本記事は、ひきたよしあき氏の著書『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

言葉
(画像=andreaobzerova / stock.adobe.com)

できるだけ「自分らしい言葉」を使う

ハッとする言葉に出会うことがあります。

先日、ある人と話をしていたときに、彼女が発した言葉もそうでした。

「笑顔とは、あふれ出た『イイね』の気持ち」

おー、名言! 心に響いたので、さっそくメモさせてもらいました。

ちなみに、同じようなことを表現しようとして、こう言っていたらどうでしょうか。

「笑顔とは、にこにこと笑った顔です」

こちらだと、心に響いてきません。そりゃそうだよね、という感じでしょうか。

この2つの言葉、違いはどこにあるのでしょうか。

  • 「笑顔とは、あふれ出た『イイね』の気持ち」
    →「笑顔」の意味を、自分らしい言葉(個性的な表現)に置き換えている
  • 「笑顔とは、にこにこと笑った顔です」
    →ただ笑顔の意味を説明している

単に、意味を説明したり解説したりするよりも、自分らしい表現で伝えたほうが、より相手の心に伝わりやすいということです。

では、「自分らしい言葉」って、どういうものかを考えてみたいと思います。

以前、私が入院していたときのことです。同室の患者さんと看護師とが話していました。

その患者さんは、手術から数日が過ぎていて、だいぶ体調も回復してきたのか、会話でも時折、笑い声も混じるようになっていました。

そのとき、看護師さんが、患者さんにこう言ったんです。

「いいですね。元気っていうのは、笑えることだから」

横で会話を聞いていた私にも、ビビッと刺さった言葉でした。もちろん、すぐメモしました。

この言葉は、きっと看護師さんの経験から出てきた言葉です。「元気」と「笑う」とは、正確にはイコールの言葉ではないですが、こう表現することで、とても伝わる言葉になりました。看護師さんの気持ちがよく表れています。

では、こんな自分らしい言葉を、どうやって生み出せばいいでしょうか。

ひとつコツがありますので、紹介します。

それはあるテーマを「言葉のマグネット」にして、自分の思いや言葉を集めるという方法です。

「言葉のマグネット」をつくる

谷川俊太郎さんの詩に「生きる」という作品があります。

「生きているということ」

からはじまり、谷川俊太郎さんが「『生きる』とは、どういうことなんだろう?」

と思ったことが、たくさん書かれている詩です。

私は、これにならって、大学で教えている学生たちに、「あなたにとって、『生きる』とはどういうことか」を書いてもらいました。

生きること、今生きているということ
髪をむすぶこと
誕生日がくること
推しがいること
誰かと笑いあえること
知らないものに出会うこと
自分の機嫌を自分でとること
写真が増え続けること
「会いたい」と思うこと
日常に戻るということ

などなど、たくさんの「生きる」ことへの解釈が出てきました。辞書の意味とは、どれも違います。

しかし、「生きる」という言葉をマグネットにして、そこに吸い寄せられる思い、浮かんでくる情景、経験、考えなどの言葉の群れが、ほかの人には語ることのできない「あなたの言葉」になるわけです。

どうでしょうか? これならば簡単にできそうじゃないでしょうか。

難しく考えなくてもいいです。思いつくままに、言葉を書き出せばいいのです。

たとえば、こんなタイトルならばどうでしょうか。

今、私の目の前にある「モノ」
使い慣れたシャープペンシル
まだ湯気の出ているコーヒーカップ
JAZZが流れているということ
エアコンの音がうるさいということ

思いつくままに書いているだけです。しかし、選んだものに、私だけのオリジナリティが出ています。

こうして、ひとつのテーマに対し、自分の思いを集めることをやっていると、会話の際にこんな言葉がふっと出てくるようになります。

「なんだか、つらいよなぁ。生きていくのが嫌になるよ」

と言う相手に対して、

「そうだなぁ。でも、生きるってさ、完璧にはなれないってことだと思うよ」

なんて言えるようになる。

もしくは、「『推し』がいることこそ、生きることだよ。あなたには推しがいるんだからそれが支えになるはず」なんてことも言えるかもしれません。

ほかにも、たとえば「仕事」を言葉のマグネットにして思いや言葉を集めておく。

仕事をすること、今仕事をすること
やるか、やらないか決めること
今、パソコンを開くこと
SNSをやめること
第一印象をよくすること
変化し続けること
「生活」と同じ意味

これも、学生に書いてもらったものです。こういう言葉をストックしておけば、仕事相手との雑談の中で、

「仕事ってのは、終わりを決めることだよな」

なんて、ふっとつぶやけるようになる。

もちろん、「名言」になってなくてもOKです。すぐに素敵な言葉を思いつくことは簡単じゃありません。まずは、自分の心の声に正直になることです。

また、もし名言をつくりたいというときは、世の中にすでにある名言を参考にするのがいいと思います。

「世の既成概念を破るというのが、真の仕事である」(坂本龍馬)

こうした名言を検索し、あなたの「言葉のマグネット」にストックしておいてください。

ゲーム感覚でよいのです。楽しみながら、自分の雑談力を上げる言葉を増やしていきましょう。

大切なのは、ふだんから「自分の心の中にあるもの」を、できるだけ言語化し、そうした言葉を意識してストックしておくこと。

そして、それを習慣化すること。

これを続けていけば、必ず、それを使うときがやってきます。

ポイント
ひとつの言葉に、自分の経験や思いを吸い寄せる「言葉のマグネット」をつくって、自分らしい言葉を増やしていく。
雑談が上手い人が話す前にやっていること
ひきた よしあき
コミュニケーション コンサルタント。スピーチライター。大阪芸術大学芸術学部放送学科 客員教授
早稲田大学法学部卒業。
博報堂に入社後、クリエイティブディレクターとして数々のCMを手がける。
政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動し、幅広い業種・世代の価値観、世代間のギャップ、言葉遣いの違いなどを分析し、コミュニケーション能力が高まる方法を伝授する。
また、大阪芸術大学、明治大学、慶應MCCなどで教え、「はじめて『わかった!』と心の底から思えた講義」「一生ものの考える力が身につく」と学生や社会人から支持を集める。
教育WEB「Schoo」では毎回事前予約が約20,000人、朝日学生新聞社「みんなをつなぐ新聞WEB」では、毎回1,200人近い子どもと保護者が参加する人気。
著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)、『大勢の中のあなたへ』(朝日学生新聞社)、『トイレでハッピーになる366の言葉』(主婦の友社)など。

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