この記事は2023年5月26日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「需要回復で原油先物は持ち直し、金先物は高値一服の様相も」を一部編集し、転載したものです。
WTI原油先物価格は足元で1バレル=70ドル前後で推移しており、世界景気の減速懸念や需給の緩みから弱含みに転じた。具体的には、中国の需要回復が市場予想より鈍いと想定されたため、サウジアラビアが6月のアジア向け原油小売価格を小幅に引き下げたことや、安価なロシア産原油が輸出拡大し、中国やインドに出回っていることなどが、弱含みに転じた理由に挙げられよう。さらに、米国の金融引き締めが長期化するという観測もくすぶっており、市場はややリスク性資産に対して慎重な姿勢になった。足元では米原油在庫も増加している。
ただ、原油価格の下値は固そうだ。3月の欧米銀行の経営危機の際には、原油価格が一時70ドルを割ったが、その後は石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国によるOPECプラスの追加減産発表によって反発。5月からOPECプラスは日量115万バレルの減産を行っており、引き続き価格を下支えするとみられる。
加えて、米備蓄補充計画も価格を下支えするだろう。米エネルギー省(DOE)は、8月受け渡し分の原油(300万バレル)を戦略備蓄の補充に充てると発表した。米国の戦略備蓄は2022年の備蓄放出の結果、約40年ぶりの低水準となった。DOEは23年後半もエネルギー安全保障のために備蓄を補充する予定だ。
これらを受けて国際エネルギー機関(IEA)は、23年の世界の需要を200万バレル増の日量1億190万バレルへと上方修正した。今後はアジアを中心とした需要拡大から、原油価格は持ち直す可能性が高い。ただし、OPECプラスによって供給が絞られるなか、想定外の供給障害や天候不順等により原油価格が振れやすくなる可能性には留意したい。以上から、23年のWTI原油先物価格は1バレル=65~90ドルと予想する。
もう一つ、先物の動向で注視したいのが「金」の価格だ。ニューヨーク(NY)金先物価格は、5月初旬に1トロイオンス=2,050ドル台と最高値圏に接近した。上昇の背景には、23年中の米利上げ停止観測の高まり、米欧銀行の経営不安、米債務上限問題、ドル離れによる新興国を中心とした中央銀行の需要増などがある。
他方、金の実需要は弱く、主要な消費国となる中国やインドの需要は伸び悩んでいる。投資需要の面では、金ETFの残高は足元で小幅に増加したものの、比較的低水準にとどまっている。5月3週目には、米債務上限問題に対する懸念がいったん後退したことから、金価格は高値一服の様相も見せている。
今後、米国の金融政策が政策金利の据え置き局面に入れば、24年にかけて米利下げ観測の高まりとともに金価格の下値を支えよう。以上から、23年の金価格の予想レンジを1トロイオンス=1,750~2,100ドルと想定する。
みずほ証券 マーケットストラテジスト/中島 三養子
週刊金融財政事情 2023年5月30日号