この記事は2023年10月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「期限付き所得減税の論点整理」を一部編集し、転載したものです。


ポイント
(画像=78art / stock.adobe.com)

目次

  1. Q.減税規模は?
  2. Q.定率減税?定額減税?
  3. Q.いつから?
  4. Q.補正予算への影響は?
  5. Q.マクロ経済への影響は?
  6. Q. 給付との違いは?
  7. Q.防衛増税や扶養控除見直し議論への影響は?

岸田首相が期間限定の所得減税を検討するよう指示すると報じられている。検討段階ではあるが、実施される場合のイメージをQA形式で整理した。

Q.減税規模は?

不明だが、極端に大きなものにはならないとみる。政府は所得減税を「税収増の還元」と位置付けているが、この定義=金額がはっきりしていない。(22年度分?23年度見込分?合計?)。

従来の予算編成方法であれば、「当年度(今回で言えば23年度)税収の補正予算編成時点見込額-当年度税収の当初予算での見込額」を差し引いた額が上振れ分として補正予算(経済対策)に充当されてきた。今回、22年度税収が想定を大きく上振れたことで23年度見込み額も上振れする可能性が高く、この額は4~5兆円程度になるとみている。ただ、この額すべてが所得減税に充当されるわけでもないだろう。

ごく粗い試算だが、5000万人(2021年の給与所得者における源泉所得税納税者数が約4500万人、申告所得税納税者数が657万人)に1万円/年の定額減税を実施すると規模は5000億円/年。時限的措置としているスパンを3年程度で見るなら3倍で1.5兆円程度/3年が必要経費となる。

Q.定率減税?定額減税?

定率減税(所得税額の定率を減税する方式)と、定額減税(所得税から一定額を減税する)方式が主な検討対象となっている模様。所得減税は納税のない低所得者には恩恵がない。経済対策では低所得者向け給付も同時に実施することが想定されている。定率減税を選択すると高所得者の減税額がより大きくなりやすく、高所得者優遇との批判が生じそうだ。

この点で、一人当たりの所得減税額が低所得者向け給付を上回ることにならないよう配慮されるとみられる。そのため、定額減税型の方法が選択されやすいのではないか。なお、昨年経済対策の低所得者向け現金給付として、住民税非課税世帯に5万円を支給している。

Q.いつから?

平時のスケジュール感では期限付き所得減税は2025年以降の実施になる。所得税は暦年課税。24年1月以降の通常国会で成立する予算において、24年1月からの所得減税を決めることは基本的にできない。減税は24年度予算の中で行われ、24暦年途中での税制変更がなされる形になる見込み(よって24年4月以降、実際に家計に恩恵が及ぶのはさらにその先)。

Q.補正予算への影響は?

期限付き所得減税が目玉化することによって、相対的には23年度補正予算を縮減する要因になると考えられる。従来なら、給付金として補正予算として措置されていたであろう部分が当初予算に移る形になるということ。所得減税は経済対策規模(補正予算+当初予算)には計上されるが、23年度補正予算の増加要因にはならないと考えられる。

Q.マクロ経済への影響は?

コロナ時の一律10万円給付金のデータをもとにした論文(Kaneda et al.(2021))は、限界消費性向を6%~27%としている。GDP押し上げ効果は減税規模次第となるが、1兆円/年の減税を想定すると2割程度が消費に回るとして、0.2兆円/年の押し上げ効果となる。

Q. 給付との違いは?

先にみたように、減税は開始が遅れる点で即効性の観点では給付に分がある。期限付き所得減税が実現する場合、低所得者向けには給付で、低所得者以外には減税で家計支援が行われることになるが、給付では地方自治体など、減税では税務署などの対応が増えることになり、行政の手間は二重に増える。所得制限を設けない一律給付などとの組み合わせでよいのでは?という議論は出てくるかもしれない。

もっとも、近年経済対策で繰り返されている低所得者向け給付に課題は多い。住民税非課税世帯をその線引きとしており、給付の多くは年金所得者が対象となっていた。高齢者は所得が少なくとも資産を多く保有する家計が多い。消費喚起の観点では減税や給付金は消費喚起の観点では流動性制約に直面する家計(所得も保有資産も十分でない家計)をターゲットとすることが望ましいが、従来の低所得者向け給付がそれに対応できていたかは疑問が残る。

Q.防衛増税や扶養控除見直し議論への影響は?

足もとでは、所得税を含む防衛増税や児童手当拡充に伴う高校生期の扶養控除見直しの議論も同時並行している。期限付き所得減税+恒久的増税の組み合わせとなれば、期限付き所得減税は増税のためのバーターとして捉えられかねない。所得税の増税措置は進みづらくなるのではないか。

参考文献

Kaneda, M., Kubota, S. & Tanaka, S. Who spent their COVID-19 stimulus payment? Evidence from personal finance software in Japan. JER 72, 409–437 (2021).

https://doi.org/10.1007/s42973-021-00080-0

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 星野 卓也