愛知学院大学 近藤万峰教授

金融分野の研究で長年の経験を持ち、大学生に対して現実との関連を重視した教育を行う愛知学院大学の近藤 万峰教授に、若いうちから金融教育を受けることの大切さについて語っていただきました。
金融教育のメリットや、その今後のあり方について、伺いました。

近藤 万峰(こんどう かずみね) 教授
近藤 万峰(こんどう かずみね) 教授
愛知学院大学経済学部教授。愛知県中小企業金融施策検討委員会委員、愛知県クラウドファンディング活用促進委員会委員も務めた。日本郵政公社東海支社長感謝状受領(2007年)。生活経済学会奨励賞受賞(2010年)。著書に「ポストバブル期の金融機関の行動―新しい時代のリテール金融の確立に向けて―」(成文堂)ほか。

ー最初に、近藤先生のご経歴について教えていただけますか?

近藤教授
名古屋大学で博士号を取得し、愛知学院大学で講師、准教授を経て、現在は教授として学生の教育にあたっています。また、金融システムに関する研究にも取り組んでいます。

ー金融システムと聞くと、具体的なイメージを持てないのですが、具体的な研究について、教えていただけますでしょうか。

近藤教授
私は、地域金融や金融機関行動を中心に研究しています。

金融システムとは、金融取引を円滑に行うための仕組み全体のことであり、金融機関、金融市場、金融規制等の様々な要素から成り立っています。私は、その中でも身近な地域金融にフォーカスし、地域に根ざした金融の役割や、地域金融市場の構造を追求することに注力しています。

ー先生は大学ではどういった授業を担当されているのですか。

近藤教授
私が担当している科目の一つ目は、年間を通して開講する「金融論」です。また、半期開講の「金融システム論」という各論科目があります。さらに、「金融政策論」という科目も教えています。これらが主な担当科目です。

金融論では、金融の基礎について網羅的に学びます。まず、「直接金融」や「間接金融」といった基本的な概念から始めます。そして、金利に関する概念や理論を学びます。

その次に、金融商品について習得します。具体的には、債券や株式、投資信託、デリバティブなどの様々な金融商品の特性や、それらが取引される市場について学んでいきます。

最後に、投資におけるリスクや分散投資の効果等のファイナンスの基礎的な理論についても扱います。

ー「金融論」の授業は、大体どの年次の学生が受けるものなんでしょうか?

近藤教授
「金融論」は、基本的には2年生向けの授業ですが、経済学部生であれば、誰でも受講できます。基礎的な総論科目なので、2年生のうちに受けてもらうのが理想なのですが、現実的には、単位が不足している等の理由からか、4年生になって初めて受講する学生もいます。

ー学生たちが「金融論」に苦手意識を持つ原因は何だと思いますか?

近藤教授
「金融論」は、金融全体の基礎をカバーする入門科目です。私たちの願いは、学生がこの授業で基本を理解し、「金融システム論」や「金融政策論」のような各論科目に進むことです。

残念ながら、金融に対して苦手意識を持つ学生も少なからず存在しており、皆が皆、金融を学ぶことに積極的であるわけではありません。金融業界に進むつもりがなければ、必要性の薄い科目であるという誤解をしている学生もいるようです。

ー「金融」と聞くと、計算や数学が必要だと思って敬遠してしまう学生が多いのでしょうか?

近藤教授
たしかに、金融は、ある程度の数字や数学を使います。それが難しそうだと感じる学生は一定数いるようですね。

経済学の他の理論系、政策系の科目についても同様のことが言えますが、学部レベルで扱う数学はさほど高度なものではなく、きちんと学びさえすれば、十分に理解できますので、過度な心配は無用です。私自身も、数学に苦手意識を持つ学生に配慮しながら教えることを心がけています。

今の時代、すべての人がある程度の金融リテラシーを持つべき

ー今の時代、個人が自分の資産を管理しなければならない状況です。「金融論」はお金の流れを理解する上で非常に役立つと思いますが、どう思われますか?

近藤教授
その通りです。現行の年金制度がこのままの形で継続されるかは不透明であり、個人が資産形成に取り組む必要があります。そのためには、金融リテラシーが不可欠です。

私は、今の時代には、すべての人がある程度の金融リテラシーを持つべきだと考えています。

ー高校生や大学生の間に身につけておくべき金融の知識は何でしょうか?

近藤教授
まず、貯蓄を増やすためには、収入と支出をコントロールする必要があります。いかにして収入を増やし、いかにして無駄な支出を減らしていくかを考えることです。これが貯蓄や資産形成の基本になります。

また、資産形成のためには、インフレーションの影響を理解しなければなりません。銀行の預金や国債のような安全資産であっても、インフレーションによって実質的な資産価値が目減りすることを知っておくべきです。

さらに、各種の金融商品についての知識も必要です。それぞれの金融商品が持つ性質やリスクについて理解し、ハイリスクな商品に投資する際は、相応のリスクを受け入れることが求められることを知らなければなりません。

リスクを抑えるためには、投資信託などを使ってリスクを分散させることが有効です。ポートフォリオを組む際は、各自の経済状況や年齢等を考慮したリスク許容度に応じて、安全資産とリスク資産のバランスをとる必要があります。

投資で得るキャピタルゲインやインカムゲインは、通常課税されますが、NISAやiDeCoといった、国が用意した税制優遇措置があることも是非知っておきたいところです。

ー大学生などに実践的な金融の知識を身につけさせるためのアプローチはありますか?
また、学生に金融が自分の人生に役立つという実感を持たせるにはどうすればよいでしょうか?

近藤教授
私は、今のところ自身の教育には取り入れていませんが、学生たちが株式投資ゲームを通じてバーチャル投資を経験することで、学んだ知識を実践的に活用する機会を与えることができるでしょう。

さらに、新聞を読む習慣が身に付けば、学んだ概念や理論を使って、金融市場や経済の動きをフォローすることができるという喜びを感じられるようになります。

こうした実体験を通じて、学生たちは、学んだ知識を自分の生活や将来に役立てられることを実感することができ、それが学習意欲の向上につながるものと考えます。

ー先生の授業では、日常生活とのつながりを見せる工夫はどうされているのでしょうか?
また、金融をより身近に感じられるような教え方や活動があれば教えていただけますか?

近藤教授
私の授業では、机上で学ぶ金融と日常生活とを結びつける工夫をしています。

ゼミナールでは、新聞記事の内容を他人が理解できるように発表させています。新聞記事は、現実の金融の動向を把握するための有力なツールです。それについてディスカッションすることで、現実の金融の動きに関する理解が深まるとともに、その今後のあり方についても考察することができるようになります。

また、講義では、具体的なデータを示すことで、金融を身近に感じてもらうように努めています。例えば、「直接金融と間接金融」を説明する際には、日本人の資産運用手段が欧米人のそれに比べ、いかに預貯金に偏っているかを示すデータを用いています。

これらのアプローチを通じて、学生たちが金融を自分たちの生活と関連づけて学ぶことができると思っています。

ー高校のカリキュラムに金融教育が加わったことで、今後、金融関連科目を積極的に選択する学生が増えると思いますか?

近藤教授
その可能性はありますね。より早期から金融教育を受けることで、金融を身近に感じるとともに、その必要性を認識する学生が増えるかもしれません。

その結果、高校で金融教育を(あまり)受けてこなかった学生と比較して、大学でより広くかつ深く学ぼうとする学生が増えるかもしれません。

ー金融教育は早くから取り組むほど効果的とよく言われますが、先生はその見解をどうお考えですか?

近藤教授
はい、その考え方に私も同意します。欧米では、金融教育が早期から実施されています。

日本におけるリスク資産への投資は、欧米に比べて消極的です。これには、いくつかの要因が考えられますが、その一つとして、日本の金融教育が欧米に比べて遅れていることがあるのではないでしょうか。

リスク資産の性質をよく理解した上で、あえて投資をしないという選択をするのは尊重されるべきです。しかし、よく分からないから投資をしない人がいるとすれば、それを放置しておくのは望ましくありません。

ですから、早い段階から金融教育に取り組むことは、有意味であると思います。

ー日本において金融教育があまり注目されない理由について、お教えいただけますか?

近藤教授
金融教育が(欧米に比して)日本であまり注目されてこなかった理由には、いくつかのものが考えられますが、とりわけ日本人の国民性が関係しているのではないかと個人的には思っています。

日本の社会では、安全や安定性を重視し、リスクを避ける傾向が多々あるように感じます。そのため、リスクを伴う金融取引や投資に対しても、消極的な姿勢をとる人が多いのではないかと推測します。このような社会的傾向が金融教育への関心を低いままにさせる要因になっていたと私は考えます。

最近では、金融教育の重要性が認識されつつあり、政府、教育機関、金融機関、金融機関の業界団体などが以前よりも積極的に取り組んでいます。金融教育の普及と啓発活動の強化によって、より多くの人々に金融の基礎知識やスキルを身につける機会が与えられるようになることを期待しています。

現代を金融市場を生き抜くために学習機会の増加が必要

ー大学において、個人の資産を個人で管理する時代に生き抜くための学生を育てるためには、どのような取り組みが有効でしょうか?

近藤教授
大学において、個人の資産管理や将来への備えをサポートするような教育を行うことが考えられますが、実際に実施する際には課題もあります。

特に金融教育カリキュラムの提供についてです。一般に、社会科学系の学部では、金融に関する講義が設けられていますが、他の学部では、金融に触れる機会が限られています。学習機会を増やすために、他学部聴講などの学部間の連携をより強化するといった方策が考えられます。

また、実践的な学びや経験を促進する取り組みも有効でしょう。学内での模擬投資、金融機関や企業との連携によるインターンシップ、実務家をゲスト講師として招く寄付講座など、実際の金融や金融業界の現場に触れる機会を通じて、学生たちは、実践的なスキルや知識を身につけることができるでしょう。

ー学生の意識も大切な要素ですね。大学において、学生が金融教育に積極的に取り組むよう促すためには、どのような取り組みが有効だとお考えですか?

近藤教授
そうです、学生の意識も非常に重要です。

前述したように、経済学部のような社会科学系学部では、金融を学ぶための体系的なカリキュラムが用意されているのにも関わらず、それを積極的に活用しない学生も見受けられます。高校の段階から金融教育を受け、より早期から金融に関心を向けることを通じて、学生の意識や取り組みが変わることを期待しています。

ー大学のホームページを拝見しました。先生のメッセージには、「大学で金融を学ぶ際には、地域や日本の経済を活性化させるためのお金の流れや、広い視野を持つことが必要になります。金融は刻々と動いていますので、現実と関連付けながら学ぶことを心がけてください」とありました。このメッセージについて、お聞かせいただければと思います。

近藤教授
このメッセージは、金融を学ぶ際に大切だと思うポイントを示しています。

金融は、理論や数字だけではありません。個人の資産形成や投資が経済全体に与える影響は大きいです。分かりやすく言い換えれば、個人の資産形成は、経済活動を支える役割を果たしているのです。例えば、株式への投資は、株式会社へ資金を提供することにつながりますし、銀行への預金は、中小企業への融資に活用されます。

そのため、金融を学ぶ際には、個人の資産形成のみに目を向けるのでなく、それが経済活動を支えるためのお金の流れにつながっていること(企業や政府の経済活動を支援することにつながっていること)を把握することも重要です。

また、最近メディアを通じてよく報じられていますが、金融政策の動向も資産形成に多大な影響を及ぼします。金利の調節等の金融政策の方針が市場や相場にどのような影響を及ぼすかを理解し、それを自身の資産形成に活かす必要があります。

金融政策というと、自分とは無関係な遠いところで行われていることだと考える人がいるかもしれません。しかし、金融政策の動向を把握することで、自身の資産形成を効果的に行うことができるようになるのです。

お金は、しばしば経済を循環する血液に例えられますが、それが日本や地域の経済活動、ひいては経済水準にどのような影響を及ぼし得るのか、それがマーケットにどのような影響を及ぼし得るのかといった、広い視野を持つことが求められます。

大学におけるこうした広い視野を持った学びが個人の資産形成のパフォーマンスにもつながってくるものと信じています。

ーありがとうございます。とても素敵なメッセージだと思います。本日は貴重なお時間をいただきまして、誠にありがとうございました。