この記事は2023年5月26日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「政府債務残高に見る「超低成長国日本」」を一部編集し、転載したものです。


政府債務残高に見る「超低成長国日本」
(画像=Xilon/stock.adobe.com)

(IMF「世界経済見通し」)

2002年における日本政府の債務残高のGDP比は157%と、人口100万人以上の先進国32カ国の中で圧倒的な1位だった(平均53%)。では、直近の22年はどうだろうか。結果は、総債務残高GDP比が261%まで膨張し、引き続きダントツの1位となっている(平均79%)。

図表の横軸は、22年まで20年間の同比率の増加幅を表している。日本の増加幅は107%ポイントで32カ国中最大だ。図表の縦軸は、22年までの20年間の「累積実質経済成長率」を示している。日本はこれほどまでに政府債務を拡大し財政支出を増やしてきたにもかかわらず、経済成長率は最低グループにいる。

高齢化に伴う社会保障関連支出の拡大が債務増大の主因とはいえ、コロナ禍対策にも見られたように、日本は他国より安易に歳出膨張に走る傾向がある。日本銀行が長期的な超低金利環境を生み出した結果、「将来世代に迷惑をかけないためにも財政資金は効率的に使わなければならない」という意識が一層希薄となった。

図表上に示している点線は近似曲線で、右肩下がりになっている。これは因果関係というよりも、民間の成長の力を引き出すことができていない国ほど財政のバラマキに依存しがちと解釈することができる。イスラエルやスウェーデンなどの7カ国は、政府債務のGDP比がこの20年間で縮小したにもかかわらず、日本よりも経済成長率が高い。こうした国々では「誰かが政府債務をなんとかしてくれる」という甘えが国民間で生じにくく、限られた財政資金をいかにして民間企業の生産性向上につなげるかという意識が強い。

逆に日本では「どこまで政府債務を増やすことが可能か」といった議論が好まれやすい。しかし、高齢化・人口減少といった財政にとって非常に厳しい状況が続くなか、次のパンデミックや巨大自然災害、台湾有事が起こった際の財政支出の急拡大の必要性を考慮すると、財政に拡大余地を確保しておくことは国家の長期的運営において重要だ。

米国のマイケル・マレン元統合参謀本部議長は、16年5月に次のような超党派の声明文を発表した。「国の長期的な債務は、国家の安全保障に対する最大の脅威になるとわれわれは信じている。債務は、強力な軍隊や有効な外交に必要な資金調達に不可避的に制約をもたらし、経済成長につながる重要な投資や、国際社会でリーダー的役割を務める上で大事な資源を奪いさる」。こうした危機意識の共有がわが国にも欠かせない。

政府債務残高に見る「超低成長国日本」
(画像=きんざいOnline)

東短リサーチ 社長 兼 チーフエコノミスト/加藤 出
週刊金融財政事情 2023年5月30日号