この記事は2023年9月22日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「革新的なスタジアム・アリーナの開発によるまちづくり」を一部編集し、転載したものです。


革新的なスタジアム・アリーナの開発によるまちづくり
(画像=Kaleb/stock.adobe.com)

今年3月、北海道北広島市に「北海道日本ハムファイターズ」の新球場「エスコンフィールド北海道」がオープンした。スタジアムは球団運営会社等が出資する企業が開発する約32ヘクタールの「北海道ボールパークFビレッジ」の一角にあり、周辺にはホテルやレジデンス、グランピングなどの施設が配置され、スタジアムを核としたまちづくりが民間主導の官民連携で進められている。新球場建設地に北広島市が内定したのは2018年3月だが、それ以降、同市の地価は上昇を続けている(図表)。

長崎市では「長崎スタジアムシティプロジェクト」として、造船所跡地に約2万席の観客席を有するサッカーJリーグ「Ⅴ・ファーレン長崎」の新たなホームスタジアムと、約6,000席のバスケットボールBリーグ「長崎ヴェルカ」のホームアリーナ、さらにオフィスや商業施設、ホテルなどが24年に開業する予定だ。事業主体はジャパネットホールディングスとそのグループ企業で、両プロチームも同傘下にある。

千葉県船橋市では、三井不動産とミクシィが収容1万人規模の多目的アリーナを建設中である。Bリーグの「千葉ジェッツふなばし」がホームアリーナとして利用するほか、音楽コンサートやスポーツイベント、企業の展示会などに対応可能な施設として、24年春の開業を目指す。既存の大規模ショッピングセンターに隣接しているため、イベント前後に買い物や食事を楽しむこともでき、スポーツ・エンターテインメントを軸にした活気あるまちづくりに貢献できよう。

こうした近年の民間企業主導のプロジェクトでは、ゲームやイベントがない日でも、周辺施設も含めた一体的なスポーツ・エンターテインメント空間の創出によって賑わいを創出(事業性を確保)する取り組みが見られる。これまでのスタジアム・アリーナは主として行政主体で整備が行われてきたが、事業費や維持費などの面で運営が難航するケースも少なくなかった。しかし現在は、指定管理者制度を採用したり、設計段階で運営事業者を参加させたりするなど、より運営を重視する姿勢が見られる。

スポーツ庁は、スポーツの成長産業化としてスポーツ市場を25年までに15兆円に拡大する目標を掲げており、その基盤となる「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」を20拠点選定するなど、民間参入を促進している。民間によるスタジアム・アリーナ事業は市場性や複合開発を考慮すると大都市圏が中心になるとみられるが、北広島市の事例のように、スタジアム・アリーナの建設によって新規開発の誘発や地価に好影響を与えるケースは今後も広がりそうだ。

革新的なスタジアム・アリーナの開発によるまちづくり
(画像=きんざいOnline)

都市未来総合研究所 主席研究員/下向井 邦博
週刊金融財政事情 2023年9月26日号