工学への深い造詣と起業家精神で、AIによる製造業の革新に取り組んでいる株式会社RUTILEA。 その先導者である矢野貴文氏に、創業から現在までの道のり、次世代の検査自動化ソリューションを開発した技術力と成長の源泉、そして未来への展望についてお伺いしました。

株式会社RUTILEAアイキャッチ
(画像=株式会社RUTILEA)
矢野貴文(やの たかふみ)
株式会社RUTILEA代表取締役社⻑
2010年から2018年までの学生時代を京都大学工学部の電気電子工学科で過ごし、その後大学院の電気工学専攻で修士を修了。専門は脳計測に関する信号処理と画像再構成で、その独自の知識を活かして、修士課程中の2014年にはデータ統合技術の会社を友人と起業。さらに博士1回生の際にその会社を売却し、上場企業のグループのDX責任者としての経験も持ちあわせる。2018年からは、AI技術を活用して世界トップの事業を構築することを目指して「株式会社Rutilea」を起業。
株式会社RUTILEA
2018年8月に製造業向けの画像処理AI事業を展開するため、株式会社RUTILEAを設立。翌2019年には、異常検知AIをベースとした外観検査ソフトウェア「SDTest」をオープンソースとしてリリースし、半年で500社以上からのダウンロードを果たす。2020年には、トヨタ自動車やコマツ製作所、パナソニックなどの大手国内メーカーへの検査自動化ソリューションの提供をスタートし、AIとルールベースを融合したノーコードAIソフト「Image Pro」の販売を開始。このソフトにより、かつては複雑なプログラミングが要求されていた検査AIの開発時間を80%削減することが可能となった。そして、2022年にはRockwell Automationとの戦略的パートナーシップを結び、リード投資家のAbies Venturesとサウジアラビア政府のファンド、Riyadh Valley CompanyからシリーズBの資金調達を成功させる。

事業の変遷について

ーそれでは、最初に起業の経緯から教えていただいてもよろしいでしょうか。

大学院修士課程の時に会社を始めました。当時は、小さな会社からスタートし、プログラミングのできる友人たちと共にデータを集約するプラットフォームを作っていました。2016年にブランド品を買取している会社にM&Aによって会社ごと売却し、その後会社のデジタルトランスフォーメーションを担当しておりました。その後、次は何をやろうかと、世界を旅しながら考えた結果、2018年に現在の会社を始めることを決意しました。

ー会社の設立に至った経緯は何ですか?

大学では医療領域などを学んでいたので、当初は製造業には余りつながりはありませんでしたが、製造業を見ていく中で、検査をAIで自動化するというソリューションは需要がある。市場はこの先もなくならないと考えました。それがきっかけです。

ーその後の事業展開はどうでしたか?

2020年10月頃から、顧客の情報なども入ってきて仕事になり始めました。その後いろいろと試行錯誤するなかで、ニーズのある事業分野がわかり、2022年から製品開発を始め、2023年から本格的に製品販売を展開させています。

ースタートアップとなると、利益を上げるために焦ってしまうこともあるかと思うのですが、特定の領域に対する思いが逆にあまり強くなかったのが事業をやっていく上でプラスになったのでしょうか?

そうですね。自己分析しながら、自分たちがリーチできる範囲で仕事力を活かせたのが良かったのかもしれません。手が届く範囲で少しずつやろうという考えで始めました。また、2社目ということで、比較的余裕があったことも冷静に考えることができた理由だと思います。

AI事業の2つの競争力:すぐに使える製品と国際化した組織

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(画像=株式会社RUTILEA)

ー今の事業の強みはどこだと思いますか?

大きくわけると、製品と組織という点があります。 AIの製品は、お客様からすると製品の良し悪しがわからず、比較も難しいという点があります。そのため、製品選定において最も大切になるのは、すぐに使えるかどうかだと考えます。私たちの製品は導入時にプログラミングを必要としない、ノーコード、ゼロコードである点が特長です。世界最新のものがすぐに使えるというところに大きな価値があると思います。 組織面では、エンジニアの採用が難しい中で、外国人エンジニアを積極的に採用し外国人比率が高くなっていますので、外国の開発会社とも一緒に仕事ができるということが強みです。外国の組織とうまく融和していくことで、より多様な課題に対応できる組織になることができていると思います。

ー現在、どのくらいの外国籍の人が在籍していますか?

今は、おおよそ10カ国の人が在籍しています。先日の採用では約30カ国から200名近い応募がありました。

ー今後、さらに多くの国籍の人を増やしていく予定ですか?

はい。多国籍の社員が所属することで、海外展開もスムーズに進められますし、各国の市場ニーズに合わせた商品・サービスを提供できるようになると考えています。

ーそれを進めるに当たって大事なことは何でしょうか。

私自身がしっかりと事業や思いを伝えることが非常に重要と考えています。社長が自ら英語で説明することで、外国人にも思いが正確に伝わりますし、当社で働く楽しさ・魅力をちゃんと伝えられると思います。

ーなるほど。では、日本の企業文化において、どのような点で差別化が図れると思いますか?

金銭報酬は定量化できるものですが、それだけでは大きな要素にはならないと思います。最終的に優秀な外国人材を惹きつけるためには、合理性や楽しさ、働きやすさなど、金銭報酬以上の要素が重要だと思います。

今後の事業展開について

ー今、関心のあることを伺えますか。

生成AIに興味を持っています。 生成AIは、これまでコストをかけてきたものの価値をゼロ化する要素があると思っています。例えば、日本のSaaSサービスを提供しているベンチャー企業などはなかなか黒字化できない、もしくは黒字化するまでに多大な時間がかかることが多くあります。その場合、今のように金利が上がる局面だと、時間をかけるほど、事業への負担が大きくなり、厳しくなるかと思います。そういった面では、SaaS企業の事業が生成AIによってどう変わっていくのか、そしてその推進速度の変化には非常に興味があります。 今後、生成AIを使ったメディア事業に参入することも構想に入れています。例えば、ウェブトゥーン(ウェブ上のコミック等)の生成AIや、画像素材共有サイトなどは生成AIによってイノベーションを起こすことができる領域であり、非構造データベースの分野にかなり力を入れている私たちであれば参入余地は大きいのではないかと考えています。

ー事業をしていく中で、現在特に気になっているトピックなどはありますか?

事業に関わってくる領域には非常に関心を持ってますね。特に、先ほども挙げた生成AIについて、事業の転換期を考える上でChatGPTは無視できない存在だと思います。ChatGPTがでてきたことで、すでに知っている情報を確認するだけならGoogleで検索せずにChatGPTに聞くほうが早くなります。そうなると、今までSaaSの会社が投資する先として、基本的には広告宣伝費が大部分であったと思いますが、この部分がかなり落ちると考えられます。ChatGPTのような強いプラットフォームに、みんなが移行してしまうと、広告に投資する理由がなくなり、今までのGoogle検索を前提にした広告宣伝費モデルが通用しなくなるのは必然ではないでしょうか。

国境を越えるビジネス

ー御社や矢野代表の個人的なビジョン、または社会全体について、どのような未来を描いていて、それに向けてどのような取り組みをされているのか教えていただけますか?

私たちの目標の一つは、海外のチームを持ち、海外チームでもプロダクトを作ることです。さらに海外のチームに営業チームが加わると、日本で作っても海外で売れる、海外で作っても日本で売れる体制ができます。資金さえあれば、多くの人員を雇うことも可能になり、できることも増えていきます。 将来的には海外の営業チームと協力して、プロジェクトの開発と技術の共有を進めていきたいと考えています。AIによって変化が激しいものを早く取り込み、継続的に続けていくことが重要だと考えています。

ー海外の営業チームは、どのように組織されているのですか?

正直、海外のチームがリモートで働くことは厳しいと思います。基本的に現地に入り込んでいないと商品は売れないため、現状、外国にいる起業家の友人たちの顧客基盤を利用して、自社商品を売っていただいてます。人脈を使って販路を拡大することが海外では重要であり、現地での営業は現地の人に任せるのが一番だと思っています。

ーでは今は現地営業をトライアルとして活用し、今後広げていこうとしているという段階でしょうか?

そうですね。実際既に海外でも使われている製品もあります。 現在は、銃を持った人を検出するための製品を作っており、タイの警察に使っていただいて実証実験中です。 インターネット産業に国境は関係ないので、これからも、海外でのビジネスを拡大していきたいですね。

読者へのメッセージ:人的ネットワークの強み

ー最後に、この記事を読まれる読者の皆さんに一言メッセージをお願いできますか?

現在は産業が過渡期にあると感じており、AIを活用した仕事など、新しい技術が台頭しています。その中で生き残る企業を見極めることが重要だと思います。私たち自身としては、人的なネットワークに価値を見出しました。

例えば、大企業とベンチャー企業の売上という意味での圧倒的な違いは、顧客リストだと思います。 ベンチャー企業は最初、顧客リストがほとんどないですが、ある程度の大企業は顧客リストがあるため、何を作っても投げ込んだら売れるわけです。 これからAIの開発コストが下がり、より多くの企業が参入するでしょう。その中で、勝敗を決める一つの要因として人的ネットワークを持っている会社が最終的に伸びると思います。

ーよく理解できました。本日はありがとうございました。

氏名
矢野貴文(やの たかふみ)
会社名
株式会社RUTILEA
役職
代表取締役社長