特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
創業から上場までの事業変遷
ーー それでは、創業に至るまでの経緯について、お話しいただけますでしょうか?
ノイルイミューン・バイオテック株式会社 代表取締役社長・玉田 耕治氏(以下、社名・氏名略): 2015年に弊社を創業しました。私は、1992年に医学部を卒業した後、当初は医師として患者さんを診ていました。しかし当時は、今以上にがんに対する効果的な治療法がなく、多くの患者さんが亡くなるのを目の当たりにした経験から、がんの患者さんに新しい治療法を提供したいと考え、がんの治療法研究の現場へとキャリアをシフトしました。
1998年からは米国でがんの治療法の研究を始め、2011年まで約13年間、免疫の力を使ってがんを治療するがん免疫療法の研究を続けました。その後、帰国し、山口大学の医学部で研究を続けています。
米国では、研究者が新しい治療法を見つけるとすぐに会社を作ることがよくあり、私もいつか新しい治療法を見つけたら、会社を立ち上げて事業化し、患者さんに届けたいと考えていました。そのような経験をもとに、米国から帰国後の2015年に弊社の創業に至りました。
ーー 続いて、創業後、上場に至った経緯を教えていただけますでしょうか?
玉田: 米国から帰国後、様々な研究を行う中でがんに対する新しい治療法を考案し、免疫細胞の働きを強化させる技術を基盤に創業しました。その後、事業提携も順調に進み、臨床試験の開始も評価されたことで、2023年6月にグロース市場に上場することができました。現在ではさらに技術を広げており、開発した新しい技術や治療法を提携先の企業様に活用していただくことで対価を得るというビジネスモデルを展開しています。
上場を決断した時の思い
ーー 次に、上場を決断された時の背景や思いについてお聞かせいただけますか?
玉田: 上場の背景としては、会社の成長と資金調達という大きく2つの目的がありました。 技術開発や治療法研究においては多くの資金が必要であり、集めた資金をもとに、新しい研究や、医薬品の開発から承認までの各フェーズに投資をしていくことが成長には必要になります。そして、パイプラインや臨床試験数が増加し、製薬企業などとの事業提携が進めば、さらに利益を上げることができます。こうした先行投資を常に行う必要がある研究や創薬の領域ではIPOという手段が有効と考え、上場を決意しました。
今後の企業の方向性と展望
ーー 続いて、御社における事業戦略や将来の展望についてお聞かせください。
玉田: 技術研究や治療法開発をより一層推し進めることで、更なる事業拡大を目指していきます。
製薬業界やヘルスケア業界、バイオベンチャー業界には、非常に様々なプレイヤーが存在しますが、それぞれ得意分野があります。例えば、大手の製薬企業などは薬を作って販売することを得意としていますが、弊社のようなバイオベンチャーは新しい技術を作ることを得意としています。
そのため、弊社の役割は、最新の技術を創り、その技術を用いた治療法の臨床試験を進め、そのデータに基づいて技術の価値を証明することだと考えております。そして最終的には製薬企業と提携することで、より良い技術をより良い薬として患者さんに活用していただくことを目的としています。
そういった意味では、研究開発や臨床試験を重ね、技術力の向上及び技術による価値証明を進めていきたいと考えています。
今後の課題や重要テーマ
ーー 次に、現在御社が抱える課題や重点テーマについてお聞かせください。
玉田: 課題や重点テーマとしては大きく2つあります。
1つ目は、がんに対する効果的な治療法はまだまだ十分に開発されていないという現状です。 日本では、3~4人に1人の割合の方ががんで亡くなられているという現状があります。進行したがんは死亡率も高く、適切な治療手段がないケースが往々にして存在します。これは社会的に解決すべき大きな重要課題です。
それに対して弊社は、免疫細胞の働きを強化させる技術を用いた治療法を開発することで、この課題を解決しようと考えております。業界内でも世界トップレベルの技術を開発し続け、製薬企業に活用してもらいたいと考えています。現在は主にがんを対象としていますが、将来的にはがん以外の病気でも免疫治療や細胞治療で患者さんのためになる薬を作る技術を目指しています。
2つ目は、日本のバイオベンチャー企業は高いポテンシャルがあるにもかかわらず、投資家から十分な支援を受けることが出来ていないのではないか、という現状です。海外のベンチャーキャピタルなどには、ヘルスケアやバイオベンチャーの事業内容や特徴を詳しく理解しているスペシャリストが多く、長期的視点で大きな投資を行っています。一方で、まだ日本では積極的な投資が十分には行われていないと感じています。
日本のバイオ技術は世界トップレベルであり、最新の研究を進めている優れた研究者も多く存在していますが、医療分野に多額の投資を行っている欧米に追いつくためには、より多くの実績や成功事例を作っていくことが必要だと考えています。バイオベンチャーがよりチャレンジしやすい環境を作るために、日本の投資家やベンチャーキャピタルにもご支援をお願いしたいと思っています。
ZUU onlineユーザーへ一言
ーー 最後に、ZUU onlineのユーザーに向けて一言お願いします。
玉田: 弊社は、最先端の技術を駆使して免疫システムを強化することでがんに対する革新的な治療法を開発することを目指している会社です。そして、世界トップレベルの技術を持っていると自負しております。 弊社のミッションはこれらの技術を活用して、がんを克服できる社会の創生に貢献することであり、ビジョンとして一刻も早く有効性・安全性の高い医薬品を患者さんに届けることを目指しています。 どうか、今後も弊社にご期待いただければと思います。
- 氏名
- 玉田耕治(たまだ こうじ)
- 社名
- ノイルイミューン・バイオテック株式会社
- 役職
- 代表取締役社長