広告代理店首位の電通グループ<4324>がコロナ禍の中、高水準のM&Aを維持している。同社は2023年(1-9月)に5件のM&Aを適時開示しており、コロナ禍の影響が出始めた2020年からのおよそ4年間でM&Aの適時開示件数は15件(買収14件、売却1件)に達した。

コロナ禍前の3年間(2017-2019年)では、11件(買収11件)だったため、ペースはやや上がり気味だ。

業界2位の博報堂DYホールディングス<2433>は、コロナ禍中のM&Aが4件(買収3件、売却1件)、コロナ禍前の4年間のM&Aが3件(買収3件)と、こちらもややペースは上がり気味だが、電通の件数には大きな開きがある。

業績は電通がすでにコロナ禍を越え、新たな成長軌道に乗ったのに対し、博報堂は回復傾向にあるものの足踏み状態にある。両社の現状を見てみると。

海外企業への投資に差が

電通が2023年に適時開示した5件のM&Aは、スペインの顧客関係管理コンサルティング企業、米国のBtoB(企業間取引)マーケティング支援企業、英国のデジタルクリエイティブコンテンツ制作企業、ドイツのWeb広告代理店の4社の買収と、日本のスポーツ情報メディアサイト運営企業の売却。

電通の海外比率は60%を超えており、海外事業拡充の動きがM&Aにもはっきりと表れた格好だ。2020年から2022年には米国(5社)、オーストラリア、インド、アイルランド、日本(2社)の企業を買収しており、海外強化の取り組みにブレはない。

一方の博報堂は、2022年にイベント・メディア事業を手がける日本企業を売却したあと、M&Aの適時開示はない。このほかの2020年から2022年の間の適時開示は、ネットビジネス支援事業を手がける日本企業、対面・訪問事業を手がける日本企業、台湾の大手広告会社の3社の買収で、電通との比較では件数だけでなく、海外企業への投資にも大きな差がある(博報堂の海外比率は25%ほど)。

コロナ禍前の4分の3に

業績にも両社の間に開きが見られる。電通の2023年12月期の売上高は1兆2760億円で、3期連続で増加する見込みだ。コロナ禍の影響のなかった2019年12月期の実績(売上高1兆478億8100万円)は2021年12月期に超えており、コロナ禍後の成長軌道に入ったといえそう。

2023年12月期の営業利益は1265億円で、前年度より7.6%増える見込みだ。2019年12月期にコロナ禍でない要因で営業赤字に陥っているため、2018年12月期と比較すると、こちらも実績(1116億3800万円)を超えており、増益基調にある。

M&A Online

(画像=2023/12は予想、「M&A Online」より引用)

博報堂の2024年3月期の売上高は1兆300億円の見込みで、2期連続の増加となる。ただ、2019年3月期の実績(1兆4456億1400万円)には、まだ4000億円以上の開きがある。

2024年3月期の営業利益は490億円の見込みで、こちらは2期連続の減少となる。2019年3月期の実績(653億9200万円)からも4分の3ほどのところに留まっている。

M&A Online

(画像=2024/3は予想、「M&A Online」より引用)

M&Aは買収先企業の業績によってはマイナスの影響を受けることがあるが、一方で売り上げや利益を一気に引き上げる効果もある。

海外を中心に積極的なM&Aを進める電通と、国内を中心に慎重なM&Aに取り組む博報堂。両社の成長スピードにはさらに開くことになるだろうか。

文:M&A Online