この記事は2023年10月3日に「第一生命経済研究所」で公開された「9月短観から見た23年度業績見通し」を一部編集し、転載したものです。


経済,企業業績
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目次

  1. 経常利益計画が上方修正
  2. 売上高上方修正は「対個人サービス」「その他製造」「鉱・採石・砂利採取」
  3. 経常利益上方修正期待は「電気・ガス」「鉱・採石・砂利採取」「運輸・郵便」
  4. 為替レートの変動で業績が修正される可能性

経常利益計画が上方修正

10月2~3日にかけて公表された9月短観の大企業調査は、8月下旬~9月下旬にかけて資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて10月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、9月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、23年度は上期・下期とも若干下方修正となっている。

一方、経常利益を見ると、伸び率だけを見れば23年度は上期を中心に大幅上方修正になっている。しかし、業種別に着目すれば、製造業のうち素材業種だけ下方修正となっている。このことから、製造業のうち加工業種と非製造業では次の四半期決算発表で23年度の企業業績見通しを上方修正してくることが予想される。

つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は前年比で若干下方修正される一方、経常利益については製造業のうち素材業種以外は上方修正になっているということである。

第一生命経済研究所
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売上高上方修正は「対個人サービス」「その他製造」「鉱・採石・砂利採取」

続いて、9月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料3は23年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

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結果を見ると、23年度は「物品賃貸」「卸売」「電気・ガス」「鉱・採石・砂利採取」「繊維」「石油・石炭製品」「非鉄金属」「生産用機械」を除く全ての業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「対個人サービス」である。それに続くのが「その他製造」「鉱・採石・砂利採取」「建設」「自動車」と続く。

まず、「対個人サービス」については、インバウンドの回復やコロナ指定感染症見直し後初の夏到来によるレジャー需要等が増加したことが上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。一方、「その他製造」や「自動車」では、供給網の改善等に加えてここ元の円安が寄与したと考えられる。また「鉱・採石・砂利採取」では、鉄鉱石など一部の資源価格が比較的堅調に推移してきたことが影響している可能性が示唆される。他方「建設」では、これまでのコスト増の価格転嫁が遅れて反映されたことが推察される。

従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

経常利益上方修正期待は「電気・ガス」「鉱・採石・砂利採取」「運輸・郵便」

続いて、9月短観の経常利益計画から上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料4)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは「電気・ガス」となっている。これは、電気業金の値上げや原発再稼働による燃料費削減効果等が反映されたことが推察される。

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それに続くのが「鉱・採石・砂利採取」である。背景には、鉄鉱石など一部の資源価格が比較的堅調に推移してきたことで売上高が上方修正された影響が寄与していることが推察される。

それに続くのが「運輸・郵便」だが、こちらもインバウンドの回復やコロナ指定感染症見直し後初の夏到来によるレジャー需要等が増加したことが上方修正の後ろ盾になっている可能性がある。

なお、それに続く「繊維」や「食料品」はいずれも売上高計画下方修正の中で経常利益が上方修正となっていることから、コスト削減効果が寄与していることが予想されるが、特に「食料品」については、10月から政府の小麦売り渡し価格が久方ぶりに1割以上値下げになることが寄与していることが推察される。

このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、輸入原材料価格の低下に伴うコスト減が期待される素材産業に加え、半導体不足緩和に伴う加工業種、新型コロナに対する国民の恐怖心低下や経済正常化期待の恩恵を受けることが期待されるサービス関連産業等が指摘できる。

為替レートの変動で業績が修正される可能性

なお、9月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料5にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で134.0円/$、ユーロ円で142.5円/€となっている。しかし、足元のドル円レートは140円台を大きく突破している。

第一生命経済研究所
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中でも、足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが「輸送用機械」「物品賃貸」「電気機械」「宿泊・飲食サービス」となっている。

なお、輸入依存度の高い内需関連産業は円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれており注意が必要だが、最も円安の恩恵を受けやすい業種の一つとされる「輸送用機械」や「電気機械」が円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後は欧米において想定以上の景気減速懸念などに伴うリスクオフを通じて、各国中銀がこれまでよりも金融引き締めに後ろ向きな姿勢を示す等して為替レートの水準が円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣