創業から200年以上の歴史を持つ、家庭の味を専門家が手掛けることの美味しさを追求する当社。 今回は、同社代表の延賀氏に、時代を経てもその品質を保ち続け、多角的な商品展開を果たしてきた同社の歴史やビジョンに迫ります。

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(画像=日本丸天醤油株式会社)
延賀 海輝(のぶか みなき)
日本丸天醤油株式会社代表取締役社長
寛政七年創業、日本丸天醤油株式会社の代表取締役社長。1980年生まれ。京都大学経済学部を卒業後大手精密機械メーカーに就職の後、2009年に家業を継ぐべく入社。神戸大学MBAプログラムを修了の後、2015年より現職。
日本丸天醤油株式会社
日本丸天醤油は1795年に醤油醸造企業として創業し、日本社会の発展と共に、粉末調味料、つゆ、レトルト、たれ、ぽん酢、と次々と新しい分野に取り組む。そして今も、フードロス解消の一環としてジェラートの製造・販売など、新たなジャンルに挑戦し続け、失敗を恐れずチャレンジする姿勢を大切にしている。

事業変遷について

まず、これまでの事業変遷に関して、お聞かせください。

当社は1795年に醤油醸造を生業として創業し、それから、つゆやポン酢、たれ、レトルト食品など様々な領域に挑戦し商品の多角化をしてきました。

ありがとうございます。創業以来、時代と共に事業を拡大されてきたということですね。現在11代目ということですが、社長に就任されてからどのような変化があったのでしょうか?

私が11代目として社長に就任してからは、特に大きな変化を起こしたという意識はありません。むしろ、我々の強みや弱み、競争相手やパートナー、そしてどのように独自性を保つかを再考したのがスタートでした。

私達は中小企業です。多くの人がすぐに思い浮かべる様な大手企業と競い、追いつくことはほぼ不可能ですし、人口が減少している現在の日本で規模を追求する意味はないと考えています。

そのため、大手企業では難しい「徹底的に手間ひまをかけた少量生産」に「細やかな営業活動」を加え、品質管理体制構築に力を入れています。

なるほど、大手では真似できない小ロットでの生産というところを逆手にとって事業の拡大を図ってきたのですね。

そうですね。時代背景としても、インターネットが日常生活に深く浸透し、情報が溢れている為人々の好みが多様化してきています。今は「みんなで一斉に同じものを買う」ということは減り、他方で地方の食べ物やこだわりの食品が話題になることも多いため、小売企業や製造企業と企画からしっかりと話し合い、少量生産で在庫リスクを小さくして販売まで一緒に取り組むという戦略が可能になってきています。

例えば、既製品だけでは来店促進が難しくなって来ている小売業のお客様には、地元素材を使った製品を作りたいというニーズにお応えします。他方、食品製造企業様にはギフト向けの特別な調味料の様に、先方の商品の価値を高める様な製品を一緒に企画・製造するといったように、顧客それぞれのご要望に寄り添った活動をしています。

つまり、こだわりの商品を追求するという方針に転換されたのですね?

「こだわり」は少量多品種生産のメリットを生かす一つの形でしかありません。店舗数の少ない飲食店様にコスト削減や味のブレ防止をメリットとして専用調味料をご提案させて頂く場合もあります。お客様の事業や希望のお話を伺い、お役に立てそうな形をご提案する丁寧な営業活動を心掛けています。

プロジェクトがスタートすれば試作品をお出ししますが、お客様には試食をして頂き、感想や修正ポイント、ニュアンスの違い等を伺い、コストなども含めご納得いただけるところまで試作を繰り返します。時には営業担当者だけでなく開発担当者も直接お伺いします。お客様と作り込んでいくことで製品が磨かれ、それが消費者の皆さんに伝わるのだと思います。

製品の開発をより良いものにしていくために取り組んでいることなどはありますか?

営業担当が専門知識を持って初回から出来るだけ詳しくお客様とお話をさせて頂くことや、開発担当がお客様の希望を形にするために幅広い材料知識を備えておくことは地道ですが大切なことです。それらに加えて当社で大切にしていることは「部門間のコミュニケーション」です。営業と開発の間はもちろんのこと、最終的に製造して納品するまでを担当する製造部まで含めて、社内のコミュニケーションに手を抜かず、齟齬の無いように普段からのフラットなやりとりを心掛けています。

日本丸天醤油の強み

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(画像=日本丸天醤油株式会社)

それは素晴らしい取り組みですね。これまでお話しいただいたことを踏まえて、自社事業の強みについてお伺いしたいと思います。

強みは二つあると考えています。一つ目は、扱うジャンルの幅が広いことです。つゆもポン酢もたれも粉末調味料も、いずれも多角化をしてきたものの業界トップの企業に比べれば小さな製造ラインしかありません。しかしそれぞれの規模は小さくとも、作るノウハウについては長けており、それが今「作り込んだ製品を少量で製造してリスク低くトライする」という私達の強みに繋がっています。一見弱みにしか見えないものを強みに変えられたことは大きいです。

二つ目は、会社の価値観となすべきことの優先順位を明確にしていることです。私たちは半期ごとに全社集会を開催し、その際に私は必ず冒頭で会社の業績や目指すべき方向性について話します。その内容も硬直化させず、自分たちの成長や世相の変化を取り込んで少しずつ変化させ続けていますし、部門ごとの成果や課題も他部門も見ている中それぞれでオープンにします。会社も組織であり部門が違えば立場も変わりますから、部門間の不満がゼロになるということはありませんが、部門間対立よりも優先させることは何なのかを常に確認し、またお互いの立場にも一定の理解と敬意を持てるように気をつけています。

過去のブレイクスルー

ありがとうございます。続いて事業変遷の中で過去のブレイクスルーや成功実績とその秘訣について教えていただけますか?

冒頭に述べた、少量多品種の事業モデルを作り上げたことが一つの成功実績でした。

我々の商品の代表格である醤油は、品質基準を明確にする日本農林規格というものが定められており、差別化が非常に難しい商品なのです。

先ほどもお話した生産ラインの規模の問題も同様で、このように楽観も悲観もせず自社の状況を客観的に直視することがスタートです。その上で「誰に、何を売って、どの様に利益を得て、誰と競争して、どうしたらマネされないか」ということを整理するのです。ブレイクスルーのヒントがあるとしたらそこです。必ず答えが得られるわけではありませんが、私の場合は社会人大学院に行って勉強し直したことが客観的に足元を見るきっかけとなりました。

新しい事業モデルが上手く機能する為に、上流の営業から下流の製造・出荷に至るまで様々な仕組みを入れていますが、それとは別にメンタル面で大切にしていることがあり、これが新モデルを上手く導入できるカギだと思います。

一つは既存のビジネスややり方を全否定しないこと。新モデルが機能して会社を支えるようになるには時間がかかりますし、既存のお客様や製造ノウハウも大切です。新しいやり方に変わって行くだけでも社員には戸惑いが多いので、安心して取り組める様に「今までのやり方も大切だけど、もっと良いやり方があるのでそちらに変えようね」と言ってきました。

そしてもう一つが成功を認識させること。新しいモデルに合致して上手く行ったケース(営業活動・製品開発・改善活動など)に関わった社員を他の人達の前で褒め、そしてそれを共有させます。新しいモデルに適応していくのは人によって速度差が出ます。ポイントがなかなか掴めない社員にも「ああ、こうすれば上手く行くのか、評価されるのか」ということを積極的に伝えていくことで脱落者を防ぎ、「一人の成功を組織全体の成功」として数が増えて行けば、全員がだんだんと自信を持つ様になります。人間誰しもが強いわけでは無いので、集団で何かを変えていくときに成功体験はとても大切です。

なるほど、自社スタッフ一人一人の意識が過去の成功にもつながっているのですね。現在の変化の激しい時代こそ、伝統として守るべきものと変えるものについてどのようにお考えでしょうか?

家庭用の新製品の試食プレゼンテーションをしていると「マルテンさんらしい味だね」と言って頂けることがあるそうです。開発者は美味しいものを作りたいと思っていますし、そういった伝統的な価値は大切にしていかなければなりません。しかし、冒頭でも触れたように、価値観が多様化している中では「高くても美味しいものが欲しい人」「便利さを最優先したい人」「味に譲歩しても価格を求めたい人」「変でもいいから他と違うものがいい人」などお客様は本当に様々です。「つゆとはこうあるべき」「この材料が入っていないと○○とは言えない」といった様なこちらのエゴは邪魔でしかありません。社員には「お客様の要望に合うのなら、醤油が一滴も入らない製品を開発しても構わない」と言ってあります。そのお客様にとって良いものとは何なのかを一緒に考える柔軟性を意識するようにしています。

時代に合わせた変化

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(画像=日本丸天醤油株式会社)

ありがとうございます。時代と共に変わるべきところと変えないところがあることも長く事業を続けるための秘訣だと理解しました。次に、今後のビジョンや新規事業、既存事業の拡大プランについて教えていただけますか?

はい、我々は現在フードロス解消の一環として、『YASASHIKU』というジェラートの製造・販売事業を展開しています。

不揃いで自家消費や廃棄になってしまう農作物を使用し、我々の培った技術と元の農作物の良さを最大限活かすことによって、ジェラートに生まれ変わらせることで、作り手である農家さんの収入を増やし農家さんと農業を支援することができる、というのが最初の構想でした。

素晴らしい取り組みですね。そのような取り組みを行うきっかけなどについてお聞かせいただけますか?

はい、一次産業では、高齢化や労働力の減少、収入の低さにより新規参入がうまくいかないなどを始めとした問題が多く起こっています。我々が作る調味料は単体で食べるものではなく、野菜や肉、魚、乳製品などと組み合わせて初めて完成するものです。一次産業がこのまま衰退していくと、我々もこの先成り立たなくなってしまう可能性があるのです。

一次産業は効率化も求められますが、農家の方が大きな設備投資をするのも大変です。そこで不揃い品を分けて頂くことで、私達は新しい価値を提供し、消費者は美味しいものを知り、食べ、農家さんは低リスクで収入が増える、関わる全ての人に優しく、幸せにできる、そんな形を目指して製品開発をしました。

これからも農家の方、消費者を含め一緒に幸せを拡大していくことを目指しています。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

ありがとうございました。

氏名
延賀 海輝(のぶか みなき)
会社名
日本丸天醤油株式会社
役職
代表取締役社長