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(画像=circus株式会社)
矢部 貴志(やべ たかし)
circus株式会社代表取締役
慶應義塾大学を卒業後、株式会社キャリアデザインセンターに入社。転職サイト・人材紹介・人事代行サービス等の企画・営業・運用など人材サービスにおけるビジネスサイドに広く携わる。人材業界で働く人の理想と現実のギャップを肌で感じ、業界自体の根本課題を解決するべく、2017年にcircusを創業。人材領域において“後悔のない意思決定をあたりまえに”することを目指す。
circus株式会社
2017年に創業。「ともに、HRに正解を」をミッションとし、BtoBプラットフォーム事業を中心に人材業界のビジネスインフラを創るスタートアップ。
2019年に立ち上げた人材紹介プラットフォーム「circusAGENT」は、3万件を超える求人募集を取扱い、業界最大級の採用数を誇る。
人材業界の“ドラえもん”として、人事・人材課題を解決し、後悔のない意思決定をあたりまえにすることを目指している。

自社事業の仕組みと現在に至るまでの変遷

―まずはこれまでの事業変遷について教えていただけますか?

circus株式会社・矢部 貴志氏(以下、社名・氏名略)::私たちは2017年会社を設立し、最初に思い描いた事業が現在の「circus AGENT」というサービスです。このサービスをリリースしたのは2019年で、創業からの2年間はほぼ全ての時間をプロダクトの開発に注いでいました。何度も試行錯誤を繰り返し、α版を作成し、実は2回もシステムを作り直しました。そして3回目の作り直しで現在のサービスが完成し、それが今も続いています。リリースまでには相当な時間が掛かりました。

ユーザーが人材紹介会社となるため、リリースまでの間、自社で人材紹介事業を行いながら、ユーザーの視点でプロダクトの検証を行い、サービス開発に徹底的にリソースを割いていました。これが最初の1年間の取り組みです。

―その後の事業の展開はどのように進めてきましたか?

2019年に、ようやくリリースできたサービスが現在の人材紹介プラットフォーム「circus AGENT」です。現在ではユーザー数で約20,000社の求人情報を掲載し、人材紹介会社が約1,000社利用しています。このプラットフォームは、人を採用したい企業と人材紹介会社をつなぐBtoBのプラットフォームとなっています。

サービスの基本的な仕組みは、人を採用したい企業が求人情報をプラットフォーム上に掲載すると、一括で人材紹介会社に紹介の依頼ができ、すぐに人材の推薦が始まります。人材紹介会社から見れば、自分で紹介先の企業を探さなくても、すぐに人材の紹介を始めることができるという仕組みです。

現在、昨年対比で見ると流通規模は300%成長し、年間で約50億円の人材紹介取引がプラットフォーム内で行われています。大手の紹介会社でも、人材紹介事業単体で50億行っている会社はほとんどないため、紹介能力としては業界トップクラスと言えます。

―なるほど、詳しい説明ありがとうございます。それでは、このビジネスを一から立ち上げた背景や、当時感じていた課題について矢部さんの視点から教えていただけますか?

私自身は新卒からずっと人材業界に携わってきました。人材業界の良さ、例えば企業の経営課題と人材課題が直結することや、求職者にとっても仕事が人生における重要な要素であること、そういった点を感じてきました。しかし、一方で、人材業界の悪しき風習も目の当たりにしてきました。特に、営業が一方的で、売上利益を追求するために人材を紹介しているという印象を受けることがありました。

―それは大変な状況だったのですね。

はい、求職者や企業に対する配慮が足りない場面を多く目にしました。私自身が人材業界に関わっている以上、業界をより良い方向に導きたいと考えています。人材業界は非常に重要な領域で、その改善に携わることで、世の中に大きな影響を与えることができます。そういった思いから、このプラットフォームのリリースに至りました。

自社事業の強み

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(画像=circus株式会社 事業概要)

―ありがとうございます。次に自社事業の強みについて教えていただけますでしょうか。

私たちのサービスは、人材紹介取引をプラットフォーム化することによって、営業活動や契約締結などのプロセスを効率化できることが、第一の価値と思っていただいていることが多く、それ自体は間違っていないと思っています。しかし、私たちが提供する本質的な価値は、情報やデータにあると考えています。全国の人材紹介会社がこのプラットフォームを通じて人材紹介を行うことで、大量の求職者の選考データがプラットフォーム上に蓄積されています。

例えば、どのような求職者が、どのような転職理由、転職軸を持ってどのように企業から選考されて、どのような企業を選ぶのかといったデータを詳細に蓄積しています。

通常の転職サイトでは、このような情報収集を試みると、ユーザーが離脱してしまいます。しかし、私たちの場合は人材紹介者が間に入ることで、このような細かなデータが蓄積されています。さらに、私たちは直接求職者を集めていないBtoBのプラットフォームなので、年間300,000人分の詳細な選考データがマーケティング費用をかけることなく蓄積されています。

―それは非常に価値のあるデータですね。それをどのように活用していますか?

例えば、このプラットフォームのデータを活用して、企業にどのような人がどのような理由で合格したのかという情報が可視化されています。これにより、人材紹介会社は、どのような人が合格するのか、どのような人が高く評価されるのかといったデータを見ながら人材を紹介できます。これにより、紹介の精度が向上しています。

―つまり、人材紹介会社の課題解決が実現されていると。

はい、その通りです。私たちのアプローチは、まずは人材紹介会社の課題解決から始まります。売り手市場の今、募集求人が非常に多く存在し、人材紹介会社もすべての情報を把握できず、マッチングの質の低下が目立っていました。データプラットフォームの力でこれまで見ることができなかった求人の詳細情報を可視化することで、年間で数十億円の取引流通が生まれています。

私たちのプラットフォームは、人材紹介会社の事業成長を支援し、企業の採用活動をより精度高く効率的に行うことを可能にしています。

過去の成功の秘訣・ブレイクスルー

―では、これまでの経験を踏まえて、矢部代表が最も成功したと感じる出来事は何でしょうか?また、その成功の秘訣・ブレイクスルーについて教えていただけますか?

まず、ファーストブレイクのポイントとしては、いわゆるプラットフォーム事業の死の谷を、“メルカリ方式”で乗り越えたことでした。2者間をマッチングするBtoBプラットフォームでは、基本的に双方のユーザーを営業活動によって、一定数まで集めてトランザクションを上げていく必要がありますが、それが長期化することで、事業スタックしてしまうことが多々あります。私たちは、人材紹介会社が保有している求人募集をプラットフォームに掲載し、人材紹介会社同士で協業してビジネスができる仕組みを作りました。それによって、一つのユーザーが二役になるということができ、トランザクションの最大化を最短で行うことに成功しました。メルカリのユーザーが買う側にも売る側にもなる、という構造と似ています。

また、私たちの事業がその後も継続的に成長できた最大の理由は、ドメインエキスパートであったからだと思っています。この業界は非常に属人性が高く、感覚で仕事をする傾向があります。さらに、新しい慣習を受け入れるのが難しい業界でもあると感じています。

そのため、私たちは業界の専門家として、現場の本質的な課題を理解することが重要だと考えて実行してきました。現場の本質を理解しないと、うまくいかないことが多いです。例えば、人材業界では多くの企業が大型の資金調達を行っている一方で、成長が見られない企業も多いのもその理由によるものだと考えています。資金を注入しても、必ずしも成長できるわけではないのです。この業界は、領域の知識や理解が不可欠です。

強いエンジニアチームを抱え、優れたテクノロジーを持っている企業は多くいると思いますが、事業領域に精通したエキスパートが経営、ビジネスサイド、開発サイドにいるチームは少ないです。

私たちは、ドメインエキスパートが日本最大級の採用プラットフォームを運営しているという点では、希有なチームです。その強みを活かして、ユーザー課題に向き合いサービス設計をしてきたことが、私たちの製品がお客様に受け入れられた理由だと思います。

思い描く未来構想とビジョン

―なるほど、それでは矢部代表が思い描いている未来構想や、今後の展開についてのプランを教えていただけますか?

昨年末、私たちは新たなコーポレートミッションを策定しました。それは「ともに、HRに正解を」です。人材業界は企業にとっては経営課題に直結し、人にとってはキャリアや人生に直結しています。しかし、その変数が多すぎて正解がない分野でもあります。

―その正解を作り出すというのは、どのようなことを意味するのでしょうか?

私たちが正解を提供するということではなく、企業や求職者が行う様々な意思決定を後悔のないものにしていくアプローチをしています。例えば、採用するかどうか、入社するかどうかといった意思決定に対して、私たちが提供する情報によって、人事や求職者が後悔のない選択ができるようにすることが私たちの目指すところです。そのためには、求職者に対して人材紹介プラットフォームを提供するなど、様々なアプローチを行っていきます。「ともに、HRに正解を」という「ともに」は、ユーザー様たちと一緒に創り上げていく、というスタンスを込めています。

―エージェントが集めた情報を活用してチケットサポートを行っていると伺いました。そのプラットフォームについて詳しく教えていただけますか?

はい、circusAGENT上に蓄積された選考データから得られる情報を、人材紹介会社だけでなく、人事関連のあらゆるHRソリューションを結びつけることを目指しています。現在はその構築に注力しています。

―そのプラットフォームは、どのような企業にとって有効なのでしょうか?

このプラットフォームは、新卒採用、大量採用、専門家のスポット採用など、さまざまな採用ニーズに対応できます。さらに、離職防止やマネージャー育成など、人事課題の解決にも役立つと考えています。

―それはとても魅力的ですね。その他に、このプラットフォームを利用するメリットは何でしょうか?

HR領域には様々なソリューションが存在しますが、どれが最適なのかを見極めるのは難しいですよね。私たちのプラットフォームは、それぞれのソリューションと人事課題を適切にマッチングさせることで、課題解決に役立つと考えています。

―そのような役割を果たすためには、どのような戦略を立てているのでしょうか?

細かい戦略はいくつかあるのですが、一言でいうと、私たちは、人事にとってのドラえもんのような存在を目指しています。人事は、ソリューションを探す手前で、自社の課題に対しての打ち手の方向性の定義で躓いているケースが多くあります。つまり、人事が直面する課題に対して打ち手の要件定義をした上で、適切なツールを提供し、その使い方までを指導する役割を果たす必要があります。四次元ポケットというプラットフォームだけではなく、ドラえもんのサポートが不可欠ということです。

―その戦略を実現するためには、AIの活用が必要となるのではないでしょうか?

私たちはHR領域の課題を解決する会社であり、テクノロジードリブンの会社ではないので、どこまでAIに挑戦できるかは現在検証中です。しかし、最終的には人の存在が重要だと考えています。私たちの目指すところは、人が適切なツールを適切に使えるようにサポートすることです。

AIや自動化の文脈について人材紹介領域の話でいうと、人材紹介業務の80%程度は自動化できるのではないかと考えていますが、一方で、100%自動化は難しいとも考えています。 「経営や人生にとって重要な意思決定を後押しする」という部分で、人が介在してアドバイジングする部分は、感情的なサポートの価値という点で残ると思います。より重要になってくるとすら考えています。

これまで、HR領域でAIに成功した企業は私の記憶ではありません。人材業界のドメインエキスパートとして、その可能性にチャレンジしていきたいと考えています。

プロフィール

氏名
矢部 貴志(やべ たかし)
会社名
circus株式会社
役職
代表取締役