビジネスを始め、「sonar store」を通じて人材募集の領域もサポートできるようになりました。一方で企業の5年後、10年後の展開を考えると、入社後の活躍にも踏み込んで組織づくりをお手伝いする必要があると考えています。
例えば、「sonar ATS」のお客様にとっては社員が入社した時点で採用活動は終わり、その後はOJTなどを行う別の研修担当に業務を引き継ぎます。このように入社前後で業務が分断されることになりますが、本来であればインサイドセールスの職種で採用したら、その1年後に活躍していることから逆算して採用活動を設計すべきです。我々としては、入社前までのプロセスを見える化・自動化して伴走しているのと同じように、入社後も社員の方が活躍できるようにゴールを決め、そのプロセスを可視化して伴走するサービスを提供したいと考えています。現状はそれを研修やOJTで賄う企業が多く、オンボーディングを設計して活躍まで導くサービスはあまりないため、我々が取り組む意味があると思います。採用の世界で行ってきたことを入社後の世界でも実現するのが目標で、3~5年後には一定の規模まで成長させたいです。数字で言えば、前年比140%を積み上げるイメージで進めています。
―― 話は変わりますが、最近気になるニュースはありますか。
2024年卒業予定の新卒の2割は3月1日時点で内定が決まっているというニュースがありました。7年前のこの時期は、3%くらいだったので前倒しが進んでいます。昔と異なり今は学生の立場が強くなり、就活において学生と企業が対等な関係に近づいていると感じました。少子化の影響もあるでしょうが、SNSの普及により学生も企業のことをよくわかるようになっていて、企業側もそれに気付き始めています。一方的に「採用してあげる」というスタンスではなく、お互いに選び合わないといけないようになり、その表れがこのニュースだと思いました。また採用方法においても、スカウトが一般的になり、いわゆる“配属ガチャ”にならないよう職種別・部門別採用を始めるなど一人ひとりに向き合うようになりました。我々がやってきたことが、結果的にこのようなニュースになったと感じています。
―― 最後に、ZUU onlineの読者にメッセージをお願いします。
我々は企業に必要なヒト・モノ・カネという3つの要素のうち、ヒトの部分のプラットフォームになることを目指している会社です。社会の公器になるためにも上場を目指しておりますので、その際はぜひ興味を持っていただきたいと思います。また、経営者の方は採用を避けて通れませんから、弊社のサービスを知っていただけると幸いです。