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(画像=株式会社エイシング)
出澤 純一(いでさわ じゅんいち)
株式会社エイシング代表取締役CEO
2004年早稲田大学在学中に早稲田大学主催の第一回ワセダベンチャーゲートビジネスコンテストで最優秀賞を受賞し、2007年に早稲田大学発ベンチャーとして株式会社ひらめきを起業。総合卸売、プラズマ医療機器研究開発、人工知能理論研究開発を展開し、2016年12月に株式会社ひらめきから人工知能理論研究開発事業をスピンアウトし、株式会社エイシングを設立、代表取締役CEOに就任。日本総合研究所主催「未来2017」日本総研賞、「起業家万博2018」総務大臣賞、「大学発ベンチャー表彰2018」経済産業大臣賞などを受賞。
株式会社エイシング
2016年に設立された大学発AIベンチャー企業。 自社で独自に開発したAIアルゴリズムであるAiiRシリーズは、Deep Learningのような既存のAIアルゴリズムでは不可能だった、エッジでの学習や調整のいらない逐次学習を可能とした事で、数多くのスタートアップアワードを受賞した。累計調達額約9億円、経済産業省よりユニコーン企業(時価総額1,000億円以上の未上場企業)候補92社に選出され、国内・国外の大手企業様とのアライアンス締結を進めている。

これまでの事業変遷について

ーそれでは、起業に至る経緯について教えていただけますでしょうか。

はい、私は学生起業をして、2007年というAI冬の時代にAI事業を想定した株式会社ひらめきを創業しました。当時はソフトウェア開発や化粧品や日用雑貨の卸売などを行っていました。化粧品や日用雑貨をドラッグストアやディスカウントストアに卸売りしたり、ネットでショップを持ってそれを売ったりしていました。

それなりに売上は立ったのですが、何より大学院で培った理系分野の知見を活用できていないことにジレンマを感じていました。それから、事業が軌道に乗って利益も出るようになったので、自分の興味のある分野に少しずつシフトしていこうと思いました。ただ、当時はまだAIのブームが来ていなかったので、AI事業の準備はしつつも、卸売事業の拡大と医療機器やアトピー性皮膚炎の医療機器の研究開発を行っていました。

その後、ようやくAIブームが意図せずに成長し始め、これに乗らない手はないと思い、準備していたAI事業を再度推進し直しました。これが、現在の機械制御系のAI事業に至った経緯です。

ー学生で起業し、かつ自分がやりたいことにシフトするのは素晴らしいですね。エイシング社の創業から現在までの経緯についてはいかがでしょうか?

はい、創業は2016年に赤坂のワンルームマンションから始まり、今では30人以上の社員を擁するまでに成長しました。

私たちはディープテックの会社で、私たちのAIの独自技術がどのように機能するのか、手探りの中、仮説を立てては検証し、その結果を元にさらに新たな仮説を立てるという作業を繰り返してきました。

2016年ごろ、AIベンチャーが多数創業していたのですが、我々は独自のAI技術を有していることが違いでした。他社は受託やコンサルティングで大型の予算を獲得していましたが、我々は独自のAI技術を保有していたため、もちろん受託での開発支援も行うのですが、ライセンス提供などいわゆる労働集約型にならない方法で価値提供を行ってきました。無理に人数を増やして売り上げを上げるということを追求はせず、自分たちの成長戦略を探り続けてきました。

結果として、オムロン社を始めとした大手企業へのライセンス提供を行うまで成長することができました。

ここまで成長できたエイシングの強みとは

ーなるほど、それは素晴らしいですね。そんな御社の強みはなんでしょうか?

我々の強みは、機械制御とAIと組込み実装の複合領域での研究開発が強いことです。AI領域では情報工学の出身の方が多い中で、私自身はロボット工学という機械工学面とAI両面でのバックグラウンドを有しています。この複合力により、我々はお客様の領域に寄り添い、AIの知識とお客様の知識をつなげるサポートを提供しています。例えば、工場のラインでAIを導入したい場合、既存のシステムを全てAIに置き換えるという安易な方法ではなく、安全性を保証しながら、既存のシステムを生かしつつAIを追加の機能として使う方法などを提案します。これが我々のノウハウであり、このノウハウをお客様に惜しみなく提供しています。

さらに、我々の研究開発力による独自の技術があるのでライセンス提供がゴールとなります。したがってお客様の内製化を支援し、ライセンスもしくはソリューションという形で提供することで、お客様に満足していただいております。それが当社の強みです。

ー一言で研究開発と言っても、複合領域での技術力が最大の強みなのですね。

はい、その通りです。独自AIの研究開発力、機械への適応力、そして組み込みの実装力の三つが当社の強みで、特にそれらが重なり合う領域が最大の強みです。 また、この三つの技術が重なり合う領域を実現できる企業は世界的にも少なく、国内外の大手企業からの依頼が多く、技術優位性をご評価いただき経済産業省の「J-Startup」の第1期生にも選出されています。

ー具体的にどのようなことができるのでしょうか?

オムロン社の事例で言うと、既存の機械制御では不良品発生区間が約10秒だったところを、当社のAIを制御システムに組み込むことで、90%オフの約1秒以下に削減することに成功しました。他にもJR東日本社と異常検知に対する取り組みなど、製造業のお客様に幅広く対応しています。

また、世界的に有名でシェアも高いマイコンベンダー各社ともパートナーシップを結び、先日もAI・人工知能EXPOに共同出展させていただきました。これは当社の技術領域が広く、マイコンで動く制御AIとしてはほぼ独占状態であることに起因しています。実際に創業以来特許を約二十数件取得しており、さらに一度も特許化できなかったことはありません。これだけ特許を取得できるということは、我々にしかできない部分があるというエビデンスだと考えています。

今感心がある分野やトピックとは

ー続けて、出澤代表の現在一番関心のあるトピックについて教えていただけますでしょうか。

核融合と宇宙です。この二つのトピックについては創業当初から、仕組みが複雑で予想外の事態に対応できないという技術課題があり、AIで制御する必要性があるという仮説をたて、創業前後から核融合と宇宙というテーマに対して当社でできることはないか準備をしてきました。当社の場合は安価なマイコンに実装できるだけでなく、マイコン上でリアルタイムに1データ毎に学習し続ける技術を有しており、この技術は世界的にも稀で特許の源泉にもなっている技術領域です。特に宇宙領域に関しては、個人的に当社で貢献できる領域を常に考えていて、内閣府が主催する宇宙をテーマとしたビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2022」で「HONDA R&D賞」を受賞し、当社技術が宇宙領域においても有効であるとご評価いただきました。

ー核融合と宇宙の複雑な仕組みと予想外の事態に対してでも現代技術と特許を取得して何か貢献できる事はないかと考えて真剣に取り組まれている姿勢はとても素晴らしいですね。次に、思い描いている未来構想について教えていただけますでしょうか。

はい、当社の複合領域での技術力や国内外含む大手企業とのパートナーシップなどの強みを活かしながらインフラやエネルギー系、モビリティ、そして先ほども述べた核融合と宇宙などあらゆる領域でデバイスとAIを掛け合わせたトータルAIソリューションカンパニーを目指しています。

我々は独自技術に固執するわけではなく、お客様の課題を解決することを第一に考え、当社のノウハウなどの総合力で解決策を提供することに注力しています。そのような取り組みを通じて、世の中の大きな技術課題に対して持続的にソリューションを供給し、ビジネスを世界的に展開していきたいと考えています。

ーそのために、現在どのような活動を行っていらっしゃいますか?

直近(2023年4月25日)にプレスリリースを発表したのですが、ディープラーニングソリューション「AiirDNN」の開発とリリースをしました。これまで、我々は非ディープラーニング系の技術に強みをおいていましたが、裏でディープラーニングの研究開発及びリリースの準備も進めていました。具体的には、マイコンにも搭載可能なディープラーニングで、全てに完全に対応するわけではありませんが、我々のソリューションを通じて、精度を保ちつつ、小さく、省電力で早く動くようになるだけでなく、ハードウェアコストも大幅に抑えられるというものです。

ー実際に、どのようなお客様とどのようなプロセスで進めているのでしょうか?

自動車メーカーや半導体メーカーなどかなり広い業界、業種の大手企業を始めとしたお客様と一緒に進めています。我々が行っているのは、人材育成の支援からコンサルテーション、課題特定、要件定義、運用、データの処理方法、AIの必要性の判断まで幅広いサポートです。我々はあくまでライセンス提供を目的とし、課題毎にAIがそもそも必要なのか、分析の結果として既存技術で対応可能ではないかなど理路整然としたアドバイスを提供し、プロジェクトの方向修正を行います。その結果、我々の意見がセカンドオピニオンとして受け入れられたり、メインでコンサルを受ける場合もあります。

個人的には、AIを実装したり使える人は世間には少なく、AIをどの案件にどのように入れ込むかという上流の設計ができる人がいないと感じています。しかし、我々はそこに大きな知見を持っていますし、そのため、我々がそういったサポートを行わないと、社会全体としてAIの実装やDXの推進は進まないと考えています。それが我々の使命だと考えています。

ーなるほど、素晴らしいですね。今回のインタビューで、あらゆる経験によって誰にも持つことができない複合的な強みを持ち、圧倒的な独自技術を確立し続けている御社にとても感銘を受けました。ありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。

氏名
出澤 純一(いでさわ じゅんいち)
会社名
株式会社エイシング
役職
代表取締役CEO