本記事は、ひきたよしあき氏の著書『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

雑談
(画像=buritora / stock.adobe.com)

「決めつけバイアス」が相手の話す気持ちをそいでいる

関西出身の知人からこんな愚痴を聞きました。

「自分が関西人だからというだけで、『この人は面白い人に違いない』『話にはオチを求めているはずだ』みたいな決めつけをよくされる。自分はそういうタイプの人間じゃないし、オチなんかつけられないから、会話がストレスになることがある」

当然のことながら関西人全員が、話に面白いオチをつけるわけではありません。

なのに、
関西人=面白い
関西人=オチを求める
のような決めつけをしてしまう人がけっこういるようです。

こんな決めつけが、相手を「会話が苦手」に仕向けている可能性があります。

「あの人は、北国の生まれだから、口数が少ない」
「育休から戻ったばかりなのに、きつい仕事をさせるのはかわいそうだ」
「君の将来のためにも、そろそろ身を固めたほうがいい」

こんなふうに、なんでも決めてかかる人がいます。

しかし、これは一方的な決めつけ。目の前の相手が、あなたの考えた通りに思っていたり、必ずしもそういう人物だとは限りません。

その無意識の決めつけによる発言が、知らず知らずのうちに、相手にストレスを与えたり、傷つけたり、怒らせたりしているかもしれません。

無意識のうちに決めつける。思い込む。これを「アンコンシャス・バイアス」と言います。

これは、お互いに気持ちよく雑談をするうえでの障害になり得ます。

誤解を生む4つの「決めつけ」バイアス

アンコンシャス・バイアスの中でも、よくやってしまう典型的な4つを紹介します。

自分にこの傾向がないか、チェックしてみてください。

1. 固定観念や思い込みで決めてかかる(ステレオタイプ)

偏見、差別を生む土壌になりがちな考え方です。


「東大卒だから、彼は頭がいい」
「彼女は、東北出身だから無口だ」

2. よかれと思って言ってしまう(慈悲的差別)

相手のためを思って言ったことが、まったく相手の望んだことではない場合があります。


「ママは、ずっとあなたを見てきたの。芸人なんて向いていません!」
「あなたはまだ入社したばかりだから、軽い仕事をやればいいよ」

3. 自分の正当性を証明しようとする(確証バイアス)

自分に都合のいいデータを収集して、都合の悪いものは無視する。


「山田部長も私と同じ意見だ。A案のほうがいい」
「佐々木はラグビー部出身だから、このくらいの仕事は耐えられるはず」

4. 成功例の押しつけ(成功者の経験)

自慢話によくあるパターン。成功者の経験を例にあげて、「あなたにもできる」と言ってくる。精神論を語る人にありがち。


「私も必死に勉強して資格に合格したんだ。きみにだって絶対できるよ」
「輝かしい歴史と伝統のある我が社だ。この危機も乗り切れる!」

いかがでしょうか。こうしてみると、自分でもついついやってしまっていることはないでしょうか。

また、周りにもこういう話し方をしている人がきっといるんじゃないでしょうか。

このアンコンシャス・バイアスの怖いところは、「無意識に(アンコンシャス)」やっていることです。言っている本人は、まったく気づいておらず悪気がないのです。

だから、なかなか自分では気づくのが難しいんです。

では、そんなアンコンシャス・バイアスをなくすには、どうしたらいいでしょうか。

「決めつけ」バイアスから逃れる方法

アンコンシャス・バイアスを克服する方法は、シンプルです。

「私の発言にも、必ずアンコンシャス・バイアスが含まれている」と意識することです。

具体的には、先ほど紹介したアンコンシャス・バイアスの4つの典型パターンの逆を考えればよいのです。

たとえば、次のことに注意してみてください。

A=Bの精神を疑う

「Aは必ずBと言えるのだろうか?」と、一度頭の中で考えるクセをつけましょう。

「Aだから、Bである」「AはBである」という話し方は、一見シンプルでわかりやすいもの。わかりやすくて、パワーがある言葉なので、動画サイトのサムネイル画像などによく使われます。

しかし、普遍的な真理でない限り、断定的な言い方は、なかなかできないものです。

たとえば、「水は液体である」は断定できます。

しかし「水は冷たいものである」とは必ずしも言えません。

ほかにも、「英文科を卒業しているので、英語が得意なはず」ということも、必ずしも言えません。

本当に相手のための発言になっているかを疑う

よかれと思って言ったことが、相手の望んだことではないこともあります。これは、いったん、その人の気持ちに立たないとわからないことです。

たとえば、親が子どもに対して、「あなたのことは、私が一番わかっている」と思い込んでいることがあります。

会社で、上司が部下に対しても同じようなことをしてしまうのはよくあります。

このような決めつけをいろいろなところでしていないか、発言する前に、考えてみてください。

自分の主張が公平な意見かを疑う

自分の都合のよい情報を集めて、言いたいことを言おうとしていないか。

俯瞰ふかんして自分の意見を眺めてみてください。

自分の都合のいいように、何も関係もないもの同士を結びつけて、「AはBである!」と主張する。ここには自分を正当化しようとする「確証バイアス」がかかっています。

これは、仕事で成果などを分析するときに陥りやすいパターンです。

たとえば、
「この日は暑かったので、かき氷が飛ぶように売れた」
という分析は、すっと理解できるし、正しいかもしれません。

一方、
「500円のかき氷より1,000円のかき氷が売れたのは、猛暑が原因」
という分析は、正しいとは言えませんよね。

本当にそうだろうか、と自分の考えを疑い、見つめ直してみることが大事です。

例として取り上げたことが、言いたい事柄を証明してくれるか、疑う

「AはBだった。だから、CもBである」

という意見は、「A=C」ということを証明できないとそう言えません。

AとCの関係を述べずに、C=Bとするのはかなり乱暴です。

論理的に証明できる話か、元の例文に戻って見てみましょう。

「私も必死に勉強して(A)資格に合格したんだ(B)」と「きみにだって(C)絶対できるよ(B)」と言う発言は、まさにこれです。「私が必死にした勉強量」と、「きみが今からがんばる勉強量」が同じであるという前提に立っていますし、2人の能力やスキルも違うはずです。同じ条件とは言えませんね。

くり返しますが、ポイントは「自分の中の決めつけ、思い込みがないか疑うこと」

雑談の際も、「あれ? これはもしかすると、私の偏見かも」と思うクセをつけてください。

いつも、そういう視点でものを見て、発言できる人は、相手からも話しやすい人になるはずです。

ポイント
自分の中に決めつけや思い込みがないかを疑うクセをつける。
雑談が上手い人が話す前にやっていること
ひきた よしあき
コミュニケーション コンサルタント。スピーチライター。大阪芸術大学芸術学部放送学科 客員教授
早稲田大学法学部卒業。
博報堂に入社後、クリエイティブディレクターとして数々のCMを手がける。
政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動し、幅広い業種・世代の価値観、世代間のギャップ、言葉遣いの違いなどを分析し、コミュニケーション能力が高まる方法を伝授する。
また、大阪芸術大学、明治大学、慶應MCCなどで教え、「はじめて『わかった!』と心の底から思えた講義」「一生ものの考える力が身につく」と学生や社会人から支持を集める。
教育WEB「Schoo」では毎回事前予約が約20,000人、朝日学生新聞社「みんなをつなぐ新聞WEB」では、毎回1,200人近い子どもと保護者が参加する人気。 著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)、『大勢の中のあなたへ』(朝日学生新聞社)、『トイレでハッピーになる366の言葉』(主婦の友社)など。

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