この記事は2023年10月6日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「存在感を高めるインド経済で注意すべき「自国中心主義」」を一部編集し、転載したものです。
インドは、昨年のGDP(米ドルベース)が旧宗主国である英国を追い越し、その経済規模は米国、中国、日本、ドイツに次ぐ世界5位となった。さらに、最新の国連の推計によると、インドの人口は今年、中国を上回り世界1位になるとみられている。
中国では昨年、コロナ禍の影響で61年ぶりに総人口が減少に転じた。今後も長年にわたる一人っ子政策による少子高齢化の影響が深刻化すると思われる。一方、インドは国民の平均年齢が約28歳と若く、中長期的にも人口増加が見込まれ、経済成長の原動力である労働力の増加が予想されるなど、その潜在性の高さに期待が集まる。
インドもコロナ禍の影響を受けるかたちで深刻な景気減速に見舞われたものの、その後は景気回復の動きを強めてきた。ただし、昨年は商品高や米ドル高に伴う通貨ルピー安に加え、景気回復の動きも重なりインフレが大きく上振れした。そのため、インド中央銀行は物価と為替の安定を目的とする断続利上げを迫られる事態にも直面した。
結果として、昨年後半にかけては物価高と金利高の共存が、経済成長の牽引役である家計消費の足かせとなり、景気に下押し圧力がかかる動きが見られた。しかし、年明け以降はインフレが頭打ちに転じ、中銀が利上げ休止にかじを切ったことも追い風に、足元の景気は再び底入れしている(図表)。
元来、インドは「等距離外交」を外交面での国是としている。昨年のロシアによるウクライナ侵攻後も、ロシアからの割安な原油輸入を拡大させることで、世界的な原油高の影響軽減を図ってきた。さらに今年は、モンスーン(雨季)の雨量が歴史的低水準となったことでコメをはじめとする農業生産が下振れしている。国内供給を優先する観点から、コメを禁輸にしたりタマネギの輸出に高関税を課したりするなど、物価安定になりふり構わぬ姿勢を見せている。
この背景には、インドで来年予定されている総選挙での勝利を前提に、モディ首相が政権3期目入りを目指していることがある。国民の6割以上が農村に暮らし、食料品やエネルギーなどの生活必需品の物価動向が国民生活に直結する中で、モディ政権は「自国中心主義」を全面に押し出している。
とはいえ、足元では食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが再燃しており、ルピー安に伴う輸入インフレも相まって、インフレ率は再び中銀の目標を上回る推移を示している。今後もモディ政権は、インフレ抑制になりふり構わぬ対応を強めると見込まれる。
世界1位のコメ輸出国であるインドの対応によっては、同国内のみならず、アジア新興国にも影響が飛び火する可能性がある。また、こうした自国中心主義的な姿勢を見せる国が、世界経済で存在感を高めることにも注意が必要といえよう。
第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト/西濵 徹
週刊金融財政事情 2023年10月10日号