今回は洋服の歴史と市場の変遷に対応しながら、138年間の歴史を持つ専門商社としての立場での経営の真髄に迫る。鷹岡株式会社代表取締役の鷹岡氏はスーツの価値をしっかりと理解し、それを体現する活動が会社の存続と成長の鍵であると語る。本インタビューでは当社のそのビジョンや経営方針、未来への展望について深く話を伺った。

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鷹岡 恒有(たかおか・つねあり)
鷹岡株式会社代表取締役
青山学院大学理工学部卒業後、大日本印刷株式会社にて営業職に従事。宣伝販促分野において、プロモーション企画、ワントゥワンマーケティング、コンタクトセンターの立ち上げ等を経験。 家業に戻った後は前職の経験を活かし、戦略や企画力向上の施策実行に加え、ワントゥワンデータエントリーセンターの開設、日本初となるオーダースーツのASEAN生産等、昨今のお客様のカスタマイズ志向の高まりに合わせた新規事業の立ち上げを行う。
鷹岡株式会社
当社は毛織物の卸商社として、1885年2月に創業し、138年を迎えました。創業間もない頃より、毛織物の本場イングランドから生地輸入を開始。当社は日本で最も古く、ヨーロッパから高級服地の本格輸入を始めた卸商社のひとつです。1975年に製品部を設置。製品の取扱高は年々拡大し、多彩な品揃えを誇るまでになりました。 マーケットのニーズやトレンドにいち早く対応し、お客様のマーチャンダイジングをしっかりとバックアップしていきたいと考えています。

100年企業のこれまでの変遷

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弊社東京支店 1935年竣工
※千代田区景観まちづくり重要物件
(画像=弊社東京支店 1935年竣工 ※千代田区景観まちづくり重要物件)

ー それでは早速ですが、これまでの事業の変遷について、教えていただけますでしょうか。

それは少し歴史的な話になりますね。まず初めに、創業者が和服から洋服への移行を予見し、主にメンズスーツやコートなどの洋服に合わせたウール素材の卸売事業を明治18年に立ち上げました。その根幹は今でもずっと変わらないですね。

私たちはBtoBの卸問屋で、小売店業ではありません。お得意先様と仕入れ先をつなぎ、マーケットに合わせて常に変化しています。おおまかに言いますと、生地も縫製加工も国内でのものづくりから、海外からの輸入にシフトしました。現在では80%以上の商品が海外からの輸入となっています。マーケットの変化に合わせて、事業内容を変遷させてきました。

ー お得意先としてはどういったところが多いのでしょうか。

創業当初は注文服、つまりハンドメイドのフルオーダースーツ店への販売を行っていました。70年程前よりマシンメイドのオーダースーツであるイージーオーダースーツ店に販売するようになり、さらに一部が「吊るし」と呼ばれた既製品へと移行しました。最近では、既製品から派生したパタンオーダーという業態が生まれています。それらの商品を売る小売店の形態は更に変化しています。

ー それはどのような変化ですか?

具体的に言いますと、注文服という時代は個人経営のお店が多かったのですが、既製品は百貨店、郊外型ロードサイド店、GMS、さらにはセレクトショップ等で取り扱われました。近年はイージーオーダースーツ、パタンオーダースーツ専門店が増えており、業種業態が多様化してきました。レディススーツの併売も増えています。その時代ごとに、お得意先様に寄り添いながら、私たちは卸売業という立場でビジネスを続けてくることができました。

ー なるほど、事業の根幹は変わらず、大きな事業変革は行われていないということですね。では、普遍的な部分、つまり変わらない要素は何でしょうか。

変わらない要素は、創業者が決めた「洋服」という根幹の事業をしっかりと営み続けるということです。全ての事業展開や新しい試みは事業の幹をしっかりと太くするものでなくてはなりません。全てのビジネスは根幹であるスーツという商材の価値を高め、お得意先様のお役立つという目的に尽きます。これは絶対に変わらない要素です。

ー今後の展開について教えていただけますか?

今後の展開については、市場がオーダーメイド志向の高まりに傾斜していることを踏まえて、オーダースーツの供給量を増強します。

具体的には、高級なインポート素材の取り扱いを増やすこと、また縫製の生産ラインを増設することで、市場の需要増に対応していきます。一つの事例を挙げますと、オーダースーツの海外生産については、インドネシアで大規模な生産を開始しており、ASEAN地区において1点1点サイズ・仕様の異なる商品の大量生産化に成功しているのは現時点では当社だけです。競合他社に先駆けて取り組んでいるこの事業を、更に成長させていきたいと考えています。

鷹岡の強みとは

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ーありがとうございます。続いて、御社の事業の強み、成功実績、そして功績について改めて教えていただけますか?

私たちの強みは、お得意先様とメーカーを繋ぐ中間業者であることです。中間の立場だからこそ、お得意先様とメーカー双方の課題を早期に発見することができ、課題を相互に共有し、解決することが可能です。創業138年の長い歴史とその信頼があり、遠い海外のメーカーと新規取引をする際にも心配されることはありません。お取引様との信頼関係、長い歴史により習得したスーツに関するノウハウは一朝一夕で得ることは難しく、お得意先様の課題や悩みに対して、解決できないことはありません。これが我々の一番の強みだと思います。

ー なるほど、その強みを活かしながら、ここ10年も継続的な成長を遂げていると感じています。コロナという逆境の中で売上を成長させることは難しかったと思いますが、やはり影響はあったのでしょうか。

実際、コロナ禍では売上高が大幅に下がりました。ピーク時には58%まで落ち込みましたが、今年に入り回復の兆しを見せています。しかし、売上高を追求するのはナンセンスだと思います。短期的な売上目標に捉われるのではなく、中長期的な視点でお客様のお役に立つことが重要であり本質であると考えます。

我々は卸売業という立場で、お取引先様の課題や悩みを解決することが求められています。それに対し様々なソリューションを提供することが、結局のところ我々の強みになっていくのです。課題解決が売上になかなか結び付かなくとも、その成功体験は大切なノウハウとなります。それらのノウハウを共有し、また別のお取引先様のお役に立つ、このポジティブな循環を作り続けることが最も大切です。それによりお取引先様と強固な信頼関係を構築することに繋がります。

ー なるほど、詳しく説明いただきありがとうございます。それでは少し過去に遡って質問させていただきますが、これまでの成功体験や秘訣について教えていただけますか。特に新型コロナウイルスのパンデミックやリーマンショックといった外部要因を乗り越えてきた経験があると思いますが、その中で成功を収めることができた要因は何だと思いますか。

私たちがこれまで乗り越えてきた困難、例えば直近3年間の苦境やリーマンショック、東日本大震災など、5~10年に1度は大きな困難が起こります。その中での強みはオーナー経営だと思います。外部から社長が就任すると、その人が短期的に結果を出さなければならないというプレッシャーから判断を急いでしまうことがあります。しかし、オーナー経営の場合はそのようなプレッシャーに捉われず、中長期的な視点で経営判断を行うことができます。

ー 他の部門との共有や活気づける取り組み、そしてお客様への提案力を強化するような活動が形になったところで、コロナウイルスの感染が広がったということですが、それが逆に売上を元に戻す要因になったということでしょうか?

はい、その通りです。社内でノウハウを適切に共有し、それを組織の仕組みとして確立することができたからこそ、このような外部の変動にも負けずに成長し続けることができました。また、リストラなどの人員削減は行わず、コロナウイルスの感染拡大という一過性の事態が終息することを信じ、全社員一丸となって耐え抜きました。耐え抜くことができた結果、売上高も一気に元に戻すことができました。これが中長期的視点でのオーナー経営の利点であると確信しています。

ー 売上が大幅に落ち込むという厳しい状況下で実際に取り組んだことはありましたか?

取締役会や営業会議で私自身が社員皆さんに状況説明を行っていました。月に1回程度の頻度ではありましたが、社員皆さんの不安を払拭する努力をいたしました。テレワークという行動様式は一過性であり、スーツを着用し出社する機会はこの世から無くなることはあり得ない、コト消費も含めて市場は必ずや戻ってくると。

伝統として守り抜くべきものと新たな挑戦

ー 今後もコロナウイルスを含め、変化が激しい時代が続くと思いますが、その中で何を伝統として守り抜くべきだと鷹岡さんはお考えですか?

スーツという商品に対するものづくりのこだわりを守り抜きたいと思っています。私たちはスーツで成長し、スーツで生き残ってきた会社です。お得意先様がスーツを必要とし、生活者がスーツを購入したいと思ったときに、安心安全に供給できるような体制を維持し続けることが大切だと考えています。

ー ありがとうございます。アパレル業界、特にスーツの市場において、今後もコロナが終息した後も売上も追求していくという方針は理解しました。しかし、先ほど言及された事業の拡大プラン以外に、何か新しい取り組みを計画されていますか?

先にもお話しましたが、 具体的な計画としては、まずオーダースーツの生産能力を増やすために、インドネシアでの生産キャパシティを拡大します。さらにインドネシアでオーダーシャツを生産することも検討しており、オーダーシャツの販売を通じてスーツの更なる拡販へつなげていきます。そのためのシステム投資と工場や物流の整備に力を入れていく予定です。

ーなるほど。御社が事業の構想を練る際や、新型コロナウイルスの影響を受けて戦略を見直す時、何か参考にされているものはありますか?

私たちが独自に考えるだけではなく、マーケットの変化を正確に把握し予測するためには、信頼性の高い情報を常に取り入れることが重要です。幅広い業種のお得意先様との対話の時間を大切にしています。日々のお取引の話しだけでなく、お得意先様にとっての真の課題は何か、今後のマーケットの動向についてはどう予測されているか、中期的な情報共有を重視しています。

将来の展望について

ー ありがとうございます。それでは、鷹岡様が現在重点的に取り組んでいる事業や、将来的に実現したいビジョンについてお聞きしてもよろしいでしょうか?

コロナ禍を経て、弊社のドメインを再確認いたしました。スーツという商品供給に必要な、ウールの素材販売とその縫製加工です。徹底的にそのドメインを磨き上げ、お得意先様とメーカーを繋ぐ立場において、競合他社に負けない営業力・企画力・開発力を養います。いいものを大切に長く着る、スーツは今の時代に適する究極なサステナブルな商品です。スーツ市場の再成長を確信し、お得意先様に寄り添い、お得意先様と共に歩み続けていきたいと考えています。

ー本日はありがとうございました。伝統として守り抜くべきものや御社の新たな挑戦について知ることができました。

氏名
鷹岡 恒有(たかおか・つねあり)
会社名
鷹岡株式会社
役職
代表取締役