筑波大学第二学群生物資源学類を卒業後、セプテーニ、ドリコムにて新規インターネットビジネスの立ち上げを手掛けたのち、サイズで悩まない社会の実現を目指し、2015年にメイキップを設立。
社⻑のこれまでの変遷について
大学卒業後に最初に入社したのは、ネットの広告代理店でした。当時事業部が2つあり、私が所属していたのは、DMの発送代行ビジネスでした。その後、新規事業を担当する部署で、成果報酬型広告を手がける子会社が設立され、私はそこからインターネット業界に足を踏み入れました。
新規事業をいくつか手がける中で、30歳で年収1000万円を目指していましたが、その会社に居続けても達成が難しいと判断し、27歳の時にドリコム社に転職しました。ドリコム社はもともとブログを手がける会社で上場も果たしていましたが、競争が激化して経営が苦しくなっており、立て直しの人材を募集していました。そこで、私は広告事業の営業部長として着任し、新たな事業としてソーシャルゲームの広告を立ち上げることになりました。現在も同社のメインビジネスであるソーシャルゲームの中で、リワード広告という形態の広告事業を担当していました。
その後、2015年に当社を創業しました。元々は起業しようとは全く考えていませんでしたし、自分の目標であった年収1,000万円は既に31歳頃に達成できていました。しかし、年収1,000万円を超えた頃からプレッシャーを感じることが多くなり、さらに次の目標をどこに置くべきか迷い始めました。お金を求めて働くのか、自分がやりたいことや楽しいことにフォーカスするのか、どちらが良いのか悩んでいました。そんな時期に、自分にとってやりたいことや楽しいことを追求した結果、新規ビジネスの立ち上げが楽しくて夢中になれることに気づきました。実際にこれまでの2社でいくつかの新規事業立ち上げに携わり、会社から権限や意思決定を与えられる機会が増えていました。それが自信につながり、独立して自分でビジネスをやってみようと決意しました。
社⻑の⼀番感銘を受けた書籍とその理由
私が一番感銘を受けた書籍は、リカルド・セムラー氏の『奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ』です。これは、大学時代から様々な本を読んできた中で、最も起業のきっかけになった本と言っても過言ではありません。
以前、ドリコムで新規ビジネスを担当していた時、経営が厳しかったため、管理に関してもマイクロマネジメントが求められていました。毎朝、営業マンの行動を確認し、夜にはその日の目標達成を確認するようなマネジメントを行っていた結果、組織は疲弊しガタガタになってしまいました。この経験から、1.各論でマネジメントをしていくと、メンバーが考える習慣が失われてしまうこと、2.上層部がすべて管理・コントロールすることで、組織の強みをいかせなくなってしまうこと、という二つを学びました。
そんな時に出会ったのが本書でした。著者であるリカルド・セムラー氏は、ブラジルの2代目の経営者で、商社に近いような会社を経営していますが、管理をしない、ルールを作らないという経営スタイルが注目を浴びており、この経営スタイルに当時強い衝撃を受けました。
読んだ書籍をどう仕事にいかしてきたのか
本書を読んだ際に、私が行っていたマイクロマネジメントとは真逆の経営が、ブラジルで実践されていることに驚き、それが自由奔放な国であるブラジルでできるのであれば、日本でもできるのではないかと思いました。また、自分で会社を立ち上げる際には、プロダクトとしても会社としてもチャレンジングなことをやりたいと考え、マネジメントは極力したくないし、ルールもなるべく作りたくないと考えていました。そもそもルールが必要な状況とは、ほんの一部の”悪い人”を規律する必要がある状況だと言えます。その”悪い人”さえ生まなければ、その他の真面目な人たちにはルールは必要ないのです。また、ルールのない組織には、情報の共有が必要不可欠になります。そのため当社ではルールや経営層及び管理者という概念自体はなく、上層部が情報を独占する状況はほとんどありません。効率的な経営のためにすべての情報をオープンにしています。実際のところ、会社のPLやBS、預金残高まで社員に公開しています。
多くの経営者は、こういった情報を隠したがる傾向がありますが、私はそれを不思議に思います。会社のキャッシュ残高や財務情報を隠蔽することで、やましい経営が行われているのではないか、という疑いを生みかねないと思います。私はそのような経営を望まないので、当社では情報をオープンにしています。
また、財務情報だけでなく、「今週の柄本」という社内メルマガを週に一度配信しています。ビジョンとバリューを大事にしたいという項目に沿って、今週あった出来事をもとに私が感じたことを皆さんに共有しています。それを読んでもらうことで、私の価値観や大事にしたいと思っていることが徐々に社内に浸透していくと考えています。
社⻑が経営において重要としている考え⽅
やはりルールのない中で重要なのは「自律自走する」ということです。しかし、多くの方がこの言葉に対して誤った認識をしているように思います。自律自走の意味は、一人で全てをやり抜かなければならないということではなく、他人に頼ることも聞くことも全く構わないということです。大切なのは、自分で考え、自分で動くことを意識することです。
この言葉の意味を考えて理解してもらうために、3週間に1度研修を行っています。研修では、「自律自走」に対するイメージを共有し、話し合いを行っています。この研修は、外部の講師を招くこともあれば、自分たちで行うこともあります。当社の文化として、何でも自分たちでやりたいという意欲があるため、研修自体もさまざまな方法で内省化して実施しています。実際、2021年のオフィス引っ越しの際には、設計やフローリングの張り替えを自分たちで考えて実践することで、結果的に2000万円ほどコストカットできました。コストカットだけではなく、自分たちで企画し実施することによって得られた気づきをビジネスに活用することができたり、オフィスへの愛着が生まれたりすると考えています。
また、ピラミッド型の組織を改革しようと考えています。現在は私がトップに立ち、その下に役員3人がいて、その下はフラットな組織構造をとっていて、正社員30人、アルバイトを含めると60人ほどの規模です。正社員が3人程度であれば、役員4人で十分に管理できますが、正社員が増えていくと、一人当たりの役員が見なければならない人数が数十人に広がっていくわけです。その結果、一人ひとりに対して十分な時間を割くことができず、メンバーが自分の成長やフィードバックを受け取れない状況になってしまいます。
そこで私が目指す組織像は、横のつながりを重視し、互いにフィードバックを行う組織です。通常、フィードバックは上から下へ流れるものですが、下から上へのフィードバックというのはなかなか行われません。日本では横へのフィードバックも少なく感じます。社長や役員はもちろん経営能力が高いので評価されるべきですが、それと同時に間違いに対しても指摘ができる組織が理想です。今よりさらに年長者や上司に対してもフィードバックができる組織を作りたいと考えています。そのため今いる社員には私や役員に対しても、どんどんダメ出しして欲しいと思っています(笑)。
思い描いている未来構想や従業員への期待について
現在、当社はサイズのレコメンドエンジンというサービスを提供しており、海外展開も進めています。そのため、今後は外国人人材の採用も積極的に行っていきたいと考えています。海外の方は、日本の儒教文化とは異なるため、横のつながりでフィードバックを行うことに抵抗が少ないと感じています。そのため、外国人を採用することで、私が目指している組織横断的なフィードバックが活発に行われ、スピード感を持って成長していく組織作りに近づけるのではないかと考えています。
また、従業員に対して期待することは、「自律自走」の実現もそうですが、私たちのモットーである「Make IT Possible」を体現し、不可能を可能にする姿勢を持ってほしい、ということです。そのためには、クリエイティビティが非常に重要であり、自分の頭で考え、ビジネスを創り出す力を発揮して欲しいと思います。
日本人は、社会のしがらみに縛られて生きていることが多いですが、現代社会はそういったものを取り払い、新しいことにチャレンジする姿勢が求められる時代になっています。これからは、さまざまな発想やクリエイティビティを持ち、試行錯誤を繰り返すことが強みになると考えています。従業員の皆さんにはこの先も、クリエイティビティを遺憾なく発揮し続けてほしいと思います。
- 氏名
- 柄本 真吾(つかもと しんご)
- 会社名
- 株式会社メイキップ
- 役職
- 代表取締役CEO