この記事は2023年4月4日に「第一生命経済研究所」で公開された「2回目の為替介入、次のタイミングを占う」を一部編集し、転載したものです。
目次
23年度は増収減益計画に
4月3日と4日に公表された3月短観の大企業調査は、2月25日~3月31日にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、同調査を用いて、4月下旬から本格化する年度決算発表で今年度計画の回復が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、3月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、23年度は下期にかけてプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも増収計画となっている。
一方、経常利益を見ると22年度下期は前回から上方修正となったものの、23年度は減益計画になっている。このことから、企業は決算発表で23年度の企業業績見通しを慎重に出してくることが予想される。
つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で縮小するものの増収を維持する一方、経常利益については今年度減益計画に転じる姿となっているということである。
ただ業種別にみると、23年度下期の経常利益計画は非製造業が減益幅を広げる一方、製造業は増益に転じる計画となっている。22年度下期以降は半導体や機械サイクルが下降局面に入ったことで製造業が減益計画となっていることからすれば、23年度下期には景気循環的に上向く見方が製造業の増益計画の後ろ盾になっている可能性がある。
大幅増収計画の「宿泊・飲食サービス」「はん用機械」「対個人サービス」
続いて、3月短観の売上高計画を基に、大幅増収が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は22・23年度の業種別売上高計画の前年比をまとめたものである。
結果を見ると、23年度も多くの業種で増収計画となる中で、最大の増収率となっているのが「宿泊・飲食サービス」で+4.4%である。それに続くのが「はん用機械」の同+4.1%、「対個人サービス」で同+3.4%である。
まず、「宿泊・飲食サービス」や「対個人サービス」については、今期は新型コロナに対する指定感染症の見直しや全国旅行支援策、インバウンド増加等が期待されており、移動や接触を伴う経済活動が正常化に向かうことが想定されている可能性がある。
一方、「はん用機械」を詳細に見ると、ポンプ・圧縮機械、ボイラ・原動機、一般産業用機械・装置、等の製造業になる。このため、中国経済の回復や移動や接触を伴う経済活動正常化等による人手不足等により、企業の設備投資需要が拡大していることが影響していることが短観の設備投資計画からも推察される。
従って、23年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。
大幅増益計画は「宿泊・飲食サービス」「その他輸送用機械」「紙・パルプ」
続いて、3月短観の経常利益計画から大幅増益が期待される業種を見通してみよう(資料3)。結果を見ると、増益率が最も大きいのは新型コロナに対する指定感染症見直しや全国旅行支援策、インバウンド増加等による経済正常化を期待する「宿泊・飲食サービス」の+20.8%となる。なお、「対個人サービス」や人材派遣業を含む「対事業所サービス」も同様の理由で増益計画となっていると推察される。
それに続くのが、中国経済の回復や半導体等の部品不足緩和が期待される自動車以外の「その他輸送用機械」の+8.5%となる。なお、それに続く「紙・パルプ」については、増収率が控えめな計画であることから、原材料価格の低下が寄与している可能性がある。
このように、今期の経常利益見通しで増益が期待される業種としては、新型コロナに対する指定感染症の見直しや全国旅行支援策、インバウンド増加等よる経済正常化期待の恩恵を受けることが期待されるサービス関連産業に加えて、原材料コスト低下の恩恵を受ける素材業種、造船・重機、その他輸送用機械をはじめとした中国経済の回復や半導体不足解消期待を受けた加工業種等が指摘できる。
為替レートの変動で業績が修正される可能性も
なお、3月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。
資料4にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で132.1円/㌦、ユーロ円で137.7円/€となっている。
中でも、足元のドル円レートよりも特に円高で今年度の為替レートを想定しているのが「物品賃貸」や「宿泊・飲食サービス」「対事業所サービス」といった為替の影響がそこまで大きくない非製造業となっている。
一方、足元のドル円レートよりも特に円安で今年度の為替レートを想定しているのが「小売」「紙パルプ」「食料品」といった原材料料価格の上昇等により円安が逆風となりやすい業種であることからすれば慎重な想定レートといえよう
ただ、特に輸出関連の製造業が130円/㌦台と円安気味の想定をしていることに注目すべきだろう。というのも、今後はこれまでの金融引き締めの影響が顕在化し、インフレ率の減速や雇用環境の悪化、更には各国の政治動向等に伴うリスクオフを通じて、各国中銀がこれまでよりも金融引き締めに後ろ向きな姿勢を示す等して為替レートの水準が更に円高方向に進めば、こうした今年度の為替レートを円安気味に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が下方修正される可能性があることには注目すべきだろう。