この記事は2024年2月23日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「閑古鳥鳴くスタジアムをよみがえらせたDeNAマジック」を一部編集し、転載したものです。


閑古鳥鳴くスタジアムをよみがえらせたDeNAマジック
(画像=StoneShoaib/stock.adobe.com)

(NPB公式サイトほか)

プロ野球のオールドファンからしたら、あの横浜スタジアムをファンが埋め尽くし、ユニフォームでブルーに染まる光景を想像することができただろうか。2011年シーズンにおける横浜ベイスターズの観客動員数は、1試合当たりの平均で1万5,000人程度と12球団最下位で、前年比91%まで落ち込んでいた。座席稼働率は約50%にとどまり、一部の人気球団との試合以外では閑古鳥が鳴く状況だった。

この年の横浜ベイスターズの売上げ52億円に対して赤字は24億円という悲惨な経営状況。そのような不人気球団を11年11月に買収したのが、当時携帯電話向けゲーム配信の国内最大手だったディー・エヌ・エー(DeNA)だった。

DeNAが最初に着手したのが「顧客情報の収集」。「ベイチケ」という自社サイトでチケットを割引販売や先行販売することで購入者情報を収集・分析した。分析結果から、集客ターゲットを「仕事終わりに飲みに行ったり、休日も余暇を楽しんだりする20代後半から30代のサラリーマン層」に絞り込み、その層を「アクティブサラリーマン」と命名。アクティブサラリーマンとその家族にウケが良いと思われるイベントやサービスを企画するたびにPDCAを回し、集客にいそしんだ。

すると、14年シーズンのチーム順位は5位と振るわなかったが、1試合平均の観客動員数は2万人超えを達成した(図表)。さらに、DeNAは16年1月、球団が球場の運営会社に高額な使用料を支払い続けていることや球団に球場内収入が入ってこないことなど、懸案だらけだった横浜スタジアムの運営会社を買収し、球団と球場の一体経営を実現させた。これにより、球場内の売店の売上げや広告収入も球団の収益となった。そして、16年には球団の総売上げが100億円を超え、ついに球団単体での黒字化を達成した。

毎年開催される「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」といった野球を知らなくても楽しめる各種イベントや、おいしい球場グルメを開発しファンを取り込んだ。そうすることでスタジアムを埋め尽くし、そこで得た収益をチーム強化につなげるサイクルを創り上げた。

スポーツビジネスの本場・米国においても「競技やそのチームを好きな人は全体の3分の1」「競技やチームも好きでさらにスタジアムやアリーナに来ることも好きな人が3分の1」「残り3分の1は競技やチームに興味がないけれどスタジアムやアリーナに来るのが好きな人」という分析がある。「球場は野球を楽しむ場所」という固定概念を取り除き、いかに「コミュニティスペース」に根差した経営ができるかに、日本のスポーツビジネスは立脚すべきだろう。

閑古鳥鳴くスタジアムをよみがえらせたDeNAマジック
(画像=きんざいOnline)

江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年2月27日号