この記事は2023年9月22日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「前年比減少に転じた中国向け水産物輸出」を一部編集し、転載したものです。


前年比減少に転じた中国向け水産物輸出
(画像=Anoo/stock.adobe.com)

(農林水産省「農林水産物輸出入情報」)

農林水産省が9月5日に発表した7月の「農林水産物輸出入情報」の公表値から算出すると、7月の中国向け水産物の輸出額は77億円で、前年同月比で23.0%の減少に転じた(図表)。

7月において、水産物の世界全体への輸出額は336億7,000万円で前年同月比マイナス2.5%となり、1月のマイナス3.4%以来6カ月ぶりの減少だった。1~7月の輸出額が3位だった米国への輸出は伸びたものの、2位の中国や1位の香港への輸出は減った。

例えば、ホタテ貝の世界全体への輸出額は、7月が59億6,000万円と前年同月比マイナス28.0%だった。その要因として、ホタテ貝の最大輸出国である中国向けの輸出がマイナス39.5%と大きく落ち込んだことが挙げられる。

2022年の日本の水産物輸出先ランキング1位は中国。同年の世界全体への輸出額は3,873億円だが、このうち22.5%に当たる871億円が中国向けとなっている。

日本政府が福島第一原子力発電所の処理水について海洋放出の方針を示したことで、中国は7月から日本からの水産物の放射性物質の検査について、サンプル検査から全品検査に切り替えた。検査に時間がかかると水産物の鮮度が落ちるため、中国への輸出が減少する要因になった。

さらに8月24日から処理水放出が始まったことを受け、中国は日本の水産物を全面的に禁輸とした。このため、9月以降は日本からの輸出がゼロになる恐れがある。中国には科学的根拠に基づく処理水の安全性を理解し、禁輸を解除してほしいところだ。

中国向けの輸出がゼロになったと仮定し、国内消費の伸びでカバーするとしたら、どのくらい消費が必要か。あくまで単純計算だが、中国向け水産物の年間輸出額を日本人の総人口で割れば、1人当たり720円程度になる。従って、日本人が年間で少し多く水産物を食べればカバーできる範囲だといえる。

景気ウォッチャー調査の「中国」関連・先行き判断DIは、23年1月から7月まで61.3~82.1の高水準で推移した。22年には、10月の60.0と12月の54.4を除く10カ月で景気判断の分岐点である「50」割れだったが、23年に入って中国のインバウンド需要に対する期待からDIは改善基調にあった。

しかし、23年7月は前月から11.1ポイント低下し67.0に低下。8月に至っては10.3ポイント低下の56.7と今年最低を記録した。不動産不況など中国景気の先行きへの懸念に加え、中国による日本の水産物全面禁輸などの影響が出たようだ。

前年比減少に転じた中国向け水産物輸出
(画像=きんざいOnline)

景気探検家・エコノミスト/宅森 昭吉
週刊金融財政事情 2023年9月26日号