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(画像=株式会社エナリス)
都築 実宏(つづき さねひろ)
株式会社エナリス代表取締役社長
1988年第二電電株式会社(現:KDDI株式会社)入社。
企画・制度担当として通信ネットワークや通信自由化等に携わる。
2015年4月エネルギービジネス部長、2016年4月エネルギービジネス企画部長を歴任し、KDDIにおける電力事業(auでんき)の立ち上げに従事。
2020年4月にエナリス代表取締役社長に就任、現在に至る。
株式会社エナリス
2004年12月設立。本社は東京都千代田区。
創業事業の需給管理業務を強みに、発電から電力小売まで、電気のサプライチェーンに関わるサービスを幅広く展開。
電力事業のノウハウにIoTを掛け合わせ、法人の脱炭素推進を支援する”脱炭素ソリューション”を提供中。
KDDIのグループ会社、Jパワーの関連会社。

社長のこれまでの変遷について教えてください。

私が新卒として社会人をスタートしたのは、1989年に第二電電(KDDIの前身企業)という会社に入社した時でした。当時は通信の自由化が始まって4年目の年で、第二電電自体も非常に小さく、ネットワークを全国に広げていくというタイミングでした。私はそこで企画畑の仕事をしていて、特に通信の自由化に伴う制度関係の仕事を行っていました。

その後、FTTH事業(Fiber To The Home;光回線を自宅まで引く際の配線方式の一種)に携わってキャリアを積み、2010年にKDDIのコンシューマー事業部門の事業企画部長に就任しました。コンシューマー事業部門ではau事業や固定事業のお客様をターゲットとしながら、年間計画や中期計画の作成を行なっていました。そして、2016年の電力全面自由化が決まると、KDDIもこれに参入するため、2015年4月にエネルギービジネス部を立ち上げました。私は部長として電力事業の立ち上げに従事しました。これが今のauでんきサービスです。電力事業の立ち上げ時から、エナリスには電力の需給管理業務を委託しており、その関係性からKDDIが資本参加して、今ではエナリスの社長という立場でエネルギー事業を展開しています。

エナリスの社長に就任してからは、毎日楽しく仕事をしています。というのも、社員全員が真面目で、かつ社内を活性化させようという動きがたくさん見受けられ、非常に良い雰囲気の中で仕事に取り組めているという実感があるからです。エネルギー業界はここ2〜3年で事業環境が大きく変わり、当社も非常に厳しい状況でしたが、将来を見据えて事業を見つめ直す良い機会になったとプラスに捉えています。「脱炭素といえばエナリス」とお客さまから頼っていただけるような企業になることを目指して、新しい脱炭素ソリューションの開発に日々挑戦しています。エナリスが企業理念に掲げる「“当たり前”を変革する」精神で、脱炭素社会に貢献する新しいエネルギーソリューションを生み出し、提供していきたいと考えています。

一番感銘を受けた書籍とその理由は?

私が一番感銘を受けた書籍は、エイミー・C・エドモンドソン氏の『チームが機能するとはどういうことか』です。この本を初めて読んだのは2017年頃で、当時の本部長から、グループリーダー以上のメンバーでこの本について勉強しようと提案されたのがきっかけでした。数ヶ月間、週に1回のペースで皆で議論を重ねながら読み進めた1冊で、私にとって非常に思い入れのある本となっています。内容としては、組織の作り方やリーダーとしての在り方について書かれていて、その中に多くの事例が含まれており、それらの分析を基に結論が導き出されていて、学べることが多い本でした。

この本の中に出てくる「TEAMING(チーミング)」という言葉は、協働という意味を持つ造語です。協働するために重要なことが紹介されていますが、私が最も共感したのは“心理的安全”の重要性です。今では“心理的安全”の重要性についてよく耳にするようになりましたが、その当時の自分にとってはとても新鮮な気付きでした。心理的に安全な環境でなければ、メンバー同士が活発に議論を交わすことはできないですよね。活発に議論を交わせるようなチームでなければ、チャレンジやイノベーションは生まれません。心理的安全は、イノベーションを起こそうとしているエナリスに必要不可欠な要素だと思っています。他にも、組織は自ら学習すること、失敗から学び続けることについても言及されていて、自分の組織に対する考え方の基礎が形成されました。

同書では、リーダーのあり方についても書かれています。印象に残っていることは、メンバーがその組織以外の人と話せる環境を、リーダーが作りだす必要があるという点です。これは、社内においても、社外においても同じです。つまり、閉鎖的な組織ではなく、外に開かれた組織をつくっていくということですね。閉鎖することで組織を統治するのではなく、オープンな環境のなかで方向性を示すことが重要で、それが前向きに物事を進められる環境を作りだすと書かれています。とても参考になりました。ぜひ今後リーダーになる人には読んでほしいと思います。

読書はどのように仕事に生かせたでしょうか。

私は共に働くみなさんのことを「社員」と呼ぶのが好きではありません。同じ目標に向かって共に協力し合う仲間なので、「メンバー」と呼んでいます。メンバーと対話を通して物事を進めていくことが、『チームが機能するとはどういうことか』と書かれているとおり、意見を言いやすい環境づくりにつながっていくと思います。ですから、私から答えを示したり、指示を出したりすることはあまりしません。まずメンバーの意見を聞き、その上でヒントや方向性を示すようにしています。

株式会社エナリス
(画像=株式会社エナリス)

組織間の壁を取り払うことにも取り組んでいます。当社は元々、中途採用しかしておらず、採用された部署からの異動もほとんどありませんでした。そのため、どうしてもセクショナリズムが生まれてしまいます。セクショナリズムによる組織の壁が存在したままでは、横の連携が生まれにくくなり、当社の機会損失に繋がります。そこで、5年前から新卒採用をはじめました。新卒で入社した人が今では30名ほどになっており、全体の1割以上を占めます。入社すると、新卒メンバーは毎年5ヶ月間の研修を受けます。当社の理念の深掘り研修はもちろん、事業や組織を知ってもらうために全部署を順番に体験するOJTを実施しています。新卒入社だからこそ生まれる“同期入社”というつながりと、全社OJTをとおして生まれるタテのつながりと部署理解。これらを会得した新卒メンバーがさまざまな部署に散らばっていくことによって、部門間連携の起爆剤になってくれることを期待していますし、すでにその効果は現われはじめていると思います。

年に2回程度、それぞれの分野で高度な知識を持ったメンバーが講師となってノウハウを共有する「エナリス大学」の開催や、社内公募、広報部を中心とした社内コミュニケーション活性化のための活動など、組織の壁を取り払う仕組みを模索しています。

経営において重要としている考え方を教えてください。

まず大事にしていることは、「会社の方針を社内にしっかり示す」ことです。具体的には、四半期に1回、社内向けの決算発表を行ったり、年度計画や修正計画もその都度社内向けに説明会を実施したりしています。毎回事後アンケートを行って、寄せられた質問や意見にも丁寧に回答するようにしています。メンバーに会社の方向性を示すために行っている活動ですが、会社への踏み込んだ質問や今後の事業展開に関する質問をいただくことも多く、メンバーの生の声を拾い上げる良い機会にもなっています。

こうした活動で経営の透明性を高めることは、メンバーとの信頼関係構築にもつながると考えています。この「信用・信頼関係の構築」も、私がビジネスにおいて、また経営において重視していることの一つです。信頼関係がなければ、仕事を任すことはできませんし、任せられた人も信頼に応えようと頑張ることが難しくなります。逆に信頼関係があれば、問題が生じたとしても、前向きな対話によって解決策を見出すこともできます。方向性を示し、メンバーとの信頼関係を構築する。とてもシンプルなことですが、見落としがちで、実践するのは実は難しいことですが、心血を注ぐところだと思っています。

最後に、御社の未来構想やメンバーへの期待について教えてください。

株式会社エナリス
(画像=株式会社エナリス)

エナリスの長期ビジョンは、「エネルギープラットフォームのリーディングカンパニーになる」ことです。脱炭素と深く関わるエネルギー業界は、今、大きく変化しています。再生可能エネルギーが増えています。脱炭素経営を目指して、再生可能エネルギーへの切り替えや省エネを推進する企業も増えています。再生可能エネルギーが増えたことにより、蓄電池などの効率的な活用が必要になり、“アグリゲーション”という新しい事業分野も生まれました。取引形態も増えました。市場も増えました。これらの“登場人物”や“場”を有機的につなぎ、電力の安定供給に必要な機能やサービスを提供するプラットフォームを形成していきます。企業の脱炭素推進、脱炭素社会の実現に寄与するエネルギー分野のリーディングカンパニー、それがエナリスの目指す未来の姿です。

この未来を実現するためにも、「“当たり前”を変革する」という企業理念を全メンバーが体現し、ベンチャー精神を持ち続けることが大切だと考えています。メンバーが遠慮することなく自分の意見を出して、やりがいを持って仕事に取り組んでもらうためにも、メンバーから出てきたアイデアを実ビジネス化していける会社で在りたいと思います。

氏名
都築 実宏(つづき さねひろ)
会社名
株式会社エナリス
役職
代表取締役社長