ソニー子会社にてデジタルコンテンツの事業開発を担当。その後、米バイオテック企業にて日本向けマーケティングに従事、2007年から米IT企業シスコシステムズにてパートナー・ビジネス・ディベロップメントなどを経験。
2011年に発生した東日本大震災で災害ボランティアを続ける中、被災地からの情報共有の脆弱性を実感し、被災地の情報をリアルタイムに伝える情報解析サービスの開発を目指し株式会社Specteeを創業。著書に「AI防災革命」(幻冬舎)
国内トップシェアを誇るAIリアルタイム危機管理サービス『Spectee Pro』は、AI技術を活用し、世界中のSNSや、自動車のプローブデータ、河川・道路などに設置されたカメラのデータ等をリアルタイムに解析し、災害や危機に関する情報を収集、通知、可視化・予測できるリスク管理ソリューションです。
危機情報をリアルタイムに配信するほか、地図と合わせて表示し、「どこで何が起きているか」、「被害状況はどの程度か」などを即座に確認することができます。2023年10月末時点で、980以上の自治体、官公庁、民間企業、報道機関などにご利用いただいています。
創業時のきっかけについて教えてください。
当社は、AIを活用して、災害情報の収集や解析、災害対応の迅速化や最適化をするためのサービス、「Spectee Pro」を提供しています。私が防災領域に進もうと思ったきっかけは、2011年の東日本大震災です。震災後に東北でボランティア活動を行った経験から、被災地のニーズやボランティア募集情報、物資の要望などが整理されていないことに気づきました。そこで、情報を整理して届けるために、X(旧Twitter)に着目して、活用し始めました。それが、当社の創業の経緯となります。
感銘を受けた書籍とその理由は?
私が最も影響を受けた書籍は、「世界最大の気象情報会社になった日」という本で、ウェザーニューズの創業者である石橋博良氏の著書です。この本はウェザーニューズがどのようにして生まれ、どういった理念がそこにはあり、どうやって世界最大の気象情報会社になったのかを詳述しています。中でも印象的だったのは、小型の船が座礁して多くの人命が失われた海難事故の話です。気象情報が適切に伝わらなかったことが事故の主因となり、その現実に直面した石橋氏は情報不足を防ぐための会社を創ろうと決意したエピソードが綴られています。私自身も東日本大震災を契機にスペクティを創設し、情報の整理と伝達に取り組んできた背景があり、石橋氏の経験とその決意に共感を覚えました。
もう1冊は「選択の科学」というコロンビア大学のビジネススクールの教授である、シーナ・アイエンガー氏が書いた書籍です。これは、人が何かを選択する際のメカニズムが書かれていて、そこからビジネスにおける選択の判断軸や物事に対するさまざまな視点が解説されている、少しアカデミック寄りの本となっています。スタートアップの経営者には、事業を進めるための戦略や方向性など様々な場面で選択を迫られる時があり、何かを選ぶ際には他方を捨てる必要があります。この本は、企業経営の中でどのように選択するのかについてのヒントを得ることができます。
最後に紹介するのが、「起業家はどこで選択を誤るのか―スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ」というノーム・ワッサーマン氏の著書になります。先に紹介した「選択の科学」にも通じますが、経営者の意思決定、つまり「選択」において、シリコンバレーの多くのスタートアップ企業の失敗例が描かれています。内容自体は少し古いものの、経営をする上で非常に参考になります。スタートアップの経営者やこれから起業をする方にはぜひ読んでほしい1冊です。
読書はどのように仕事に生かせたでしょうか。
私はこれまで読んだ本を、意思決定を行う際にとても参考にしています。当然大企業でもそうですが、スタートアップにおける経営者の意思決定は、会社そのものに影響を与えるような、重大なものがほとんどです。起業家の中には比較的、直感を信じた意思決定をされる方も多いと思います。私もその一人です。しかし、起業して事業が進むにつれ、「なぜその直感が生まれたのか」「その直感は正しいのか」をロジカルに説明できる形で意思決定するようになってきました。
また、過去の失敗事例を学ぶという点でも読書は大変役に立っています。「起業家はどこで選択を誤るのか―スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ」の本もそうですし、「起業の失敗大全 スタートアップの成否を決める6つのパターン」という書籍も過去の失敗事例を学ぶという点で参考になることが多くありました。というのも、よくある成功本は、少しできすぎているのではと思う点が多々あり、何が良かったから成功に導けたという分析があるというよりは、全てが良かったために成功できたという書かれ方をされた書籍が多い傾向にあります。一方で、失敗本には、「あれは良かったけど、これがダメだった」というように具体的なその後の反省がしっかりなされているものが多くあります。こうした点から、私は成功本よりも失敗本の方が学べるものは多くあると感じています。
経営において重要としている考え方を教えてください。
経営者という視点で重視していることは、やはり「選択」です。私自身は、問題や課題、またはチャンスに対する適切な選択が、ビジネスと経営の成功を左右すると信じています。そのため、私は日々の業務や意思決定をする場面において、いつもロジカルな設計と綿密な情報収集を心がけています。課題を明確に設定し、それにまつわるデータや外部要因を調べて、それぞれの可能性を比較し、最も合理的と考えられる選択肢を取るようにしています。
しかし、同時に私は、選択を伝達する際には熱意と情熱が不可欠だとも考えています。人々は理論やロジックだけでは動かされず、感情や熱意によって動くものです。そのため、私は自分の選択を伝える際に、理由や背景のロジックを説明するだけでなく、なぜその選択を行ったのかを、なぜそれが今重要なのかをできるだけ情熱的に伝えるよう心がけています。その選択が会社やチーム、またはプロジェクトにとってどのような意味を持ち、どのような価値をもたらすのかを明確に、かつ熱く伝えることで、他の人々もその選択を支持し、行動するようになるのです。
最後に、御社の未来構想や従業員への期待について教えてください。
私たちスペクティの未来構想は、防災領域での事業を世界に広げていくことです。日本は台風や地震が多発する災害大国である反面、被災時のノウハウや防災技術は他国をリードするものがあります。一方で、これらの知見を世界の防災に活かせているかというと、まだまだ不完全であるため、今後はさらに海外の災害対策に貢献したいと考えています。その取り組みの一環として、現在JICA(国際協力機構)の協力のもと東南アジアのフィリピンを中心にフィージビリティ・スタディを行っており、2023年9月には「X-HUB TOKYO(東京と世界のイノベーションエコシステムを繋ぎ、新たな時代を切り拓くスタートアップをアクセラレートする東京都主催のプラットフォーム)」にも採択されました。今後も海外への展開を加速させていきます。
また、従業員に期待することは、グローバルな視点を持つことです。ウェザーニューズ社が世界最大の気象情報会社になったように、当社も防災領域において世界をリードする企業になるため、海外展開を進める上で、世界規模での視野を持つ人材となってほしいという思いがあります。
- 氏名
- 村上 建治郎(むらかみ けんじろう)
- 会社名
- 株式会社Spectee
- 役職
- 代表取締役 CEO