特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。今回は株式会社サイエンスアーツの平岡代表にお話を伺った。
創業から現在に至るまでの事業変遷
ーー 創業から現在に至るまでの事業変遷について教えていただけますでしょうか。
株式会社サイエンスアーツ 代表取締役社長・平岡 秀一氏(以下、社名・氏名略): 私たちは、2003年にITコンサルティング事業で創業しましたが、2015年からIP無線サービス『Aldio(アルディオ)』を開発し、その後、2021年にグロース市場に上場しました。
創業当初はITコンサルティング事業を行っていましたが、データベースの開発も合わせて行っており、途中でデータベース事業に方向転換しました。その後、データベース事業で売り上げが伸びましたが、2015年から、私が日立製作所社で元々プログラマーをやっていたこともあり、そこで身につけた開発スキルをもとに『Buddycom(バディコム)』の前身となるIP無線サービス『Aldio』という製品を作り始めました。
その後、『Aldio』への投資を始め、2018年から事業化をしました。2019年10月には「株式会社シアンス・アール」から「株式会社サイエンスアーツ」へ社名を変更し、サービス名も『Aldio』から『Buddycom』へと名前を変え、2021年にグロース市場に上場しました。
上場に至った背景や思い
ーー 激動の時代の中、貴社の上場に至った背景や思いについて教えていただけますでしょうか。
平岡: 私たちは、2017年に、銀行から上場を勧められたことがきっかけで上場を考え始めました。創業当初は全く上場することを考えていなかったのですが、大企業での製品導入が決まり、競合他社との差別化も明確になり始めていたので、銀行から上場を勧められました。さらに、成長率や差別化を考えると、投資をしてもいずれは黒字化もできる道筋が見えたことも一因です。
実際に、私たちが上場を決めた理由は2つあります。
1つ目は、ブランディング強化です。私たちのお客様は大手企業が多いのですが、当時、知名度がとても低かったので、上場を通して知名度と信頼性を向上させ、販促の強化を図りたいと考えていました。
2つ目は、採用強化です。優秀な人材を採用するには上場することが最短ルートだと考えていました。実際に上場後、販売パートナーでは全ての大手キャリアでお取り扱いいただけるようになったり、採用も順調に進むなど成功しました。 さらに、エクイティで調達した資金をうまく人材投資や知名度向上に活用することができました。一般的に知名度向上として考えられるようなテレビCMなどだけではなく、採用などの人材投資を積極的に行いました。上場を通じて、比較的大規模な資金調達をしていませんが、戦略をもとに規模に見合った投資ができたと思っています。
思い描く未来構想
ーー 次に、平岡代表が思い描かれている未来構想や事業戦略を教えていただけますでしょうか。
平岡: これからは2つの戦略を軸に事業を展開していきたいと思っています。
1つ目は、AIの活用です。現在、Buddycomを小売店舗などで導入していただいていますが、お客様にとって不明点がある場合、販売員に聞いたりと人のサポートが必要になっています。この人に頼るサポートをAIで代用できるようになれば、効率性・生産性が上がるだけでなく、人件費カットにも繋がると考えています。
2つ目は、中小企業へのマーケットシェアの拡大です。 自社製品を開発し営業をし始めた当初は大手企業の開拓に力を入れていましたが、これからは中小企業にも製品を展開していきたいと考えています。大手企業への導入は時間がかかるため、最初に大手企業を開拓することで、中小企業が安心して私たちのサービスを使ってくれると考えました。
しかし、中小企業のお客様を増やすためには、一定程度の知名度が必要だと考えています。大手企業は広告を出しても響かないことが往々にしてありますが、中小企業の開拓においては知名度が高いことが成約率を高めることに繋がることが多いので、今後は広告宣伝費用の投資にも取り組んでいくつもりです。
ファイナンスにおける課題や重点テーマ
ーー 金融・経済市場において、貴社または代表ご自身のファイナンスにおける課題や重点テーマを教えていただけますでしょうか。
平岡: 大きな話になりますが、金融市場において、日本人投資家の投資スタイルが課題であると考えています。日本では利益を重視し、短期的なリターンを求める投資家が多い傾向にあると思います。つまり、日本の投資家は、短期間での成長が見込めない企業には投資しない傾向があるとも考えています。
一方で、アメリカなど海外では長期的な視点を持って成長を重視する投資家が多いと感じています。そして、長期的な目線で投資を行う人は、投資対象である企業の企業価値の成長性を見て投資判断を行う傾向があると思っています。 上場してから、私は日本の投資家が短期的な利益を求めるということが日本企業の成長を妨げている可能性があるのではないかと感じました。
読者へのメッセージ
ーー 最後に、ZUU onlineの読者に向けたメッセージをお願いいたします。
平岡: 短期的な視点ではなく、長期的な視点で、当社に投資していただきたいと思っています。私たちのサービスは解約率が0.2〜0.3%、売上継続率は110%〜130%と、クラウドサービスの中でも成長が見込めるビジネスモデルになっていますので、長期的な視点で投資していただければと思っております。
- 氏名
- 平岡 秀一(ひらおか ひでかず)
- 社名
- 株式会社サイエンスアーツ
- 役職
- 代表取締役