この記事は2023年7月4日に「第一生命経済研究所」で公開された「6月短観から見た23年度業績見通し」を一部編集し、転載したものです。


1.8% 日本銀行が4月に発表した23年度物価見通し
(画像=Ava/stock.adobe.com)

目次

  1. 上方修正も増収減益計画は変わらず
  2. 売上高大幅上方修正の「対事業所サービス」「紙・パルプ」「不動産」
  3. 経常利益大幅上方修正期待は「紙パルプ」「自動車」「サービス」
  4. 為替レートの変動で業績が修正される可能性も

上方修正も増収減益計画は変わらず

7月3~4日にかけて公表された6月短観の大企業調査は、5月下旬~6月下旬にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて、7月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、6月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、23年度は下期にかけてプラス幅が縮小するものの、上期・下期とも上方修正となっている。

一方、経常利益を見ると22年度は前回から大幅上方修正となった分、伸び率だけを見れば23年度は上期を中心に大幅下方修正になっている。しかし、23年度下期の修正率に着目すれば、加工組み立て型製造業と非製造業を中心に2桁の上方修正となっている。

このことから、企業は四半期決算発表で23年度の企業業績見通しを上期中心に慎重に出してくることが予想される。

第一生命経済研究所
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つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で上方修正される一方、経常利益については上期下方修正の一方で下期は上方修正になっているということである。特に、年度明け以降は電子部品デバイスのみならず、鉱工業全体の出荷在庫バランス(出荷前年比―在庫前年比)のマイナス幅が縮小しており、製造業の在庫循環的に最悪期を脱しつつあることから、景気循環的に期待される状況にあることも下期上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。

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売上高大幅上方修正の「対事業所サービス」「紙・パルプ」「不動産」

続いて、6月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は22年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

結果を見ると、22年度は「電気・ガス」「鉱・採石・砂利採取業」「石油・石炭製品」「非鉄金属」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「対事業所サービス」で+10.4%である。それに続くのが「紙・パルプ」の同+5.2%、「不動産」で同+4.6%である。

まず、「対事業所向けサービス」については、職業紹介・労働者派遣事業が含まれていることから、ここ元の人手不足や賃上げ等に伴い労働市場の流動性が高まっていること等により、売上高が上方修正された可能性が推察される。一方、「紙・パルプ」や「繊維」などでは、これまでのコスト増の価格転嫁が遅れて反映されたことが推察される。他方、「不動産」では、4月に執行部が交代した日銀が当初の想定以上にハト派なスタンスとなったため、早期の金融政策の出口観測が後退したことが想定されている可能性が示唆される。

従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

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経常利益大幅上方修正期待は「紙パルプ」「自動車」「サービス」

続いて、6月短観の経常利益計画から大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは「紙・パルプ」となっている。これは、木材や原油など輸入原材料価格の低下が大きく寄与していることが推察される。

それに続くのが「自動車」である。背景には、半導体不足の緩和に伴う世界的なペントアップディマンドの顕在化が期待されていることが推察される。

それに続くのが「卸売」だが、大企業の卸売りは主に商社が含まれるため、一部企業の資産売却益が反映された可能性が推察される。

なお、新型コロナに対する国民の恐怖心低下や経済正常化が期待される「対個人サービス」や「宿泊・飲食サービス」もそれに続く上方修正となっている。

このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、輸入原材料価格の低下に伴うコスト減が期待される素材産業に加え、半導体不足緩和に伴う加工業種、新型コロナに対する国民の恐怖心低下や経済正常化期待の恩恵を受けることが期待されるサービス関連産業等が指摘できる。

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為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、6月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料5にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で131.6円/$、ユーロ円で139.2円/€となっている。しかし、足元のドル円レートは140円台を大きく突破している。

中でも、足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが「輸送用機械」「物品賃貸」「対事業所サービス」「宿泊飲食サービス」となっている。

なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれており注意が必要だが、最も円安の恩恵を受けやすい業種の一つとされる「輸送用機械」が120円/$台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後はロシアのウクライナ侵攻の動向や欧米の景気後退懸念などに伴うリスクオフを通じて、各国中銀がこれまでよりも金融引き締めに後ろ向きな姿勢を示す等して為替レートの水準が円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

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第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣