競技用シューズやスニーカー、アスレチックウェアなどを手がけるアシックス<7936>の国内販売子会社アシックスジャパン(東京都江東区)が120人規模の希望退職を募集していると報道された。アシックスといえば、11月13日に2023年12月期の連結営業利益予想を過去最高益となる前期比52%増の520億円と従来予想から60億円も上方修正したばかり。なぜ子会社とはいえ、好業績下で人員削減に踏み切るのか?

過去最高益でも子会社の人員整理に着手

報道によると、アシックスは国内営業をグループ内から代理店へ移管する営業体制の再編を進める方針。さらに学校への用品販売事業も縮小しているという。そのため、10月中旬からアシックスジャパンの国内小売店向け営業部門などの正社員を対象に10月下旬から希望退職を募集しているという。年齢制限は設けていないため、対象部門の正社員は誰でも希望退職できる。

アシックスとしては、少子高齢化で国内のスポーツ用品需要は先細りになると判断したようだ。こうした国内リストラは他業種でも起こりうる。人口減による国内市場の縮小に加えて、円安で海外でのビジネスの方が収益が高いこと、人手不足に伴う人件費の高騰や、円安を受けた原材料、光熱費の値上がりなどのコスト増が見込まれるためだ。

12月1日には三光産業<7922>が国内の印刷需要低迷を受けて2024年12月をめどに大阪工場を廃止するのに伴い、20人程度の希望退職を募集すると発表している。


上場企業で相次ぐ希望退職

11月だけでも、ピクセラ<6731>が2024年3月に16人程度の退職勧奨と整理解雇を、インプレスホールディングス<9479>が2024年1月に45歳以上の正社員を対象に人数を定めず、東海染工<3577>が浜松事業所で2024年1月に満57歳以上の正社員10人程度、ランサーズ<4484>がワークスタイルラボ(東京都渋谷区)の吸収合併に伴う合理化で12月に正社員若干名、ワコールホールディングス<3591>が不採算ブランドの撤退とブランドの統合、低収益店舗の撤退を受けて2024年4月に150人程度の希望退職を募ると発表した。

総務省が発表した「労働力調査」(速報)によると、2023年10月の完全失業率(季節調整値)は前月から0.1ポイント改善して2.5%と落ち着いている。退職者の再就職に有利な環境なことも、労使双方に人員整理の心理的ハードルを引き下げているとも言えそうだ。

深刻な人手不足にもかかわらず、アシックスのような好業績企業までもが希望退職募集に踏み込んだことで、リストラに「聖域」はなくなったと見ていいだろう。

文:M&A Online